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勇者パーティーの背景係  作者: 真咲


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18話 均衡の代償

 遠征隊は森の細道を進んでいた。

 

 私は最後尾の補給馬車の横を歩いている。

 揺れる荷物を押さえながら、周囲を警戒する兵士たちを見ていた。


 森の奥で、枝が折れる音がした。

 

「敵襲!」

 

 魔物が飛び出す。

 予定外の敵に隊列が崩れた。

 

 勇者アルトさんが前へ出る。

 聖女エリシアさんが祈りを構える。

 

 戦闘は始まった。

 

 けれど……どこか、おかしい。

 

 魔物の動きがぎこちない。

 まるで何度も進もうとして、押し戻されているような。

 

 兵士の剣が外れる――はずだった瞬間。

 軌道がわずかに変わり、命中する。

 

 倒れるはずの兵士が、偶然足を滑らせて攻撃を回避する。

 

 偶然。

 偶然。

 偶然。

 

 重なりすぎている。

 

 私は無意識に荷台へ手を置いた。

 

 ――崩れないで。

 

 そう思った瞬間。

 荷物が揺れを止めた。

 

 同時に――空気が、軋んだ。

 

 耳鳴り。

 視界の歪み。

 

 世界そのものが、軋むような感覚。

 

 次の瞬間。

 魔物の動きが完全に止まった。

 不自然な静止。

 

 そして――何も起きなかったかのように、崩れ落ちた。

 

 戦闘終了。

 

 誰も死んでいない。

 本来なら、犠牲が出ていたはずなのに。

 

 兵士たちは歓声を上げる。

 

「奇跡だ!」

「被害ゼロだぞ!」

 

 けれど、私は寒気を感じていた。

 

 遠くで、ノアさんが空を見上げている。

 その表情は――喜びではなかった。

 

 確信、だった。

 

「……失敗したのか」

 

 誰にも聞こえない声で、彼が呟く。

 

 世界はいつも通り進んでいる。

 

 なのに、その日初めて。

 

 “予定通りにならなかった”。

 

 森の風が止む。

 見えない何かが、こちらを見ている気がした。




 翌日の朝は、穏やかだった。

 

 遠征隊は森を抜け、なだらかな平原へと出る。

 空は澄み、風も弱い。行軍には理想的な日和だった。

 

 なのに、胸の奥がざわついている。

 

 私は補給馬車の荷台を整理しながら、何度も手を止めてしまった。

 

 音が、少ない。

 兵士たちの足音が妙に揃いすぎている。

 鳥の声が途中で途切れる。

 

 世界が、滑らかすぎる。

 

「……リナ」

 

 振り向くと、ノアさんが立っていた。

 その表情は静かだが、目だけが鋭い。

 

「今日は中央から離れないように」

「何かあるんですか?」

 

 ほんの一瞬、彼は答えを迷った。

 

「……可能性の問題だ」

 

 それ以上は語らなかった。

 その直後。


 ――修正開始

 

 視界が、途切れた。

 瞬きのような断絶。

 

 次の瞬間、兵士の位置が微妙に変わっている。

 馬車の角度も違う。

 

「……今、」

 

 誰も気づいていない。

 

 空気が沈む。

 風が止まり、音が消えた。

 

 嫌な予感が背筋を這う。

 

 ――ドン。

 

 前方の地面が突然崩落した。

 

「落盤!!」

 

 悲鳴。

 兵士が三人、地面と共に落ちる。

 

 助けようと駆け寄った兵士の足元が滑る。

 本来なら崩れない硬い地盤だった。

 

 さらに、馬が突然暴れた。

 理由もなく怯え、荷車を引き倒す。

 

 積まれていた箱が崩れ、兵士の一人を直撃する。

 

 鈍い音。

 動かない。

 

「医療班!!」

 

 叫び声が飛び交う。

 

 事故が、止まらない。

 

 剣が鞘から抜け落ちる。

 盾の留め具が同時に外れる。

 足を取られる者が続出する。

 

 偶然にしては――多すぎる。

 

 私は息を呑んだ。

 

 頭の奥で理解してしまう。

 これは戦闘じゃない。

 

 “奪い返されている”。

 

 無意識に願っていた。

 

 ――崩れないで。

 ――誰も死なないで。

 

 その瞬間、落ちかけた荷台が止まる。

 兵士の体が引き戻される。

 

 だが――世界が、激しく軋んだ。


 ――修正開始

 

 耳鳴り。

 視界の歪み。

 

 次の瞬間。

 遠方の地面が爆ぜた。

 

 石片が飛び散り、兵士たちを襲う。

 

 一人。また一人。

 倒れていく。


 悲鳴が、連鎖する。

 

 私は凍りついた。

 助かったはずの場所で、別の誰かが倒れていく。

 

 まるで、数が決まっているかのように。

 

「……やめて」

 

 声が漏れる。

 

 その時、光が降りた。

 エリシアさんの祈り。

 

 柔らかな光が広がり、暴走していた空気を押し戻す。

 

 重圧が、少しだけ弱まった。

 

 ノアさんが低く呟く。

 

「……均衡を取ろうとしている」

「え……?」

「独り言だ」

 

 やがて揺れは収まった。

 

 静寂。

 

 残ったのは、横たわる兵士たち。

 

 

 三人が即死。

 二人が重傷。

 軽傷者多数。

 

 理由の説明できない事故の連鎖。

 誰も理解できないまま、処理だけが進んでいく。

 

 私は立ち尽くした。

 

 昨日、守られた命。

 今日、失われた命。

 

 胸の奥で、確信に近い恐怖が芽生える。

 

 世界は――優しくない。

 

 風が吹き始め、行軍再開の号令が出る。

 何事もなかったように。

 

 ただ一人、ノアさんだけが空を睨んでいた。

 まるで、見えない何かと対峙するように。

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