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火葬師ダルス   作者: マーたん


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火葬5

 火葬師ダルスの炎は、終焉の火ではなかった。


 灰は消えていたのではない。

 送り込まれていた。


 知らぬまま果たし続けていた役目。

 削ぎ落としてきた感情。

 空洞となった心。


 そのすべてが「門」としての条件だった。


 そして今、境界は決定的に歪み、

 火葬場は帰還を望むものたちの気配で満ちていく。


 『火葬師ダルス』第五幕。

 開かれた門が意味するものは、救済か、それとも――。

 最初から――開いていた。


 その言葉は、ダルスの内側で何度も反響していた。


「……そんなはずが……」


 視線の先。

 炎の向こう側に滲む暗闇。


 それは裂け目ではなかった。

 扉でもない。

 境界線ですらない。


 ずっとそこにあった「穴」だ。


 見えなかっただけ。

 認識できなかっただけ。


 ダルスの喉がひくりと震える。


「俺は……ただ火葬を……」


「違う」


 少女の声が重なる。


 静かで、揺るぎない断定。


「あなたは“送っていた”」


 影の群れが暗闇へ流れ込んでいく。

 終わりなく。尽きることなく。


 火葬場は依然として燃えている。だが崩れない。焼け落ちない。

 この空間そのものが、既に現実から切り離されている。


「灰はね」


 少女が炉へ歩み寄る。


「消えていたんじゃない」


 炎が割れる。


 炉の奥――本来なら灰が溜まるはずの場所。


 そこには。


 底がなかった。


 暗闇。

 深淵。

 果てのない「落下」。


 ダルスの背筋が凍りつく。


「……馬鹿な……」


 何百、何千という火葬。

 そのすべての灰が。


 この中へ?


「あなたの火は」


 少女が振り返る。


「門だった」


 理解が拒絶する。


「門……だと……?」


「火葬師」


 少女の瞳が赤く光る。


「それは職業じゃない」


 炎が強く脈打つ。


「役目」


 その瞬間。


 ダルスの足首を縛っていた冷気が消えた。


 立てる。


 だが、立ってはいけない気がした。


 本能が警鐘を鳴らす。


「やめろ……それ以上語るな……」


 聞いてはならない。


 知ってはならない。


 火葬師としての世界が、完全に壊れる。


 少女は構わず続ける。


「終わりきれなかったもの」


 影がざわめく。


「砕けた魂」


 炎が唸る。


「こぼれ落ちた“何か”」


 そして。


「それらを向こう側へ押し流す存在」


 少女の指が、ゆっくりとダルスを指し示す。


「それが火葬師」


 ダルスの呼吸が止まる。


「……俺が……?」


「あなたが」


 否定しようとした瞬間。


 強烈な違和感が胸を貫いた。


 思い返せば。


 確かに奇妙だった。


 灰の量。

 骨の残り方。

 説明のつかない微細な差異。


 だが「そういうものだ」と処理してきた。


 深く考えなかった。


 考えてはいけなかった。


「火は、選ぶ」


 少女の声が低く沈む。


「誰でも門になれるわけじゃない」


「……なぜ俺なんだ……」


 掠れた問い。


 少女の表情から、微笑みが消えた。


「空だから」


 ダルスの心臓が強く跳ねる。


「あなたの中が」


 炎が揺れる。


「何もなかったから」


 その言葉は刃だった。


 火葬師として生きるために削ぎ落としてきたもの。


 感情。

 執着。

 恐怖。

 後悔。


 灰だけを信じるために、意図的に空洞にしてきた心。


「……俺は……」


「だから繋がった」


 少女が囁く。


「最初の火葬で」


 記憶が閃く。


 見習い時代。

 あの焼け残った少女。


 全ての始まり。


「あなたはあの時」


 少女の赤い瞳が細められる。


「門として“固定された”」


 火葬場の炎が爆発的に膨れ上がった。


 暗闇の深淵が脈打つ。


 影の流れが加速する。


「そして今」


 少女の声が響く。


「完全に開く」


 ダルスの背後で、何かが軋んだ。


 振り向いた瞬間。


 彼は凍りついた。


 火葬場の壁一面に。


 無数の「顔」が浮かび上がっていた。


 焼かれた者たち。

 送られたはずの存在。


 灰になったはずの痕跡。


 それらが、こちらを見ている。


「帰り道が……できた……」


 重なり合う声。


 囁き。

 笑い。

 歓喜。


 ダルスは理解する。


 自分は門だった。


 だが。


 門は、開く方向を選べない。

 『火葬師ダルス ― 火葬5』を読んでくださり、ありがとうございます。


 今回の話では、物語の核心となる設定――

 「火葬師」という存在の本質へ踏み込みました。


 火葬という行為の裏側。

 灰の行き先。

 そしてダルス自身の在り方。


 恐怖の源を怪異から構造へ移し、

 世界観そのものに不穏さを浸透させる段階に入っています。


 門であることは祝福なのか、呪いなのか。

 帰還しようとするものたちは何なのか。

 少女は何を望んでいるのか。


 続く「火葬6」では、ついに“向こう側の意志”が明確に姿を現します。


 よろしければ、引き続きお付き合いください。

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