44、第二次大高城の戦い④
梶川軍の急旋回に神谷軍はついていけなかった。物見はそこそこに進軍を急いだのが致命傷だったかもしれない。
神谷軍の先鋒が崩れると、梶川軍からは三輪次郎兵衛が果敢に攻め込んだ。
「敵は崩れたぞっ、勝ちは我らにありっ、それ、行けぇえぇーーーーーーーーっ」
三輪次郎兵衛が采配を振ると梶川軍自慢の猛者たちが騎馬を駆って突撃する。
「神谷軍、口ほどもなしっ」
次郎兵衛が槍を高く掲げて大笑する。神谷軍は悲鳴を上げ、逃げ出す者もいる有り様だった。
「狙うは本陣ぞっ、ウォォォーーーーーっ」
次郎兵衛は馬腹を蹴る。馬の嘶きと共に愛馬は駆け出した。
梶川平九郎は馬に乗ったまま、微動だにしなかった。隣にいた桑山修理大夫も息を飲む。
弓矢の音が聞こえる。よく動いた。良く走った。修理大夫は主君の顔色を窺う。気難しくはない。ただおおらかで根性はある。人に慕われる器だ。
神谷軍は持ちこたえている。さすがに神谷助兵衛だ。修理大夫は頷く。
「修理大夫よ。崩せるか」
主君の問いに修理大夫は待ってましたとばかりに返事をする。
「御意!」
「いい返事じゃ。任せたぞ」
修理大夫は馬を駆け出す。自分の部隊のところに向かう。敵本陣が狙いだ。修理大夫の口元は自然に綻んでいた。
「それがし、神谷家家老、饗庭治部と申す! 祖は足利尊氏に仕え、その勇武を誇った。いざ尋常に勝負!」
髭を生やした勇ましい中年の男が長槍を抱えて、相手を挑発する。相手は三輪次郎兵衛である。次郎兵衛は目を細め、にやりとする。
「おお、神谷家にその人ありと知られた饗庭治部殿、それがし三輪次郎兵衛と申す! 槍合わせ願いたし!」
饗庭治部は首を傾げる。
「聞いたことがないわ。まあ良い、斬り捨てるぞ」
戦う前から饗庭治部からは自信が漲っていた。治部には長年神谷家を支えてきた自負がある。相手は無名の武将、何するものぞ、と気迫があった。
周りは騒がしい。
「治部殿、頑張れ!」
「そいつを討ち取るのじゃ!」
治部を応援する声が上がる。神谷家家臣たちに勝利であるかのような緩んだ空気が生まれた。
ガキンっ。
二人が交わる。馬の嘶きが静寂を破った。動いたのは治部の方だった。
ぐらりと倒れた体が馬の背に当たる。
「死んではおらん。安心せい」
悠然と次郎兵衛が言葉を放つ。右手に槍をもっているが左手には隠し持っていた刀があった。左手の盛り上がった筋肉を見せ付けながら次郎兵衛は会心の笑みを浮かべるのだった。




