43、第二次大高城の戦い③
神谷助兵衛の本陣は重苦しい雰囲気に包まれていた。大高城の南に大高台と呼ばれる地がある。助兵衛はこの地を本陣に選んだ。奇襲を警戒してのことだが、いざという時の逃げ場所を確保したのだ。
「水野左近大夫様の軍、崩れました」
使番の口上に思わず立ち上がる。助兵衛は軍配をギュッと握る。太田、水野の両軍が崩れた。残るは久松、浅井、川口……そして中山軍である。
「助兵衛殿、後詰めじゃ。この七郎左衛門に任されよ。必ずや梶川平九郎、蜂屋兵庫を討ってみせようぞ!」
稲生七郎左衛門が立ち上がって吠える。助兵衛はジッと黙っていた。
「……早まるな。七郎左衛門、そなたまで失いたくはない」
「何を弱気な! 助兵衛殿、しっかりするのじゃ!」
七郎左衛門の檄に助兵衛はふらふらと立ち上がる。
「七郎左衛門、ここに留まれ。俺が、本陣が出る。狙うのは岡田助右衛門の首よ。童子など捨て置け!」
「助兵衛殿、待て。ここはそれがしが……」
助兵衛は笑顔になる。吹っ切れた顔だ。逆に七郎左衛門の方が気圧された。
「いざ、出陣ッ」
神谷助兵衛は普段のやる気を取り戻す。命は惜しくない。武士として恥ずかしくないように戦う。助兵衛は用意された愛馬に飛び乗るのだった。
梶川・蜂屋両軍は水野軍を蹴散らし、近くの久松軍に襲いかかる。瀬田孫十郎の籠城衆も加わり、久松軍は防戦一方になる。
梶川平九郎は武功を誇るように長槍を振り回す。梶川軍は雄叫びを上げて、その勇武を誇った。
「正光寺砦の近藤九十郎様、砦を出て、浅井軍と戦っておりまする!」
騎馬武者が駆けてくると大声で梶川平九郎に伝令する。平九郎はニヤリと笑みを浮かべた。
「さすがは武の化身たる九十郎殿よな。フハハ、我らも負けることはできぬ。久松軍など相手にするな! いざ、行け―――――ッ」
新参者の活躍を喜びながら、平九郎は家臣に突撃を命じる。久松軍が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「おお、逃げていくわ。弱い弱い。次は浅井軍じゃな」
平九郎は大笑いする。豪快な平九郎につられて皆笑う。
その時だった。家臣の魚住隼人が血相を変えて、馬を走らせてきた。
平九郎は後方を任せていた魚住を不思議そうに見る。
「神谷助兵衛の奴、たわけよ! 奴は助右衛門殿の軍を狙っておる」
「助兵衛が、真か……」
「孫十郎の手の者が知らせてきた。しかと相違なし」
魚住隼人が真剣な表情で言う。平九郎は真顔になった。このままでは本陣が危ない。いくら精強な岡田軍でも襲われれば弱い。
「ええい、本陣に戻るぞ。向山の麓に戻る! 大将が討たれてはいかん!」
平九郎は決断する。後は孫十郎と蜂屋兵庫だけで充分だ。岡田助右衛門の身の安全を確保しなければ、この戦は負ける。平九郎は目の前の敵を前に軍を取って返した。
梶川軍は駆ける。岡田軍が陣取る向山の麓まで来ると、岡田軍への挨拶はなしに南下する。
「神谷軍、来ます!」
「よーし、弓隊、構えッ」
騎馬武者たちが弓矢を構える。弓隊は騎馬の訓練を積んできた。千代丸の発案だ。奇抜な発想に梶川軍は従った。この童子は何かが違う。そう思わせる何かがあった。
足軽部隊が走って来る。急に現れた梶川軍に神谷軍の先鋒隊は怯んだ。
梶川平九郎は目を光らせる。
「放てええええええええええっっっ」
平九郎の大音声が鳴り響く。大量の弓矢が神谷軍を襲った。思わぬ奇襲に神谷軍は進軍を完全に停止した。




