33、平島の戦い①
神谷助兵衛吉久、二十六歳。水野家筆頭家老のこの若武者は床几に座ると、じっと押し黙った。
川口文助盛祐、中山五郎左衛門重時、水野左近大夫清重はそれぞれ部隊を率いて布陣している。
「あれは蜂屋兵庫ですな……」
側にいる重臣・浅井六之助道久が言う。前方の蜂屋軍が第一陣の川口軍とぶつかった。
助兵衛はごくりと唾を飲み込む。織田軍は強い。特に千代丸の部隊は精鋭だ。助兵衛はふっと息を吐き出した。
「戦いたくはなかった……」
本音だった。相手は猛将梶原平九郎だ。豪傑で勇猛果敢。水野軍自慢の将だった。そう、身内なのだ。
「千代丸め、あの童が平九郎を誑かすからこのようなことに……」
ギュッと軍配を握りしめる。相手は見知った男だ。できれば戦いたくはない。
「道之助っ、軍を率いて織田軍を襲え。それで敵は崩れる」
道之助は白い歯を見せて返事をする。
助兵衛は正面を睨む。動いてはいけない。まだまだ勝負の時ではないのだ。助兵衛は平九郎の、かつての友の顔を思い浮かべながらじっと辛抱を続けるのだった。
蜂屋兵庫は馬で疾駆する。抱えるのは自慢の大身槍「弁天切り」である。
ブヒヒーーーーーンっ、馬が止まると、蜂屋兵庫も周りを見た。家臣の三浦将監を始め、家臣たちが揃う。
息を整える。十人は屠った。川口軍はたまらずに撤退する。次は水野軍だ。周りには敵はいない。
「いざ、進め―――――っ」
蜂屋兵庫の命で足軽衆が飛び出していく。その後を弓隊が援護するようについていく。
「殿、神谷の本陣が……」
将監が焦ったように言う。
「案ずるな。かねてよりこちらも本陣から兵が出るわい」
敵の遊軍にはこちらも遊軍で対抗する。本陣からは迎え撃つための軍が用意されている。この戦、負けるわけがない。兵庫は手綱を退く。前線に出る。多少の危険は覚悟の上だった。




