2、勝幡(しょばた)開発
俺は戦国時代に転生した。しかもあの織田家だ。最初は喜んだ。織田家なら安泰だ。俺は信長を支え、天下統一を助ける。そのつもりだった。
だが、父や母と接するにつれ、事態は深刻であると分かった。原因は尾張国の隣・三河国にある。松平次郎三郎清康という大名が軍備増強路線を歩んでいた。徳川家康の祖父であるこの男を誰も止められない。尾張国に攻め込むのは時間の問題だ。
父上は林、柴田、平手と言った重臣たちと協議に及んでいる。史実では清康は殺される。織田家は生き残るのだが、織田家と同盟関係にある北の橋本家が内応し、裏切ろうとしている。
これは史実では有り得なかった動きだ。
雲行きは怪しい。
「若様、お顔が優れませぬなぁ。お気に召しませぬか」
目の前の男が口の端に笑みを浮かべた。この男は平手五郎左衛門政秀、そう、のちに信長の筆頭家老となる男だが、粗野で野性味に満ちた危険な男だ。俺に興味を持ったらしく、いろいろと便宜を図ってくれる。三十代後半だが、父や母とうまくいっていないと愚痴をこぼしている。
俺の目の前には槍があった。
「これが鍛冶師の作った物よ。どうだ、気に入ったか」
俺は鋭い穂先を見る。槍は軽量化した。あまり重いと兵たちの負担になる。
「善七郎も喜ぶであろうな。ハハハ……」
武器の改良、農具の発明、民には施しを与える。内政は順調に進んでいる。あとは外敵を打ち払うだけだ。
「五郎左衛門、俺につけ。平手家で肩身が狭いのだろう。どうか」
「ふむ。面白い。若君になら仕えてみる甲斐があるというものよ」
五郎左衛門の高笑いが部屋に響いた。あの平手政秀が家臣になる。俺は胸を熱くした。
まだ内政に力を入れたい。そう思った俺はまず水野ら周辺の諸大名に偽情報を拡散した。
松平次郎三郎は東に向かい、今川家を攻めようとしている、と。そんな事実はなく、松平と今川は対立関係にない。だが今川は主君も若く、家臣団も動揺している。先代が死んで四年。まだ足元も固まっていない。
今川家は兵を集め、西を警戒し始めた。松平清康も無視できない。こうして春になっても松平家は軍事行動を起こさなかった。
特産品の工芸品や茶器が作られ、勝幡城の城下町は活況を呈し始めた。平手政秀には兵の調練を任す。平手は豪傑で馬に乗っては兵たちを鼓舞する。平手を慕って他国の者が仕官する。勝幡城周辺はさらに豊かに生まれ変わりつつあった。




