表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから。  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

急転直下

誰もいない廊下。

少しだけ溢れた涙。

また振られた私。

目に当てたブレザーの袖に沁み込む涙色。

鼻をすすって、吐息をこぼす。

何にも考えたくなくて、ボーっとしながら廊下の角を曲がった時――

ドサっ。

「ひゃっ」

誰かとぶつかった。

「あっ、ごめんなさい」

「なんだ橘か」

声の主は佐々木くん――


挿絵(By みてみん)


ニヤニヤと笑っている。

ドキッとして、咄嗟に胸の前で手を組んで、視線を逸らし、立ち去ろうとする。

「あ、ちょっと」

佐々木くんの手が肩に触れ、それを振り払うように体をよじる。

「こないだのこと謝ろうと思って」

背中越しに届いた声。

私は構わず歩く。

もう、なんでこんな時に。

タッタッ……足音が追い抜いて。

佐々木くんが私の前に立ちはだかった。

「ごめん、許してくれとは言わない」

「うん、じゃあ」

私はその脇をすり抜けようとする。

「なんかあったの?」

優しい声色。

一瞬止まりかけて、違うと一歩を踏み出す。

早足の私に並んで佐々木くんは着いてくる。

「着いて来ないで」

「いや、心配だからさ橘のこと」

角を曲がって階段を降りる。

「俺でよかったら話聞くよ」

私は壁に手を添えながら駆け足で階段を降りる。

タッタッ……足音が追いかけてくる。

もう、それどこじゃないんだよ。

踊り場を抜けて、一階について角を曲がろうとして――


ドンッ。

また誰かにぶつかった。

「あっ、ごめんなさい」

「こっちこそ」

「え?」

相手は蓮くんだった。

少し遅れてきた佐々木くん。

「橘大丈夫か?」

私は上目遣いに蓮くんを見る。

すると蓮くんは、私に視線を落とし、後ろにいる佐々木くんの方に目を向けた。

「橘さん、探してたんだ、ちょっといいかな」

「へ?」

私の顔を覗き込む蓮くん。

顔が近くて、きゅんとなる。

頭で心臓が鳴ってるみたい。

「おいおい、橘は俺と話があるんだよ」

「悪いな、急ぎの用なんだ」

「うわ……」

蓮くんは私の腕を掴むなり階段を上り始めた。

もう、何が何だか分からない私。

蓮くんの横顔を眺めながら、散歩に連れられた犬のように付き従う。

陽射しが差し込む廊下を少しだけ早足で進む。

その前髪が揺れて、少し荒い息遣い。


挿絵(By みてみん)


蓮くんは一言も発しないけど、一緒に歩いている時間が愛おしくて。

気がついたら写真部の部室に連れ込まれた私。

どうなってるの?

この展開。

どうなっちゃうの私。

胸がぎゅっとなって、お腹がきゅってなって、心臓はおかしなくらいドックンドックン。


蓮くんはそっとつかんでいた手を離す。

そして私に背を向けて机の上のカメラを手に取った。

「人のこと言うのは好きじゃないけど、佐々木には近づかない方がいいよ、あんまりいい噂聞かないから」

「あ、はい。でも、近づいた訳じゃなくて……向こうが勝手について来て」

「そう」

「あ、あのありがとう、助けてくれて……どうして助けてくれたの……かな」

「ああ、目が助けてって言ってたよ」

「え?」

私を何かが撃ちぬいて、風が吹いたような気がした。

「そろそろ俺、体育館に行くから」

「あ、そうなんだ……私も、な……軽音のステージ見ようかなって」

「そう、じゃあ」

「え?」

「遠回りだけど中央階段使った方がいい、東階段また佐々木がいるかもしれない」

「はい。え? あの……」

蓮くんは部室を出て行った――


目をぱちぱちさせながらドアを見つめる。

ひとり取り残された私。

ん?

ん?

どうして?

行っちゃったの?

え?

助けてくれたのに?

ん?

無意識に右腕を擦っている。

「ああ……」

蓮くんが掴んでいた場所。

やんわりと痛みが残っている。

しっかり捕まえられた。

私のこころ。

カーッと頭に血がのぼる。

うう。

優しくしてくれた。

助けてくれた。

私のこと振ったのに……

やっぱり胸の中で好きが膨らんで弾ける。

「もっと好きになっちゃったよ……」

口をギュッと結んで。

目から吹き出しそうな想いをこらえたけど。

なんでなの?

「ふぇふぇ……」

言葉にならない想いが口から漏れて。

うう。

立ちすくんだまま。

泣いてしまう。

かすかに七海ちゃんの歌声が窓の外から聞こえてきていた。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

感想やご意見ありましたら、お気軽にコメントしてください。

また、どこかいいなと感じて頂けたら評価をポチッと押して頂けると、励みになり幸いです。

*写真は作者がAIで作成したものです。

*無断転載しないでネ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ