言葉じゃなくても
深く青い空を白く塗り潰す。
あんパンみたいなふわふわした雲。
お腹が空いてるからか。
そんな風に見えてしまう私。
昼休み。
蓮くんと屋上に来ている。
フェンスの段差に腰かけて。
ランチタイム。
でもね、私を誘っておいて。
蓮くんは、もくもくと食事をしている。
声をかけても。
目が合っても。
微笑みを返してくるけど。
なんだろう?
箸の先を唇に着けたまま蓮くんを見つめる。
空を見上げたり。
もぐもぐしながら。
にやけているんだ。
うーん。
じーっと、見つめてみる。
おかしい。
絶対、気づいてるはずなのに。
私のことを見ない。
わざとらしい。
私は頬を膨らませて。
吐息を一つ。
かき込むようにお弁当をたいらげる。
「ごちそうさまでした」
「あのさ、結衣」
「なぁに? 蓮くん」
「こうやって、何も話さなくても、隣に結衣がいるってだけで。幸せだな」
「え……?」
ぴんと。
背筋が伸びる私。
「いや、もちろん会話するのも楽しいし、大切な時間だけどさ、今、ふと想ってた」
じわじわと押し寄せてきた。
少し甘さを含んだ声に。
満腹を通り越して。
満開、全開の笑顔になる私。
「ずるい……」
蓮くんの二の腕を。
げんこつでグリグリと押す。
「なんだよ」
身を捩らせて笑いながら腕を引っ込めて。
首をかしげて。
真っ直ぐ私を見つめる。
最近分かるの。
その瞳や視線で。
好きだよって言ってるの。
もちろん、声に出しても言ってくれるし。
私も伝えているけど。
だから、負けじと投げかけた視線は。
目も。
鼻も。
口も。
あっ。
蓮くんの顔がそっと近づいて。
そよ風のように唇をさらっていった。
「……もう、バカ」
どうしてくれるの?
もう。
私は横目で蓮くんをじろりと睨む。
学校なのに。
じゅわじゅわしてきちゃう私。
蓮くんは笑みを一つ落として。
「結衣。これ見て」
ブレザーのポケットから封筒を取り出した。
オフホワイトの少しざらざらした表面に。
『烏丸蓮様』
と黒く印字された文字。
蓮くんは早く見てと言いたげに。
手の平を差し出す。
私は封筒の口を広げて。
中をのぞく。
折り畳まれた手紙を引き抜いた。
三つ折りのそれをゆっくり広げる。
視線を這わせて。
ぴくりと体が跳ねて。
唾を飲み込んで。
むせそうになる私。
もう一度。
視線を紙面に落とす。
『日本写真展、優秀賞。
烏丸蓮様。』
「……すごい」
こぼれた声は涙と一緒だった。
私の視界に入ってきた影が。
瞑った目を優しく拭う。
片方ずつ。
「入賞くらいかなって。想ってたから、正直すごく嬉しいんだ」
「……うん。私も嬉しい」
私は肩を上げて。
吐いた息と一緒に下ろした。
「おめでとう、蓮くん。お祝いしなきゃね」
「ありがとう。お祝いはスシゴローがいいかな」
「うん。分かったよ」
「あのさ?」
「ふん」
「結衣何か欲しいものある? クリスマスプレゼント?」
「どしたの? 急に?」
「いや、俺いいもん想いつかなくて。結衣に聞いてみようってさ」
「うーん。プレゼントとかいいよ。一緒に過ごして。ケーキ食べたい」
ふって笑う蓮くん。
「やっぱり、そう言うと想った」
「ちぇっ。じゃあ蓮くんは何か欲しいものあるの?」
「ない」
即答にガクッとなる私。
「じゃあ、おんなじじゃん」
蓮くんは口と目を見開いて。
腕を組んだ。
何か想いついたんだ。
「何か閃いた顔してる」
「ん? そうかな?」
私は惚ける蓮くんに。
あっかんべーをした。
「おっ、かわいい」
そう言って。
私の頭をポンポン。
なんか。
ちょっぴり悔しいから。
スイッチ入れた蓮くんの唇を塞いだ私。
いつもより早く駆ける鼓動。
そっと離れて。
蓮くんを見つめたら。
少しほっぺが赤くて。
「脅かすなよ」
だって。
私は肩をすくめて。
蓮くんの頭をよしよしする。
「蓮くん、かわいい」
私の声に肩を揺すって笑い出した蓮くん。
「あっ! そうだ、もう一つ応募したコンクールの発表は?」
「ああ、再来週」
「そっか、楽しみだなぁ。そっちも賞取ったら、またキスしてあげる」
「それはいらない、そういうの関係なくしたいな」
声が終わるのと同時に。
柔らかいぬくもりが。
私を抱き締めた。
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