文化祭・めろめろだもん。
七海ちゃん、バンドメンバーの千彩ちゃん。
二人が文化祭で自分達のステージの前に蓮くんとデュエットしない?
一曲でいいから?
そんな提案があった。
最初は戸惑っていたの。
蓮くんに相談したら。
「面白そう!」
意外な答えが返ってきて。
チャレンジしてみることになったの。
お母さんに、なんかいい曲あるかなって、相談したら。
NOAの『今を抱きしめて』
はどう?
って。
「何それ?」
って、聞き返したら。
お父さんとお母さんが若い頃デュエットしてたんだって。
しかも両親が敬愛するYOSHIKIさんの楽曲。
それで、実際に聞いてみて。
歌詞を見て。
蓮くんにも聞いてもらったら。
「これにしよう」
って。
乗り気な蓮くんを見ていたら。
やる気になった私。
七海ちゃんや千彩ちゃんも曲を知っていた。
やっぱり両親の影響なんだって。
千彩ちゃんは、ギターアレンジするって言ってくれた。
そして、七海ちゃんからのアドバイス一つ。
「もう一曲、お勧めしたいのがあるんだ」
って。
だから練習しといてって。
それから連日。
蓮くんとカラオケや家で練習。
初めて耳にした蓮くんの歌声。
普段の落ち着いた低音とは違って。
伸びやかで力強いハイトーンで。
びっくりして。
うっとりして。
聞き惚れちゃった。
折角だから振りを入れようって。
最後のハモリのパートで。
向かい合って歌うの。
お互いに手を差し出して。
蓮くんは左手。
私は右手。
手のひらを合わせて。
最後のフレーズで。
手をつないで正面を向く。
午前中の余韻を残したまま。
私と蓮くんは、千彩ちゃん達と最後の音を合わせ。
「すごくいい。オリジナルよりいいかも」
って。
七海ちゃんは最大級の賛辞をくれた。
原曲では目立たないギター。
でも、千彩ちゃん奏でるギターアレンジがとても印象的で。
特に間奏部分。
高音がふわりと澄みやかで。
どんなテクニックを使ってるのか分からないけど。
あたかも千彩ちゃんが、歌っているようで。
今、この瞬間の煌めきや力強さが感じられて。
指がつま弾く音色がこころに震えて入ってきて。
サビの部分の伸びる音も。
ずっと耳と心に残るそんな響き。
――いよいよ本番。
体育館のステージの上。
スポットライトを浴びている。
その光だけでもにわかに暑い。
目の前には、館内から溢れんばかりのお客さん。
そのざわめきが空気を震わせ。
温度を上げているようだった。
チアとは全く別物。
唾を飲み込んで。
深呼吸一つ。
スマイル。
オーケー。
スタイル。
オーケー。
「結衣、楽しもう」
前を向いたままの蓮くんの囁きが。
こころに届いた。
「うん」
私の声が蓮くんの口角を上げた。
『それでは、烏丸蓮くんと、橘結衣さんで、NOA。『今を抱きしめて』……』
七海ちゃんの声が静けさを運んで。
イントロが始まった。
両手で握りしめたマイク。
まずは私から。
声を出した途端。
にわかに湧く歓声。
パートを歌い終わって。
蓮くんを見る。
チラッと視線が交わって。
歌い出す蓮くん。
どよめきが起こる。
そして拍手も。
間奏――
千彩ちゃんが前に出てきて。
奏でるメロディ。
本番の方が、さらに美しくて力強い音色
お決まりの膝を上げるポーズ。
そして――
私たちは向かい合う。
最後のハモリ。
お互いに語りかけるように。
手を差し出して。
重ねる。
最後のフレーズで手を握り前を向く。
重なり合う声が伸びて。
メロディがフェードアウト。
じわりと床から震えるような歓声。
当たり前のように視線も重なって。
ニコって笑った蓮くん。
すると。
蓮くんはマイクを素早くポケットに差し込む。
え?
驚く私の腰を引き寄せ、軽々と抱きかかえた
「キャー!」
「ヒュー!」
「おおっ!」
って、どよめきにわく体育館。
間近にある蓮くんの顔。
きゅっとして。
かーっと血が巡って。
耳もほっぺも全部。
真っ赤っか。
少し身を逸らせると。
「え?」
蓮くんはぐるっと一回転。
お腹がきゅるんって。
なんだか分からないけど。
みんなの前で恥かしいのと。
うきうきしちゃってるのと。
髪が舞って。
宙に浮いているみたいで。
景色は流れるのに。
その顔だけは。
動かない。
ずっと見つめっぱなしの蓮くん。
トンって足が床について。
でも浮き足立っちゃってる私。
まだ宙を舞ってるみたいにふわふわして。
鼓動も。
こころも。
最高潮を通り越した私。
なのに。
頭のポンポンスイッチを押して。
追い打ちをかけるの。
眉を上げる蓮くん。
促されるように、観客席に向き直りお辞儀をした。
「ど、どしたの? 蓮くん? ビックリした」
「ああ、なんかやってみたくなった」
手の甲をおでこにつけて見せた白い歯がまぶしい。
もう。
ずるいよ、蓮くん。
そんな顔、見たことないもん。
ずっと蓮くんに酔わされてるのに。
蓮くんまでおかしくなっちゃったの?
――すると。
「アンコール! アンコール!」
舞台袖にいた七海ちゃんの声。
「アンコール! アンコール!」
麻耶と恭一くん、横山くんの声。
手拍子と声は広がって。
次第に大きくなって館内が揺れているようだった。
七海ちゃんはこのことを想定していたんだ。
?
でも、最初の掛け声を出したのは?
七海ちゃんだし。
どうするんだろ?
私は、ハッとして蓮くんを見る。
頭をかきながら、うなずいていた。
七海ちゃんも顔の前で拍手しながら。
「頑張れ!!」
って。
グイーン!
千彩ちゃんのギターが吠えた。
『では、アンコールにお応えして、映画『High School Musical』から『Start of Something New』です。どうぞ!』
七海ちゃんの声が弾けた。
メロディが流れ。
波となって押し寄せる歓声。
難しいけど。
頑張る。
練習したもんね。
向かい合う私たち。
さっきの続きみたいに。
私の右手。
蓮くんの左手を重ねて。
この歌はずっと向き合ったまま。
静かな立ち上がり。
会話をしているような。
声の掛け合いが魅力。
まずは蓮くんから。
私の全身に言葉の息吹が押し寄せる。
大勢の人がいるのに。
私と蓮くん二人だけの世界にいるような錯覚。
目と声で語りかけるように歌う蓮くん。
私も同じ。
瞳からラブラブ光線を出して。
体温を込めた言葉を放つの。
「フォー!」
会場がわく。
ツーコーラス目。
蓮くんがジャケットを脱ぎ捨てた。
ノリノリで体をくねらせて声を出している。
ハーモニーを交えながら。
楽しくて。
かっこよくて。
リズムに乗って動き出す体。
いつの間にか、わいた手拍子。
踊っていても。
歌っていても。
逸れない視線。
瞳に映る姿も。
耳に残る声も。
こころに届く想いも。
私は焼き付けて。
そして蓮くんにも焼き付くように。
橘結衣は。
烏丸蓮と。
今を生きているよ。
幸せです――
そして。
最後は。
声を伸ばしながら。
お互いの息がかかるくらいの距離で歌って。
音が消えて。
見つめ合ったまま。
蓮くんの目元が優しい。
目を瞑ったら。
キスしてくれるかな。
なんて、こんな時に想ってしまう。
嘘のように静まった空間。
ぶわっと巻き起こる旋風のような歓声や喚声。
耳を塞ぎたくなるくらいの声の振動が襲う。
蓮くんは眉を挙げて。
私の手を握ると正面を向いた。
みんなに向かって深くお辞儀をする。
「二人とも凄かった。この後も参加しない?」
駆け寄ってきた七海ちゃん。
「え?」
「分かりました」
蓮くん即答。
「いいじゃんか、俺も踊り練習したし。歌も。結衣と一緒に楽しみたい。この瞬間」
キラキラしてる。
瞳も。
表情も。
体から滲み出る何かも。
「よし決まりだね」
七海ちゃんがバンドメンバーに向けて親指を立てた。
次の曲は――
BTSの『Dynamite』
これはチアで踊ったことがあるから大丈夫。
蓮くんはこの二日間だけ練習してた。
基本ボーカルは七海ちゃん。
蓮くんと私は、予め決められたパートをメインで歌う。
「イエーイ!」
え?
チア部のみんなが。
掛け声を引き連れて。
舞台の前に出て来た。
七海ちゃんの高音が響く。
みんなが踊り出す。
蓮くんも踊ってる。
私も――
千彩ちゃんは前に出てき。
『ダイナマイト!』
って、足を蹴り上げる。
異様な盛り上がりの空間。
先生たちものりのり。
私たちの両親や保護者の方々も。
え!?
蓮くんソロパートで。
まさかのムーンウォーク!
私もジャケットを脱いで踊る。
なんか文字通りダイナマイト!
最後は七海ちゃんをセンターに、ポーズを決める。
――熱気冷めたらないうちに、
DREAMS COME TRUEの『うれしい!たのしい!大好き!』が流れ出す。
ここは七海ちゃんの独壇場。
私は蓮くんと手をつないで脇で歌う。
サビの部分で大きく手を振る七海ちゃんに会わせて。
体育館にいる全員が手を振って大合唱。
ボルテージは最高潮。
熱気で暑いのか。
こころの中が沸騰しているのか。
でもね。
すごく。
すごく。
優しい気持ちなの。
今。
この瞬間。
そして。
「うれしい! たのしい! 大好き!」
手を振りながら。
音楽が止んだ。
静寂。
沈黙。
息遣いさえ。
微塵の音も聞こえない。
ほんの僅かな。
無。
一斉にわき立つ。
歓声。
どよめき。
拍手。
そう。
会場にいる全員が拍手をしていた。
「またさ、今度は練習じゃなくてカラオケ行こ」
「ああ、いいよ」
「蓮くんの歌声好き。COMPLEXの『恋をとめないで』また歌って欲しいな」
「そっか。嬉しいなそんなの言われたことなかったから。じゃあ、結衣には――」
みんなが駆け寄ってきて。
もみくちゃな私たち。
熱くて。
笑顔溢れたステージは終わった。
私は数日後知ったよ。
七海ちゃんや千彩ちゃん、バンドメンバーに。
真奈美やチア部のみんなに。
蓮くんが頼んだんだって。
哀しみも苦しも壊せるくらいの最高の高校生活の想い出を残せるようにって。
お読み頂きありがとうございます。
感謝しております。




