プールデートです。ぬりつぶされて。
たくさんのはしゃぐ声。
弾む水の音。
休憩中の私たち。
蓮くんのスマホを借りた私。
よし。
撮っちゃおうかな。
「蓮くん!」
「ん?」
スマホを構える私を見て。
ポーズをとる蓮くん。
カシャカシャ……
「ハハハ、なんでそのポーズ?」
「いや、何となく?」
「ちょっとかっこよかったけど」
「ん?」
「ちょっとスマホいい? それからそこに腰掛けて」
なんか瞳が大きく見える。
なんかいたずらを思いついたような。
なんかわくわくしているような。
そんな顔の蓮くん。
「ん?」
蓮くんはプールサイドを指さした。
スマホを返して、言われた通り座ってみる。
「どうしたの?」
「ちょっとさ、物思いにふけってみて?」
「え? なにそれ?」
「うーん。楽しいことでも考えてみて」
「なんで?」
「いいから」
「はあい」
楽しいことって。
今が楽しいよ。
って。
蓮くんといたら楽しいもん。
なんでこんなこと考えろって言ったのかな?
でも、蓮くんが楽しそうだからいいんだけどね。
カシャカシャ……
ん?
「今撮ったの?」
「ああ、ちょっと思いついてさ」
「もう。撮るんなら言ってくれればいいのに」
「ごめん。そのそういうのじゃなくてね」
「ん?」
蓮くんは私の隣に腰を下ろした。
「俺が撮るのはそこにある作られていないものなんだ」
「ふん」
「例えば結衣の写真のほとんどは、その瞬間の結衣を切り取ったもの。結衣自身の姿でしょ?」
「うん」
「俺がこうしてって言ったのじゃなくて、結衣が感じて出て来た表情とか。それこそチアのパフォーマンスとか」
「うん」
「撮るよって言ったら、結衣はポーズや笑顔を作ってくれるでしょ?」
「そりゃあ、かわいく撮って欲しいし、そう見てくれたらいいなって。記念に残るから」
「うん。そうだね、全然いいこと。でね、今したかったのは、俺が言ったことで結衣が感じてる瞬間を撮ってみたかった」
「ん?」
「自然な瞬間のものではないけど、自然に近い。でも記念写真ほど構えてない。こんな感じの写真を撮ってみたいなって、俺が想ったのを写真に出来るかなって」
「分かった。モデルなんだ私」
「ああ、そういう感じ。自然な結衣は魅力的。もちろん記念写真の結衣も」
「もう……」
そんなに直接言われたら。
嬉しいけど。
照れるし。
ちょっとひじで小突いてみた。
「うっ……」
お腹に入っちゃった……
「ごめん!」
「平気、平気」
苦笑いの蓮くん。
そんな甘々でいいんですか?
唇を噛んで見つめる私。
「だからさ、結衣をモデルとして、魅力を引き出すような写真を撮ってみたくなった」
ぽっと、染まっちゃうでしょ。
そんなこと言われたら。
!
閃く私。
「じゃあ、じゃあ、私も蓮くんをモデルに撮ってみたい」
胸の前で両手を合わせる。
「それ、いいかも」
指をパチンと鳴らした蓮くん。
「じゃあ、スマホ貸して」
「ああ」
「そうしたら、座ってて。何も考えないで」
「ん? 何も考えないの?」
「そう。何も」
私は立ち上がって。
少し距離をとってみる。
どんな感じがいいかなって考えてみる。
うーん。
そうだ!
「蓮くん!」
私が呼べば――
カシャカシャ……
絶対笑ってるから蓮くん。
画面を見てにやける私。
ちょこちょこ隣に腰掛けて。
画面を見せる。
「見て、見て!」
「ああ、こういうのもいいかも」
「ほんと!」
「ここにも余白があるの分かるだろ?」
「あ、うん。この視線の先に誰かがいるんだなって分かるかも」
「結衣、本当にすごいや、そう、俺の視線の先には結衣がいる。さっきの結衣の写真の視線の先には、俺を見ていなくても、きっと俺がいた? でしょ?」
「そうだよ」
口を尖らせる私。
なんかバレてるのがむずむずする。
「結衣、これからもたくさん写真撮ろうな」
「うん。でも一緒のも撮りたい」
「そっか。そうだな」
プールに浸した足が心地よい冷たさで。
想いが通じ合ってることに。
こころはあったかくて。
でも、さんさんとしたお日様は容赦ない。
隣にいる蓮くんみたいに。
それから、流れるプールに身を任せて。
時々蓮くんに抱っこされて。
水のように委ねていたら。
もう、ほんわかとろんって。
水面ようになってる私。
水分摂ろうって蓮くん。
一緒にドリンクコーナーで休憩して。
波のプールに向かってる。
「結衣!」
「ん?」
カシャカシャ……
「もう、撮りすぎ」
「そっか、止めようか?」
「意地悪」
ちょっと睨んでみる。
「あ、いや、撮るよ。撮る」
慌てて手を振る蓮くん。
「蓮くんに撮ってもらうの嬉しいんだよ。でも、恥ずかしかったりもするの不意打ち」
「ああ、でも、その不意打ちでいい感じの写真が撮れるって、さっき教えてくれたの結衣だけど?」
「うう。そっか」
「でも、おかげでかわいい結衣が撮れたよ」
「……ありがと」
これね。
最近気づいたの。
かわいいって想われたいでしょ。
それで一喜一憂しちゃう。
でもね。
かわいいって言ってくれるの。
すっごく嬉しいの。
ちゃんと伝えてくれるの。
でも、言われたらね。
恥ずかしいというか。
言ってくれないと。
不安になるというか。
どっちにしろ。
そわそわするの。
ぜいたくな悩みなんだろうけどね。
そしてやってきた波のプール。
賑やかな声が華やいでいる。
「結構、波あるんだな」
「そうだね、でも楽しそう。行こ!」
蓮くんの手を引っ張って。
浅瀬からパシャパシャと水しぶきを巻き上げてプールの中に入って行く。
足が底に着くかつかないかくらいの位置で波が押し寄せてきて。
ザバーンと飲み込まれる。
「ぱあ」
って。
水面に顔を上げて、顔の水を拭う。
顔を出した蓮くんは、頭を振る。
雫が飛んで光に弾ける。
「やべ、海みたいで面白いな」
白い歯がキラッてして。
私も笑ってる。
ザバーン。
後ろから来た波に飲まれた私を抱きとめてくれる蓮くん。
「ははは、大丈夫か?」
「はい」
目の前にあるのは蓮くんの胸です。
大丈夫だけど。
大丈夫じゃないのかも。
ザバーン。
「うわ!」
蓮くんバランスを崩して。
二人とも水の中。
光差す水面に手を伸ばしながら、かき分けて。
「ぱあ」
っと顔を出す。
「うわ」
って蓮くんの声。
「どしたの?」
顔の水滴を払いながら蓮くんを見る。
「やばかった、今の結衣……」
「何が?」
ザバーン。
「きゃっ」
また波にのまれる二人。
水の中で蓮くんは手を伸ばしてきて。
私はその手を握る。
水中にも波の揺らぎは息づいていて。
体は流される。
蓮くんが私を引っ張りながら一緒に水面に顔を出す。
もう私は足が底に着かなくて。
いつの間にか、波のプールの一番奥まで来ていた。
蓮くんの肩につかまりながら顔の水を拭う。
ふいに交わる視線。
首を傾げた蓮くんの唇がちょんと重なった。
ほんの一瞬。
微笑む蓮くんを凝視したまま固まる私。
「結衣がかわいすぎて……」
パチパチと瞬きをする。
このまま水に溶けちゃうんじゃないかって。
やばいのは蓮くんだけじゃないよ。
私はぎゅっと蓮くんに抱きついた。
この胸の高鳴り知ってるでしょ?
肌のぬくもりから伝わるように。
ぎゅーっと。
ぎゅーっと抱きついた。
こころは一杯。
胸一杯。
お腹も減ってるようで。
減ってないようで。
ランチは併設のフードコートで焼きそばと唐揚げを食べた。
相変わらず口の端にソースをつけていた蓮くん。
もうずっとかわいい。
食後の運動に手をつないでお散歩。
「もう一回、流れるプール行ってみる?」
「うん!」
ぴょんと飛び跳ねる私。
ふって微笑む蓮くん。
「俺こういうとこ初めてだけど、めっちゃ楽しい。結衣は?」
「もちろんだよ」
「それに、ドキドキしてるんだ」
「え?」
「結衣の水着姿に。かわいいし。似合ってる」
止まる心臓に呼吸。
見上げた蓮くん。
髪が光を帯びて。
前髪が揺れて。
こっちを向いて。
私の両手を捕まえた。
真っ直ぐ私を映す瞳。
優しく下がった目尻。
柔らかく上がる口元。
私も同じように笑えてる。
けど。
お腹がきゅるんってなって。
手にギュッて力が入って。
見つめられてるだけなのに。
膝がぐにゃぐにゃして。
「結衣もドキドキしてるの?」
なんで。
そんなこと言うの?
そんなこと聞くの?
一気に富士山の頂上まで上ったみたいに。
鼓動と息が苦しい。
こくんとうなずく。
「ダメだ。かわいすぎる」
そう言って、私の頭をポンポンする。
じゅわーって押し寄せてきた波にのまれちゃった私。
「も、もう」
蓮くんの胸をげんこつでとんとんする。
仕返したつもりなのに。
胸の筋肉にカウンターをくらう私。
あっ。
あったかい肌のぬくもりが私を包む。
ぎゅっとされる。
渦を巻くこころのなか。
だって。
感触と記憶がよみがえっちゃったの。
でも。
安心する。
いっぱいかわいいって言ってくれた。
言われなくても想ってくれているのは。
分かってるんだ。
でも、やっぱり伝えてくれたら。
蓮くんの声で聞けたら。
100万倍の勇気になるんだね。
「結衣、大好きだよ」
髪に注ぐ吐息と言葉。
「はい。私も蓮くんのこと大好きです」
蓮くんのこころに届くようにって胸に向かって。
私のこころの余白なんて。
もうどこにもなくて。
全部。
蓮くんで埋まっちゃってるんだよって――
お読み頂きありがとうございます。
感謝しています。




