プールデートです。まぶしい、まぶしい。
夏といえば。
そう。
プールです。
いつものことだけど。
前の日からドキドキして。
目が覚めてからもわくわくして。
妄想大魔王があれやこれや言ってくる。
だって。
デートは二週間ぶりだし。
お母さんに日焼け止めを塗ってもらった時。
「いいわね、プール。お母さんもついて行こうかしら?」
「なんで、娘のデートについてくるの?」
「もう、冗談よ。ほら、背中塗ってあげるから」
「ああ、はい」
「あまりにも結衣が楽しそうだからね」
「だって、デート久しぶりなんだから。お父さんとデートしておいでよ」
「はいはい、あとで彼にも塗ってもらいなさい」
「へ? なんで?」
「何でって数時間しか持たないでしょ日焼け止め」
「あ、でもスプレータイプの買ったから」
「まあ、どっちにしてもしてもらいな。はい、出来上がり」
「うん……」
蓮くんに触れられたら……
もう。
ダメだ。
準備でこんなのだったら。
実際……
ふわんふわんと呼んでもいないのに。
妄想大魔王が。
ぶるぶると首を振る。
待ち合わせは高井駅の改札。
蓮くんの姿を見つけて。
にこにこになって。
声聞いて。
ほっとして。
手をつないで。
うきうきして。
どきどきして。
蓮くんは電車の中で愛媛の話をしてくれて。
お土産の、ゆずの風味がする、程よい甘さのタルトを一緒に食べながら。
蓮くんの瞳が写した海や山や街の写真をいっぱい見せてくれて。
どれも優しくて。
あったかくて。
私までそこにいたように想えた。
そして、電車で一時間半かけてやってきた『ホットランド』
大小さまざまなプールがある施設。
更衣室の鏡の前で、何度も背伸びをしたり、後ろを振り向いたり。
選んだのは、この日のために買った、初お披露目の水着。
シェルピンクのオフショルビキニ。
胸元から肩にかけて贅沢にあしらわれたフリルは、私の小さなこだわり。
これなら、恥ずかしい露出も少しだけ抑えられるし、何より、動くたびにふわふわ揺れて可愛いかなって。
淡い小花柄が散りばめられた生地は、太陽の下だと少し透き通るみたいに綺麗。
下は、セットのフリルショーツ。
「……変じゃない、よね」
蓮くん、驚くかな。
かわいいって、また言ってくれるかな。
よし。
橘結衣。
参ります。
私は蓮くんが待つ夏の光の中へ、ちょこちょこと駆け出した。
片手を挙げて微笑む蓮くん。
あっ。
やばい。
かっこいいんだけど。
こんな時にあの肌のぬくもりがよみがえってきちゃって。
きゅるんってなるお腹。
バクバクしだす心臓。
日差しのせいじゃなくて。
熱くなる全身。
胸の前に手を添えて。
内股になる私。
うつむき加減にとことこと近づく。
上目遣いで様子を窺うと。
食い入るような視線が私を見つめていた。
ごくって喉仏が動いて。
「結衣……」
て。
籠るような柔らかい声で呼ばれた。
「なあに、蓮くん」
「あ、いや、めっちゃかわいくて。水着、似合ってるから」
「ふぇん、あ、あ、ありがとう。蓮くんも、似合っててかっこいいから。ちょっと緊張しちゃってる」
「え、あ、ああそうか、俺もかな、ありがとう」
なんかもじもじしちゃって。
その場で固まる私たち。
「じゃ、じゃあ、行こうか」
「はい」
差し出された手を握った瞬間に。
ピキーンってなる私。
やばい。
今日溶けて無くなっちゃうかも……
蓮くんは完全防水のスマホを持って来ていた。
「結衣、撮るよ」
「はい」
「ハイポーズ」
ダブルピースをする私。
カシャカシャ……
スマホでも蓮くん連写発動。
「うん、オーケー」
まじまじと画面を見ている蓮くん。
「かわいく撮れてますか?」
「え? ああ、もちろん。ほら」
蓮くんが差し出した画面に映る。
カメラに向かって微笑む私。
「なっ? かわいいよ」
得意気に言う蓮くん。
じゅわって。
こころが鳴った。
「蓮くんも撮ってあげる」
「ああ、その前にさ、あれ乗ろう」
「ん?」
蓮くんが指さした先――
ウォータースライダーに初挑戦です。
人気があるから並んでいます。
よくカップルが抱っこして滑っている映像を見るやつ。
どうしよう。
あんなことされたら。
って。
もうここに並んでいる時点で。
この後、もれなくされちゃうんだけど。
溶ける自信あります。
だって。
あっ。
前のカップルが。
仲良さそうに……
女の子の悲鳴と共にトンネルに消えて行く。
「じゃあ、次の方どうぞ」
係りのお兄さんが、私たちを呼んで。
先に蓮くんが足を延ばして座る。
私がその足の間にちょこんとおさまる。
心臓がはちきれそう。
背中に伝わる蓮くんの肌。
ゾクゾクする。
「大丈夫?」
耳元で聞こえる蓮くんの声に。
パチンて。
破れた心臓。
「ふぁい」
「彼氏さんしっかり彼女さんを抱っこしてあげてね」
「あ、はい」
蓮くんの腕が私のお腹を逮捕。
ピーって。
死にかけの私。
ぎゅっとされてるの。
腕の筋肉。
体温。
呼吸が苦しい。
こころに手錠をかけられた私は肩を抱いた。
「じゃあ、出発でーす! 行ってらっしゃい!」
緩やかに滑り出して。
右に左にカーブ。
「きゃっ」
蓮くんの腕に重ねるように捕まる。
足が切る水しぶきが飛んできて。
傾斜がついて。
スピードが上がって。
明るくなって。
水しぶきをあげながら滑る私たち。
そのままバシャーン!!
プールの中に。
やばい。
ドキドキするけど。
楽しい。
「結衣、大丈夫?」
蓮くんの手が私を呼んで。
捕まって立ち上がる。
「うん。楽しい。もう一回しよ」
光の輪郭に縁どられた蓮くんの手を引っ張った。
結局、あれから二回もウォータースライダーで蓮くんと密着した私。
鼓動で胸が張り裂けそうで。
こころの熱中症で上がりっぱなしの体温。
ちょっと落ち着かないと。
本当に溶けて無くなりそう。
ゆらゆらと光を湛えた水面。
膝くらいの浅いプール。
底にも揺らぎの光が踊っている。
やばい。
楽しすぎるし。
ずっとドキドキしっぱなし。
蓮くんの体。
見ちゃって。
雫を纏った肌がキラッとして。
眩しくて。
それにさ。
肌が触れるし……
プールって。
ダメかも。
私がぽーっとしていたら。
「きゃっ!」
冷たい水しぶきが飛んできた。
「わっ! なに!?」
パシャパシャとひっきりなしにやってくる。
「もう。蓮くん!」
「ははは」
私は唇を噛んでやり返す。
「えい!」
「奥義、蓮バリア」
蓮くんは両手を前に出した。
でもね、それを飛び越えて水浸しなの。
手で口を押さえて笑い転げる私。
「おかしいな?」
って。
真面目に首を捻る蓮くん。
お腹が痛くて。
笑いが止まらない。
「もう! 蓮くん!」
私の声に。
ゆっくりと咲く微笑み。
「結衣、おいで」
手招きする蓮くん。
「なあに?」
水をかき分けて蓮くんに近づく。
パシャーン!
油断した私にかかる水しぶき。
「ずるいー!」
猛烈な勢いでやり返す私。
「やべっ」
笑い声が飛び跳ねる。
パシャ、パシャ……
バシャ、バシャ……
飛び交う水滴。
ほとばしる光。
「ごめん。結衣。参った」
両手を合わせてる蓮くん。
私は一歩二歩近寄る。
「フフン。仕方ないな。許してあげる」
背伸びして蓮くんのおでこをつついた。
瞬間。
魔法がかかったみたいに。
固まっちゃった蓮くん。
「どしたの?」
「ん?」
私をじっと見つめてる。
ちゅくちゅくしてくるこころ。
瞬きして、伏し目がちに見つめ返す。
「やばい、俺今のでなんかスイッチ入った」
「へ?」
「いや、なんでもない。行こう!」
蓮くんは私の右手を攫う。
パシャパシャと、跳ねるしぶき。
ひとつひとつが、星のように瞬いていた。
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