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好きだから。  作者: ぽんこつ


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みんなで祈ろう。

世の中はお盆休み。

何も予定がないから。

今日は勉強中。

両手を伸ばして首を左右に倒す。

大きく息を吐いて。

スマホの時計を見る。

もうすぐお昼か。

その画面を見ていて。

ふと思い出した。

一昨日、麻耶から電話があったの。

麻耶が推し活している、Vチューバーのさえちゃん。

私は冴ちゃんのチャンネルは見たことないけど。

麻耶からは年中、勧められている。

よく当たる占いと冴ちゃんの気だるい口調が評判で。

界隈では名の通った人気者。

しかも、冴ちゃん。

私たちと同い年みたい。

千彩ちゃんもだけど。

純粋にすごいなあって想う。

その冴ちゃんが。

とあるイベントを呼び掛けているって、麻耶が話してた。

確か――

8月の15日の9時、『みんなで祈ろう』っていうタイトルだった。

『結衣も参加してみなよ』

って言われた。

その企画の内容は。

『自分自身と大切な人や物を想って、ありがとう、お陰様で幸せだよ』

そう、空を見上げて、みんなで祈るんだって。

麻耶は、

『烏丸くんの病気が治るようにって、私たちもお祈りしてみるから』

電話の最後にそんなことを言っていた。

きっとそれがあるから、伝えてくれたんだって想ったよ。

ありがとうだよ麻耶。

私たちのこと気にかけてくれて。

そうだね。

願うことは自由だし。

奇跡なんて起こるかもしれないし。

起こらないかもしれない。

先のことは分からない。

今、この瞬間に後悔しないように。

やりたいこと。

出来ることをすればいいんだもんね。

何気に開いたSNS上では。

『#みんなで祈ろう815』が確かにトレンドに入っている。

そして、私が好きな女優さん。

杵築八雲きつき やくもちゃんも呼びかけてるみたいだった。

そう言えば。

八雲ちゃんも同い年。

ぽりぽりとこめかみをかく私。


昼食の時に、お父さんとお母さんに伝えたら、意外にも知ってた。

15日は明日。

蓮くんは昨日から愛媛に帰省中。

明日の夜に帰ってくる。

トータル3日間。

ちょっと寂しい日。

ううん。

とても寂しい。

会いたいよ。

触れたいよ。

わかってるよ。

蓮くんに会いたいのは私だけじゃないって。

お婆ちゃんやお爺ちゃんだって会いたいに決まってるもんね。

でも、夜には電話くれるから。

蓮くんにも『みんなで祈ろう』伝えなきゃね。

遠くても一緒に今できることしよう。

うう……

声聞きたいな。

早く夜にならないかな。



――翌朝。

9時。

私はお父さんとお母さんと、ベランダから空を眺めていた。

空は少しかすんでいて淡い水色だった。

絶好調な太陽が照らし出す熱ですでに暑い。

じっとしていても。

じわじわと汗ばんで。

家の前の道路をそよぐ風が。

肌を撫でて。

すこしだけ冷ましていく。

それでも。

ご機嫌な蝉の合唱が温度を上げているよう。

「時間だな」

お父さんの声。

胸の前で手を組んだ私。

空を見上げて。

祈ったよ。

ありがとう私。

大好きだよ。

私のこと。

ありがとう蓮くん。

大好きだよ。

蓮くんのこと。

病気治ったらいいね。

そして。

お父さんやお母さん。

麻耶のこと。

みんなのことを想ったよ。


そうしたら――

空が淡く光って。

ぼんやりとした金色の光に包まれたの。

「わあ……」

自然と漏れた声。

お父さんもお母さんも、同じように声をあげていた。

空を覆い尽くした柔らかな光。

とてもきれいで。

写真か何かで目にしたオーロラみたいで。

ハッと閃いて。

私は、ポケットからスマホを取り出して。

その光景を撮ってみた。

でも、なんかぼんやりと黄色く見えるだけで。

肉眼で目にしたものと違っていた。

ほんの数十秒くらいだったのかな。

金色の揺らぎは。

何もなかったかのように。

空に馴染んで消えていった。


まるで、アニメや映画のワンシーンみたいな出来事だった。

こんなことってあるんだなって。

だって、暑いのに、どこかあったかい気分で、

お父さんもお母さんも。

同じ様に空を見ていた近所の人も。

今起きたことに。

戸惑いながらも。

空気感が、どこか優しい気がした。


何だったんだろうってことよりも。

蓮くんの声が聴きたくて。

電話をかけていた私。

『もしもし』

ワンコールで出た電話の声。

一段低い、電話越しのいつもの声。

「蓮くん、おはよう」

『あ、おはよう、俺も今電話しようと思ったんだ』

くしゅくしゅってなるこころ。

Tシャツの胸元を握りしめた。

お父さんとお母さんはそんな私を見て。

ニコニコしながら部屋に入って行った。

「うん。空見てた?」

『ああ、見たよ、なんか不思議なことってあるんだなって、金色の幕が空を覆って、キラキラってオーロラみたいだったよ』

少し荒い息遣い。

興奮してるみたい。

「おんなじこと想ったよ。一緒で嬉しいな。そっか、愛媛でも見れたんだ。なんかすごいね」

『ああ、写真撮ったから後で送る』

「うん。同じ空見上げてるんだね今」

『ああ、こっち少し雲が出て来た』

「そうなんだ、こっちはね少し……淡い水色の空。あっ、今飛行機が飛んでる。蓮くんのとこに行くのかな」

『かもな。あっ、こっちも飛んでるぞ飛行機。東の方に向かってるから、結衣のとこに行くのかもな』

「蓮くん。好きだよ」

『ああ、大好きだよ結衣』

「じゃあ、また夜ね」

『おう、21時くらいに電話する』

スマホを抱きしめて。

見上げた空。

光線がまばゆくて。

手をかざす。

もうさっきの飛行機はいなかった。

ピコン。

あっ。

送られてきた写真。

お城がある山の上の空が金色に包まれてる。

まるで山全体に光が降り注いでるようであったかい。

蓮くんが見ていた空。

私も撮った写真を送る。

そう。

同じ時刻に違う場所から見上げた空は同じだったんだ。


部屋に入ると。

のぼせた体をエアコンの空気が冷ましてくれる。

お父さんが私の机の上の蓮くんとの写真を眺めていた。

「お父さん、どうしたの?」

「ん? ああ、まあな」

お父さんは部屋の真ん中のテーブルの前に腰を下ろした。

私は向かい合ってぺたんと座る。

「結衣、一瞬を大切にっていう蓮くんの言葉な、お父さんの昔を想いださせたんだよ」

「ん?」

「前にも言ったかな。お父さんの若い頃、スマホはなかったし、今のように気軽に誰とでも連絡が取れる環境ではなかったって」

「うん、聞いたよ」

「だから、母さんとデートする時はそれこそ、一生懸命、大袈裟だけど命がけみたいなもんだったよ」

「ふふ、そうなんだ。お父さんかわいい」

「そんなもんだよ、男の子って。惚れた女の子と一緒にいられるその時間は何事にも代えがたい瞬間だから」

「そうだね。でも女の子だって一緒だよ」

「そうか、だから二人を見ているとあの頃を想い出す」

「ふーん。お母さんに言ってあげたの?」

「え? ハハハ」

「言ってあげなよ。伝えられたらうれしいよ。好きだよって」

「親をからかうんじゃない」

お父さんは頭をかきながら部屋を出て行った。


ピコン。

麻耶からだ。

『結衣見た? 金色に光った空』

『冴ちゃんがね、いいメッセージを載せてたから送る。なんか冴ちゃんの友達のみたいだけど』

ふーん。

「うん、見たよ。メッセージ? わかった」

『長いよ』

『――みんなが足りない欠片を助け合って生きていくのがこの世界。足りている人なんていないんだよ、だからそのままでいいんだよ、あなたも誰かの欠片を埋めているの。誰かがあなたの欠片を埋めてくれているように』

『気が付いた時に愛や感謝が産まれるんだけど、気が付かなくてもいいんだよ、存在している事がご先祖様からの贈り物で、あなた自身が宝物なんだよ』

『お日様の日差しを浴びて、雨を浴びて、風を浴びて、それも誰かからの贈り物なんだよ――』

『ね? 何かグッとこない? 私と結衣もそうだよねって想った』

「うん。そうだね。麻耶、ありがとう」

『いいよ。ダブルデート、今度はさ野球観に行こうって恭一くんが言ってた』

「ああ、なんか蓮くんも恭一くんから言われたみたいなこと言ってた」

『あの二人。最近よく連絡とってるみたい。烏丸くんの病気のこと恭一くんも知ってたよ。本人に聞いたみたい。それにしても、二人で出かけるとかありえないんだけど』

「まあまあ、私たちもついて行けばいいじゃん」

『そっか、じゃあ、またね』

「はーい。またね」

蓮くん、恭一くんにも病気のこと話したんだ。

理由は分からない。

けど、真っ直ぐ生きて行こうっていう覚悟なのかな。

それにしても――

みんな気にかけてくれてるんだね。

私たちのこと。

「ありがとう」

小さく漏れた声。

私はしゅっと立ち上がる。

窓を開けて。

冷たさと暖かさが混ざった空気が髪を揺らす。

「みんな、ありがとう」

想いを。

ただ、風に乗せてみたよ。


*作中の『みんなで祈ろう』というイベントは『後日談・つないでいくもの』の作中で起きたエピソードです。全作品の世界観、時間軸は同じなので、唐突かもしれませんがこのエピを執筆いたしました。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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