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好きだから。  作者: ぽんこつ


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56/67

浴衣デート。踊る食べる撮る。

終点の帝釈寺に着く頃にはバスは満腹状態だった。

外は藍色の空。

すっかり夜。

外に出た途端。

ドドン、ドドン……

太鼓の音が風に乗ってきた。

気持ち涼しい風。

うなじと裾の辺りがスースーする。

立ち並ぶ鮮やかな出店から。

焼けるソースや香ばしい匂いがあたりを包んでいた。

吸いついた右手。

そして、触れ合う腕。

人混みだからくっつくでしょ。

そうしたらもう、腕もね。

くっつくの肌と肌が。

お互いじんわり汗かいてるから。

纏わりつくようにくっつくの。

「じゃあ、まず腹ごしらえしてからだな」

「はい」

「たこ焼き以外はどうする?」

「あ、りんご飴がいいな」

「じゃあ、そこに、たこ焼きあるから先買ってから探そうか」

「うん」

蓮くんが人混みを上手に。

私を守るようにエスコートしてくれるの。

それだけで。

大切にしてくれてるって想えるから。

頬が緩みっぱなしの私。

参道脇のベンチを見つけて、たこ焼きをもぐもぐ。

蓮くんはちゃんと口の端にソースをつけてくれて。

私が拭いてあげるの。

もう、自然な感じだよ。

お互いにちゃんと照れてるけどね。

それから、私のりんご飴と蓮くんのきゅうりの一本漬を買って。

いざ境内へ。


楼門をくぐった途端に。

ドンドンドン。

カラッカッカ。

ドドンドドン……

『大東京音読』の歌声と太鼓の音が一段と大きく耳に届く。

蓮くんはカメラのセッティングをするからって。

つないだ手は離れちゃったけど。

私はりんご飴をパクリ。

「結衣」

優しい響きに振り返る私。

カシャカシャ……

蓮くん連写。

「あっ。今撮ったの?」

「まあね。いい感じに撮れたよ。りんご飴をパクってしていてるとこ」

「もう」

ちょっと膨れて見せるけど。

私を。

私だけを見て、撮ってくれてるの知ってるから。

だって。

かわいいって想って撮ってくれてるの知ってるから。

「よし、じゃあさ結衣。俺のこと撮ってよ」

「え?」

蓮くんは私にカメラのストラップを首に掛けた。

「シャッターボタン押せばいいから」

なんか嬉しそうな蓮くん。

りんご飴片手にカメラを構えると。

蓮くんはきゅうりに刺さっていた割り箸を抜いて。

「じゃあ、食べてるとこ撮って」

「うん」

「いくよ、奥義、きゅうりの早食い!」

素手で持ったきゅうりにかぶりつく。

私はシャッターボタンを押す。

ぽりぽりとこぎみいい音を出しながら。

一気に半分まで食べた蓮くん。

「ハハハ」

食べ方が面白くて。

笑いが込み上げる。

「ちょっと何やってんの蓮くん」

「いや、この食べ方が旨いんだよ」

「もう、ちょっとカメラ持って」

口の周りがびちゃびちゃなの。

「じっとしてて」

そっとウエットティッシュで拭いてあげる。

唇に目が行って。

指先から伝わるぬくもりに。

きゅるるってなりながら。

「ありがとう」

「子供みたいでかわいい」

「いいだろ。結衣の前だけだから」

そう言って歩き出す蓮くん。

こころの奥で漏れる吐息。

ダメだ。

もうどうしてくれるの?

この気持ち?

おちょぼ口でりんご飴に八つ当たり。

「よく撮れてる。結衣、やっぱり写真撮るの上手だよ」

ちょんちょんと下駄を鳴らして。

近づく私。

「それだけ?」

「ん?」

私を見て首を傾げる蓮くん。

袖を握った手を胸元に添えて。

じっと見つめ返してみる。

ドン、ドン、ドン……

蓮くんはゆっくり目尻を下げて。

唇にあったかい感触を残してくれた。

ほんのわずかなぬくもりだけど。

太鼓の音よりはるかに早い鼓動が駆け巡っていった。

「結衣、踊り教えて」

「うん」

盆踊りのキスは少しだけしょっぱい味。


今、流れてるのは『葛飾音頭』ちょっと初心者の蓮くんには難しいかも。

かく言う私もちょっと忘れてる。

けど、振りを見たら踊れるよ。

「東京音頭がかかったら輪に入ろ」

「ああ、わかった」

首を左右に倒して、伸びをする蓮くん。

やる気満々。

そんな姿一つでにこにこ大魔王な私。

「じゃあ、結衣踊ってよ、写真撮る」

「へ?」

「ほら、早く」

「ちょ、ちょっと……」

蓮くんは私の両肩を押しながら、踊る人に会釈をして私を列に押し込んだ。

えーと。

前の人を見て動きを合わせる。

お父さんが言ってたけど、体で覚えたものは忘れないって。

ダンスもそうだけど。

不思議と足が運べて。

手も滑らかに伸びる。

カシャカシャ……

もう。

蓮くんったら。

かわいく撮れてますか?

俄然、しっかり踊りたくなってくる私。

でもすぐに終わっちゃって。

少し汗ばむ体。

『タッタ、タッタ、ター。

タッタラッタ、ラッタ、ラッタ。

タッタラッタ、ラッタ、ラッタ……』

ドドン、ドドン。

カラッカッカ……

「蓮くん!」

私は伸ばした両手で手招きをする。

蓮くんはそろそろと近寄ってくる。

「これなら踊りやすいと思う。私の真似して教えてあげるから」

「よし!」

「まずは手拍子から」

『ハア~ 踊り踊るな~ら

ちょいと 東京音頭 よいよい

花の都の~ 花の都の真ん中で~……』

時々振り返りながら様子を見ると。

ぎこちないけど。

真剣な表情の蓮くん。

でも、呑み込みが早いのか、終わり頃には様になっている。

次にかかったのは『大東京音頭』。

私は蓮くんの浴衣の袖を掴んで輪の中から抜ける。

「これもちょっと難しいから、でもどうだった?」

「いけると思う。次もう一回踊ろう!」

「うん。あとそうだな、炭坑節とかも簡単かも」

「そうなの?」

私は身振り手振りで教えてみる。

「掘って、掘って、また掘って、担いで担いで、後ずさり、押して押して、開いて、ちょちょんがちょん」

「ああ、分かりやすい」

蓮くんはその場で口ずさみながら振りをする。

上手い。

なんか。

かっこいい。

ぽーっとしてしまう。

男の人が踊るから?

ううん。

蓮くんだからだよね。

「で、どう? 先生?」

「ん? あ、いいと想う。あとは実際、歩きながら慣れれば全然その……」

「どした? なに?」

「かっこいいです」

「そ、そっか……」

首の後ろに手を当てて、はにかむ蓮くん。

浴衣姿だからか、いつもの仕草にも。

しゅわしゅわ弾けるこころ。

「でも、結衣もそのなんだ、浴衣で踊ってるのめっちゃかわいい」

ピーンって音が遠くなる。

鼻緒がむずむずして。

うなじがすーすーして。

胸元がそわそわして。

おくれ毛をつまんだ。

「そ、そしたら、二曲踊れるか。下手でも結衣と一緒に踊りたいかも」

「え?」

「せっかくだし、踊ろう!」

私の手を引っ張って輪の中に入る。

「じゃあ、交代で前と後ろ代わろ」

「オーケー」


結局、5曲踊って一休み。

トイレでじわりと湧いた汗をシートで拭う。

そっと唇に触れる。

今日もキスしちゃった。

キスってすごいな。

ドキドキも運んでくるけど。

一瞬でフワッと気持ちよくなって。

幸せな気分になる。

もちろん。

手をつないだり。

触れ合うだけでも。

それから――

妄想大魔王が陰からのぞいてて。

メイクや髪の毛をチェックする。

浴衣の裾を直して。

よし。

トイレの外で待ち合わせ。

蓮くんはまだみたい。

太鼓櫓を中心にたくさんのひとが踊っている。

オレンジ色の提灯が包み込んだ空間。

夕焼けみたい。

「お待たせ!」

「待ってないよ」

「ほら」

蓮くんはどこから手に入れたのか、手にしたうちわで私に涼しさを作ってくれた。

「どうしたの?」

「ん? そこのお店で売ってた」

「蓮くん。やさしいね。ありがとう」

「いや、当たり前だろ」

だって。

もう。

どんだけ、好きを増やしてくれるんですか?

「ちょっと貸して」

私は蓮くんから、うちわをもらうい、扇いであげる。

「あ、ありがとう。めっちゃ涼しい」

前髪が風に揺れて。

頬は緩んで。

瞳は私に一直線。

「ちょっとあそこで休憩しよ」

蓮くんの手を握ってお堂の前の階段に腰掛けた。


ドンドンドン。

ドドンドドン……

軽やかな太鼓の音色。

境内に響く歌声。

「盆踊りって見るのもいいけど踊るのもめっちゃ楽しい。結衣のおかげだな」

「へへ。でも蓮くん初めてでしょ踊ったの? 上手だよ」

「そうか。先生のお墨付き、ありがとう」

「蓮くん好きだよ」

「ん? どした?」

「ちゃんと言いたいの。好きだってこと。一日に何回でも。何十回でも」

「そっか、俺も大好きだよ結衣」

「うん」

何気に見上げた櫓の上。

「あ! 宥羽先輩だ」

「え?」

二つ上の高校の先輩。

舞踊部の華。

日舞のコンクールの高校生部門で日本一になった。

私たちの高校のレジェンド。

種類は違うけど、同じ踊る者として尊敬している人。

でも。

太鼓も叩けるんだ。

「ほんとだ、浴衣姿で……あれ? じゃあ昔写真撮ったの先輩だったのかな?」

「え? あの飾ってあった写真の太鼓叩いてる女の子?」

「かなって。想った」

浴衣に襷がけをして。

太鼓を叩く姿は。

かっこかわいい。

その様子を少しの間、眺めていた。

「よし、じゃあ結衣踊ろ」

私を見つめる眼差しが。

おねだりをする子供みたいに。

そして。

一緒にいて楽しいって。

好きだよって。

言ってくれてる。

「うん!」

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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