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好きだから。  作者: ぽんこつ


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55/68

浴衣デート。ずきゅんってなって。

薄紫の空。

暮れ始めた街。

外灯が点いて。

夜がもうすぐ傍まで。

でも、まだ気温は昼の名残りが漂って蒸している。

手で顔を仰ぎながら。

きょろきょろして。

慣れない下駄の足音が弾んでいる。

浴衣に袖を通すのは中学校の時以来。

チアのユニフォームと一緒で。

着たら自然に背筋がシャキッとする。

レモンイエローの生地に、オレンジ色とピンク色のシャボン玉みたいな、透明な球体のモチーフが散りばめられたモダンな浴衣。

風や水の流れを感じさせる白い流水紋があしらわれて。

水飛沫みたいな、水色と白の小さなドットが描かれている。

帯はラベンダーのシワ加工が施された兵児帯。

背中でふんわりと大きくリボン結んである。

髪も編み込んだアップスタイル。

チアの時もうなじは出てるのに。

なんかスースーしてそわそわする。


蓮くんとの待ち合わせ。

小間井駅前の噴水広場にいる。

たまにはって。

約束の20分前に来た私。

でもね、それから5分後に蓮くんやって来た。

ドキッとした。

だって。

浴衣姿で。

かっこいいなって。

むずむずしだして。

足の指で下駄の鼻緒を挟んで。

襟元に手を添えて。

おくれ毛を伸ばしてみて。

裾を直して。

忙しない心臓と私。

「ごめん、待たせた?」

「ううん。今来たとこ」

言っちゃったけど。

なんか。

すごく。

ダメなの。

じんじん熱くてにわかに汗がわいてくる。

視線が磁石みたいにくっついちゃった。

そしたら蓮くんも、ずっと私を見ているの。

え?

こんな所で?

キス――

会ったそばから?

何の前触れもなく頭に居座っていた妄想大魔王。

「れ、蓮くん?」

見事に裏返りかすれた声。

それとなく咳払い。

「ん? あ、行こうか」

「はい」

私の右手は居場所に戻れて。

もう汗をかいていた。

これから隣町の帝釈寺の盆踊りに行く。

浴衣と一緒で中学校の時以来。

いつだったか盆踊りコンクールで入賞したこともあったけど。

気の早い私と蓮くんのおかげで。

予定より一本早いバスに乗れた。

一番奥のシートに並んで座る。

修学旅行以来。

あの時と違うのは。

彼氏と彼女。

恋人です。

唇を噛んで。

あまりにもずきゅんな浴衣姿を眺める。

と思ったら、蓮くんも見てた。

膝をこすり合わせて。

裾を直して。

バッグの縁を指でなぞる。

ブルルルって。

お尻にエンジンの振動が伝わって。

バスはゆっくり動き出した。

「あの……」

「あっ……」

言葉がぶつかっちゃった。

片手を差し出すと。

蓮くんも差し出す。

いやいやって。

私が手を振ると。

蓮くんも真似をする。

楽しい。

「あのさ、浴衣似合ってるな結衣」

「あ、は、ふん、ありがとう。蓮くんもすごく似合ってて、かっこいい」

変な声が出て。

尻すぼみな声の私。

「そっか、よかった。こういうの初めて着たからどうなのかなって想ってたから」

「すごく、かっこいいし、素敵だよ……」

「ありがとう結衣」

私の頭のポンポンスイッチが押された。

またゾクゾクってしちゃう。

たぶん。

蓮くんが嫌いなトマトより赤いんだ私。


停留所ごとに盆踊りに行くお客さんも乗ってくる。

浴衣姿の子供や家族。

そして私たちのような恋人同士も。

「結衣は盆踊り踊れるの?」

「うん、踊れるよ」

「さすが、チアで踊ってるだけのことはある」

「へへ。蓮くんは?」

「俺は、見たことあるし、どっちかって言うと輪の外で写真を撮ってかな」

「そっか。確かに飾ってあったもんね盆踊りの写真」

「あとでさ、一緒に撮ろうな、俺たちの浴衣姿の写真」

「うん!」

まだ目的地に着いていないのに。

もう、こころのメーターはふりきれちゃってるんだよ。

「そうだ、蓮くんも少しだけ輪の中に入ってみようよ」

「そうだな、せっかくだし、結衣に教えてもらう」

「まかせて、比較的簡単なの一緒に踊ろ」

「頑張る、なんか楽しいな結衣」

「え? うん! まだ着いてないけどね」

「ハハハ。そっか。出店でさなんか軽く食べよう」

「うんうん。蓮くんは何食べたい?」

「ん? 結衣は何食べたいの?」

って言って。

目と目が合って。

蓮くんが吹き出して。

私もお腹を抱えて肩を揺する。

「いっつも俺たちこの会話するな」

「そうだね、でもさ、こういうのも楽しい」

「そうだな、分かってても言ってそうだもんな、結衣」

「えー? 私だけ?」

口を尖らせて膨れる。

蓮くんが私のほっぺを――

つんつんする。

びりびりってなって。

息を吹きだしたら。

蓮くんは大笑い。

私もニコニコだけど。

こころの中はわさわさしてるよ。

「もう、ひどいよ蓮くん」

ぐーで蓮くんの腕を押し込んだ。

あっ。

触っちゃった。

「ごめん、ごめん。じゃあ、お詫びにたこ焼き奢る」

「え? いいの?」

「うん」

あれ?

蓮くんの耳が赤い。

もしかして。

私に触れて。

同じように、わさわさしてますか?

私は小さく息を吐いて。

蓮くんの肩にちょこんと頭を乗せた。

ビクッてなった蓮くん。

「どうした?」

「うん。ちょっとだけ甘えさせてください」

「え?」

エアコンで冷えてきた車内。

手のひらと。

寄りかかった体に伝わる蓮くんの体温。

私の体温と触れ合った部分が温かくなっていく。

帝釈寺まで、あと10分もないけど。

勇気を出して。

甘えたの。

バスの揺らぎに、同じように動く私と蓮くん。

やっぱり。

なんでも。

一緒っていいね。

蓮くん。


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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