浴衣デート。ずきゅんってなって。
薄紫の空。
暮れ始めた街。
外灯が点いて。
夜がもうすぐ傍まで。
でも、まだ気温は昼の名残りが漂って蒸している。
手で顔を仰ぎながら。
きょろきょろして。
慣れない下駄の足音が弾んでいる。
浴衣に袖を通すのは中学校の時以来。
チアのユニフォームと一緒で。
着たら自然に背筋がシャキッとする。
レモンイエローの生地に、オレンジ色とピンク色のシャボン玉みたいな、透明な球体のモチーフが散りばめられたモダンな浴衣。
風や水の流れを感じさせる白い流水紋があしらわれて。
水飛沫みたいな、水色と白の小さなドットが描かれている。
帯はラベンダーのシワ加工が施された兵児帯。
背中でふんわりと大きくリボン結んである。
髪も編み込んだアップスタイル。
チアの時もうなじは出てるのに。
なんかスースーしてそわそわする。
蓮くんとの待ち合わせ。
小間井駅前の噴水広場にいる。
たまにはって。
約束の20分前に来た私。
でもね、それから5分後に蓮くんやって来た。
ドキッとした。
だって。
浴衣姿で。
かっこいいなって。
むずむずしだして。
足の指で下駄の鼻緒を挟んで。
襟元に手を添えて。
おくれ毛を伸ばしてみて。
裾を直して。
忙しない心臓と私。
「ごめん、待たせた?」
「ううん。今来たとこ」
言っちゃったけど。
なんか。
すごく。
ダメなの。
じんじん熱くてにわかに汗がわいてくる。
視線が磁石みたいにくっついちゃった。
そしたら蓮くんも、ずっと私を見ているの。
え?
こんな所で?
キス――
会ったそばから?
何の前触れもなく頭に居座っていた妄想大魔王。
「れ、蓮くん?」
見事に裏返りかすれた声。
それとなく咳払い。
「ん? あ、行こうか」
「はい」
私の右手は居場所に戻れて。
もう汗をかいていた。
これから隣町の帝釈寺の盆踊りに行く。
浴衣と一緒で中学校の時以来。
いつだったか盆踊りコンクールで入賞したこともあったけど。
気の早い私と蓮くんのおかげで。
予定より一本早いバスに乗れた。
一番奥のシートに並んで座る。
修学旅行以来。
あの時と違うのは。
彼氏と彼女。
恋人です。
唇を噛んで。
あまりにもずきゅんな浴衣姿を眺める。
と思ったら、蓮くんも見てた。
膝をこすり合わせて。
裾を直して。
バッグの縁を指でなぞる。
ブルルルって。
お尻にエンジンの振動が伝わって。
バスはゆっくり動き出した。
「あの……」
「あっ……」
言葉がぶつかっちゃった。
片手を差し出すと。
蓮くんも差し出す。
いやいやって。
私が手を振ると。
蓮くんも真似をする。
楽しい。
「あのさ、浴衣似合ってるな結衣」
「あ、は、ふん、ありがとう。蓮くんもすごく似合ってて、かっこいい」
変な声が出て。
尻すぼみな声の私。
「そっか、よかった。こういうの初めて着たからどうなのかなって想ってたから」
「すごく、かっこいいし、素敵だよ……」
「ありがとう結衣」
私の頭のポンポンスイッチが押された。
またゾクゾクってしちゃう。
たぶん。
蓮くんが嫌いなトマトより赤いんだ私。
停留所ごとに盆踊りに行くお客さんも乗ってくる。
浴衣姿の子供や家族。
そして私たちのような恋人同士も。
「結衣は盆踊り踊れるの?」
「うん、踊れるよ」
「さすが、チアで踊ってるだけのことはある」
「へへ。蓮くんは?」
「俺は、見たことあるし、どっちかって言うと輪の外で写真を撮ってかな」
「そっか。確かに飾ってあったもんね盆踊りの写真」
「あとでさ、一緒に撮ろうな、俺たちの浴衣姿の写真」
「うん!」
まだ目的地に着いていないのに。
もう、こころのメーターはふりきれちゃってるんだよ。
「そうだ、蓮くんも少しだけ輪の中に入ってみようよ」
「そうだな、せっかくだし、結衣に教えてもらう」
「まかせて、比較的簡単なの一緒に踊ろ」
「頑張る、なんか楽しいな結衣」
「え? うん! まだ着いてないけどね」
「ハハハ。そっか。出店でさなんか軽く食べよう」
「うんうん。蓮くんは何食べたい?」
「ん? 結衣は何食べたいの?」
って言って。
目と目が合って。
蓮くんが吹き出して。
私もお腹を抱えて肩を揺する。
「いっつも俺たちこの会話するな」
「そうだね、でもさ、こういうのも楽しい」
「そうだな、分かってても言ってそうだもんな、結衣」
「えー? 私だけ?」
口を尖らせて膨れる。
蓮くんが私のほっぺを――
つんつんする。
びりびりってなって。
息を吹きだしたら。
蓮くんは大笑い。
私もニコニコだけど。
こころの中はわさわさしてるよ。
「もう、ひどいよ蓮くん」
ぐーで蓮くんの腕を押し込んだ。
あっ。
触っちゃった。
「ごめん、ごめん。じゃあ、お詫びにたこ焼き奢る」
「え? いいの?」
「うん」
あれ?
蓮くんの耳が赤い。
もしかして。
私に触れて。
同じように、わさわさしてますか?
私は小さく息を吐いて。
蓮くんの肩にちょこんと頭を乗せた。
ビクッてなった蓮くん。
「どうした?」
「うん。ちょっとだけ甘えさせてください」
「え?」
エアコンで冷えてきた車内。
手のひらと。
寄りかかった体に伝わる蓮くんの体温。
私の体温と触れ合った部分が温かくなっていく。
帝釈寺まで、あと10分もないけど。
勇気を出して。
甘えたの。
バスの揺らぎに、同じように動く私と蓮くん。
やっぱり。
なんでも。
一緒っていいね。
蓮くん。
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