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好きだから。  作者: ぽんこつ


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汗の記憶

「なんか、みんなに気を使わせちゃったかな」

ビクッと体が跳ねる。

いつの間にか隣にいる蓮くん。

「え? うん。でも大丈夫だよみんな優しいから」

「だね」

そっと蓮くんの手を握る私。

いつもの定位置。

私の右手と蓮くんの左手。

汗が吸いついて、ピタッとおさまる。

「そうそう、パフォーマンス良かったよ。みんな息ピッタリだったし……」

なんか言い淀んだ蓮くん。

「ん? どうしたの?」

「結衣もかわいかった」

あっ。

ユニフォーム姿で言ってくれたの初めてだ。

ほっぺがにんまり。

「ふふ。ありがとう」

「今日でチアの姿も見納めだな」

そうしみじみと言われると。

寂しい気持ちがやってくる。

「うん。そうだね。ん? あれ? もしかしてまだ見たいの?」

「え? あ、いや、そういう訳じゃなくて、何か寂しくなるなって」

「どして?」

「ずっと、見てきたし……」

蓮くんはカメラを持ち上げて。

きりっと口角を上げた。

「ずっと撮ってきた姿だからね」

「そっか、じゃあ、また着てあげる」

「え?」

「これ、オーダーメイドだから買取なの。みんなそうだけど。蓮くんのためにだけ着て踊ってあげる」

私はそっと手を離して。

スカートの裾をつまんでおどけてみせた。

みるみる顔が赤く染まっていく蓮くん。

かわいい。

「そ、そっか。じゃあ、撮影会しないとな」

「うん、いいよ」

何度も前髪を払って。

視線がおぼつかない。

なんかそわそわしだす蓮くん。

「どうしたの?」

「あ、いや。そうそう。今日は結衣がお弁当作ってくれたんだろ?」

「うん。朝から頑張ったんだよ」

「ありがとう、結衣」

「へへ。いいよ。お腹空いたね」

「あ、ああ……」

どうしたんだろ?

なんか変なの。

お腹空いてるのかな?

お弁当、喜んでくれるかな。

どうかな。

美味しいって言ってくれるかな。

蓮くんはまだ、前髪を気にしてる。

かわいい。

「行くよ! お腹ペコペコ!」

私は蓮くんの手を少しだけ強く引いて、校舎へと急いだ。


エアコンの音だけが聞こえる教室。

火照った体と汗を冷ましてくれる。

蓮くんの席でランチタイム。

今日のために買ったお揃いのお弁当箱。

中身は、出汁巻き玉子と焼き鮭。

梅干し一つ。

ミートボールとお漬物。

これまた色違いでお揃いのスープジャーには、わかめとお豆腐のお味噌汁。

「開けて見て」

蓮くんは蓋をそっと開ける。

「おお! 旨そう」

そう言って蓮くんはお漬物のきゅうりを一つまみ。

「ああ。もう蓮くん」

ぽりぽりして。

ごっくん。

「旨い」

顔を突き出してにっこり。

その顔につられるように私もほっこり。

眉を上げる蓮くん。

私は体を揺すって座り直す。

声をそろえて。

「いただきます!」

いつものことだけど。

蓮くんの食べてる姿を見ているだけで。

ほんわかしてくる。

鮭の切り身をパクッ。

そしてごはんをもぐもぐ。

お味噌汁を飲んで。

うなずく蓮くん。

箸の持ち方も、使い方もなんかきれい。

箸を口につけたまま、見惚れる私。

こうして見ていると。

想っちゃいけないし。

考えちゃいけないけど。

病気だってことが嘘や夢の中の出来事なんじゃないかって。

ふとよぎってしまう。

「どした? 食べないの?」

「え? ああ、ううん」

私も出汁巻きをパクリ。

もぐもぐ。

ふんわりしてて、なかなかいい出来。

でも、もっと美味しくできないかな。

なんて。

動機は全部蓮くんな私。


「あ、そうだ。今年の文化祭でベストカップルって投票イベントがあるみたいなんだ」

「なにそれ?」

「生徒が学校内で、憧れのカップルに投票するんだって」

「ふーん」

あまり興味がなさそうな蓮くん。

お味噌汁を飲んで。

うなずいて笑う。

「チア部のみんながね、私たちに投票するって言ってくれてる」

「そうなんだ」

梅干しを口へ運んだ蓮くんは。

眉が下がって。

おちょぼ口。

こっちまで酸っぱくなってくる。

ゴクリとつばを飲み込む私。

「でねでね、ベストカップルに選ばれたらネズミ―リゾートのチケットがもらえるんだって」

一瞬動きが止まった蓮くん。

すぐに、ぽりぽりとお漬物を噛んでいる。

「ふーん? そうなの?」

蓮くんが行ってみたいって言ってたから。

私も蓮くんと行ってみたい。

「うん、そう言ってた。選ばれたらいいな私たち……」

箸を置いて。

そっと右手を差し出した。

蓮くんはそっと伸ばした左手を重ねる。

「そうか、そうだな」

「でもまあ、選ばれなくても、私たちは私たちだもんね」

つないだ手にギュッて力を込めた。

やさしく握り返してくれる。

合わさった手のひらでも会話しているみたい。

汗が吸いついて。

くしゅくしゅなるこころ。

「な、なんか二人っきりで教室にいると不思議だね」

「確かに、でも、なんか新鮮」

ふわりと上がる、蓮くんの口角と頬。

そんな顔を見ていたら。

「……蓮くん好きだよ」

って。

こころで言ったつもりが、声に出ちゃってた。

顔を伏せて。

ツインテールの毛先を指に巻き付けた。

「結衣、大好きだよ」

「ふぁっ」

変な声を発してしまう。

だって。

教室で呼ばれることないから。

「ほら、食べよ。しっかり食べてラストパフォーマンス焼き付けるからさ」

「は、はい」

「帰りは一緒に帰れるの?」

「うん」

「じゃあ。校門で待ってる」

「はい」

教室に差し込んだ真夏の陽射し。

蓮くんの頬を照らして。

私の頬にもぬくもりをもたらして。

じわっと汗がわいてくる。

今この瞬間しか味わえない幸せを噛みしめた。


光のシャワーが降り注ぐ午後のラストステージ。

午前中より多くの人が集まっていた。

蓮くんは午前の部を見ていた場所にはいなくて。

代わりに写真部の大塚くんがレンズを向けていた。

視界にどこにも姿を見付けることが出来なくて。

ちょっと。

不安になる私。

でも、当たり前だけど。

パフォーマンスの質は落とさないし。

落とせない。

だって。

私はチアだから。

お客さん達も歌って踊って。

会場も一体となって。

盛り上がる。

髪が舞って。

翻るスカート。

肌を伝う汗。

三年分の笑顔を届けるんだ。


あっという間に熱狂に満ちたステージは幕を閉じて。

忘れがたい青春の想い出。

終わっちゃったというより。

成し遂げた達成感のが強い。

みんなで両手を高く突き上げて、ポンポンを振りながら飛び跳ねる。

でも――

蓮くんの姿が見当たらなくて。

どうしちゃったんだろ……

「アンコール、アンコール……」

にわかに、わき上がった声。

七海ちゃん、千彩ちゃんが真奈美の元に。

私も駆け寄った。

イベントのスタッフが、

「せっかくだから一曲、どうですか?」

って、言ってくれた。

「どうする?」

みんなを見回す真奈美。

「んー。チアのみんなはどうなの?」

七海ちゃんは私と真奈美に視線を送る。

「うちらは、踊る分には問題ないけど、何の曲かにもよるかな」

真奈美が私を見る。

こくんとうなずいた私。

「だよね。擦り合わせた曲でボツになったやつやる? あれも知ってる人いそうだし」

すでに乗り気の千彩ちゃん。

「ああ、『WAになっておどろう』」

これは私たちが一年生の時にこのステージで踊った曲。

「よし、決まりだね」

腕を振りながら親指を立てた七海ちゃん。


そして――

音楽が鳴り出す。

振りは体が覚えている。

観客のみんなも大合唱しながら、各々リズムに乗って踊っている。

サビの部分では、みんなで左右に手を振る。

光の中で揃った手の動きが、風になびく草原のように見えた。

でも――

このどこにも蓮くんの姿が見えなくて。

何かあったんじゃないかって。

ネガティブ大魔王が忍び寄る。

かき消すように体を動かして。

ん?

何気に視界に入った正面の建物の二階。

ガラス窓の奥。

いた!

蓮くん。

なんで?

あんなとこにいるの?

あ?

ビデオ撮ってる?

もう。

心配したんだよ……

振りに紛れて手を振りながら蓮くんを見つめる。

小さく手を振り返してくれる。

ん?

あそこって何のお店だろ?

蓮くんの隣にいるマネキン……

かわいいレースの下着を着けている。

ふーん。

ん?

下着屋さん?

なんで!?

ずっこけそうになって。

ステップがワンテンポ遅れる私。

なんかいやだ。

マネキンが蓮くんを――

ううん。

蓮くん、ああいうのが好きなの?

あっ。

私にプレゼントとか?

ただでさえ暑いのに。

ほっぺが、耳が熱い。

目に入った汗がしみて痛い。

ダメダメ。

最後のステージだよ。

集中だよ。

結衣!

って、曲が終わる。

そして、軽音部のみんなも混ざって一列に手をつないで。

お辞儀をした。

喝采が吹き荒れる。

聡美や真梨はもうすでに涙ぐんでいた。

舞台裏に下がって。

部員一人一人とハグして回る。

次の出番の人達がいるから長居は出来なくて。

また、ぞろぞろと学校まで歩いて帰る。

なんか、ちょっとしんみりしちゃった。


でも――

なんで下着屋さんなんかに。

あらぬ妄想を呼び込む大魔王。

もしかして――

やばい。

お腹がきゅるるってなって。

外気より熱くなる体。

もう……

蓮くんのせいだ……

「結衣!」

背後から飛んでくる蓮くんの声。

ビクッと心臓も体もこころも跳ねる。

「あっ」

立ち止まる私。

真奈美たちはニヤニヤしながら歩いて行く。

私はみんなに小さく手を振って。

胸に手を添えて。

深呼吸一つ。

息を切らして隣に並んだ蓮くん。

「最後のステージ。良かったよ、大塚からビデオカメラ借りて撮れたからバッチリ」

瞳がきらきらして子供みたい。

でもさ。

蓮くん、どこで撮ってたの?

って、聞きたいけど。

聞けない。

もぞもぞと膝をこすり合わせる私。

「そ、そうなんだ。でもなんで、あのお店なの?」

あっ。

言っちゃった。

もう夕陽みたいな顔してる私。

「え? あ、それは、あそこが一番、結衣を綺麗に撮れるから、お店の人に頼んだんだよ」

蓮くんは頭をかきながらうつむいた。

伝染したみたいにほっぺが赤い。

「そっか……ちょっとびっくりしたかな」

「あ、そうか、そうだよな、ごめん結衣、その変なあれはなくて。あそこからステージ全体を見下ろせて、いい場所だったんだ。本当に」

あっ。

蓮くんにさらわれた私の右手。

お互いの汗が交わる。

やさしいね。

分かってるんだよ。

蓮くんが私のために頑張ってくれたこと。

でもさ。

蓮くん。

女の子だって――

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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