表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから。  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/66


そして――

今日は帰るという蓮くんの手を引っ張って、二階の自分の部屋に連れて行く。

だって。

頑張って。

震えながらも。

一生懸命。

話してくれた蓮くんを抱きしめてあげたかったの。

あっためてあげたかったの。

ありがとうって。

「おい、結衣」

「いいでしょ、ちょっとでもいいから」

「分かりました」

「うん。素直な蓮くんかわいい」

「なんだそれ」

「いいの」

階段を上がり始めた私たち。

「結衣、ケーキあるけど、どうするの?」

キッチンから飛んでくるお母さんの声。

「蓮くんも食べるでしょ?」

「ああ、じゃあ頂こうかな」

少しでも一緒にいたいもんね。

「食べるー!」

大きな声を返すと、お母さんは廊下に出て来た。

「どうするの部屋で食べるの? こっちで食べる?」

「ああ、じゃあ部屋がいいかな」

「そう、じゃあ、準備しとくから取りに来なさいね」

「うん」

私は蓮くんを案内する。

扉を開けて、

「どうぞ」

って言ったら、蓮くんは一度私を見て小さく息を吸った。

「お邪魔しまーす」

なぜか小さな声で。

蓮くんは、手もみしながら部屋に入るなり、室内を見回している。

なんかその姿が、おどおどしてて。

かわいいの。

でもね。

ドキドキしてるんだよ。

初めての男の子だからね。

蓮くん。

お父さんとお爺ちゃん以外で私の部屋に入るの。


――バタン。

扉を後ろ手で閉めて。

ビクッとして振り返る蓮くんは、首を傾げて、眉を上げる。

私は瞳を見つめ返したまま。

ガチャ……

鍵をかけて……

トントントンって駆け寄って。

蓮くんに抱きついた。

「お、おい」

「ありがとう。蓮くん。私のために頑張ってくれて」

ぎゅうって力を込めた。

「ああ。うん。めっちゃ緊張した。断られたらって、不安だったし」

蓮くんの腕が私を包む。

腰に触れる腕と手。

ゾクッとしちゃって。

お腹がきゅうって、いつものように。

頬ずりをして蓮くんに顔をうずめる。

心地よい胸の中で。

とかされて、とろけてしまいそう。

背中に回した手のひらから伝わる。

がっしりとした筋肉と体温。

ドク、ドク……

まだ少し早い鼓動も匂いも。

私の鼓動はすぐに蓮くんを追い越しちゃう。

妄想大魔王がやってきて。

このまま――

なんてことがよぎっちゃう私。

蓮くんは、そんな私の気持ちを知ってか知らずか。

私の背中をとんとんした。

そっと顔を上げる私。

少しホッとしたような。

でも、なんだろう。

少し凛々しい顔。

「でも、よく許してくれたなって。結衣のご両親」

「ん?」

「正直、驚いてる」

「もし、断られたら? どうしてたの?」

「それは、結衣と同じ。何度でも来る覚悟だった」

蓮くんは顎を引いて私を見つめて。

にこりと笑う。

こころから込み上げる微笑みで見つめ返す。

「でもね、結衣のためと同じくらい、俺自身のためでもあった」

「蓮くん、自身のため?」

「そう。俺は諦めていた。生きるってことを……どうせ死ぬんだからって……」

私が蓮くんの背中をさすると、蓮くんは私の髪を撫でる。

「結衣に出逢うまではね」

「ん……?」

「俺の中で写真は、自分が生きた存在証明なんだ。この世に烏丸蓮という人間が生きていた証」

「生きた証……」

あっ。

証を刻んで――

自分の声がよみがえっちゃって。

その言葉にドキッとするのは。

私だけ?

ですか?

蓮くん。

見上げたすぐ傍にある。

唇を求めそうで。

唇を噛む。

「ありもしない奇跡にすがりたくなったって、話したろ?」

「……うん」

「生きたいって。想ったんだその時。結衣と一緒に。時間は限られているけれど。病気が分かってから、初めてそんな風に想えた」

「うん」

「結衣に出逢ってから、撮るようになった俺の写真。変わったんだって」

「ん?」

見上げた私。

すぐに交わる視線。

かすかに揺れて潤いを帯びている蓮くんの瞳。

あっ。

私はそっと目を閉じる。

唇に――

あったかくて。

柔らかい感触。

キスしたいって想ってくれたんだ。

それとも、私の気持ちが筒抜けなのかな……?

あっ。

すぐに離れちゃった。


「結衣、座ろ」

蓮くんは私の肩をぽんぽんした。

「……うん」

テーブルの前に肩を並べて腰を下ろした。

「俺さ、インスタグラムやってるんだ」

「え? そうなの?」

ポケットからスマホを出した蓮くん。

「さっき言った存在証明の場所」

そっと私に見えるようにスマホをテーブルに置いた。

あっ。

「蓮くんの写真がいっぱいだ」

「ここで、何人か知り合った人がいるんだ。コメントくれたりして」

「うん」

「その人たちが言うには、高一の頃からさ、結衣が言ってくれたように写真が語りかけてくるんだって」

「うん、そう想うよ」

「そんな風に感じてくれたり想ってくれたりするんだって、俺の写真で。それが嬉しかった」

「うん」

「もちろん、結衣が俺の写真で感じたことを言ってくれた時は、すごく嬉しかった」

「フフン」

「でもね、正直驚いた」

「どうして?」

「ただ、元気で眩しいだけの子じゃないって。感情が豊かなのは何となく写真撮ってる時から感じていたけど。感性も豊かなんだって。惚れ直した」

きゅんって。

むずむずしてスカートの裾をぎゅっと握る。

「もう……」

「さっき、お父さんがコンクール応募したらって言ってくれたろ?」

「ああ、私もそう想う。蓮くんの写真なら賞取れるよ」

「ありがとう。でさ、実はいくつか応募してるんだ」

「え? そうなの?」

「ああ、応募しようってきっかけをくれたのはもちろん結衣だよ」

「私?」

「結衣を撮るようになって変わったのもあるけど、付き合うようになって、さらに変わったって自分で気づいたんだ」

「どんな風に?」

「温度が上がったっていうか感情がよりのるようになった」

「ん? 温度と感情? でも、蓮くんの作品からは温かさとか、被写体に対する感情って出てる気がするけど?」

「そっか、ありがとう。どう言ったらいいかな……より今を撮れるようになった、いや撮らせてもらってるって想えるようになったんだよ」

「うーん。難しいな」

「ごめんな、ようは、そんだけ、結衣が俺の人生……いや、俺に生きるエネルギーをくれたんだ」

「それは、私もだよ」

「え?」

「蓮くんと一緒なら、何も怖くないし、何でも出来るって思うもん」

「結衣……」

「それで、応募しようってなったんだ」

「ああ、えーと、二つ応募してる。日本写真展の高校生部門、これは10月に発表がある。ニャコンクールは12月」

「そうなんだ。絶対賞取れると思う。私の勘は当たるんだよ」

「ああ、取れたら結衣のおかげだし。なんかご馳走する」

「え? 逆でしょ私がお祝いする」

笑い声に包まれる私の部屋。

「ありがとう結衣」

蓮くんは私の頭をポンポンする。

ダメだよって。

そんなことしたら。

ほら。

きゅるるってなるお腹。

全身の血液がグルグル回って。

気がついたら抱き着いていた。

ビクッとした蓮くん。

バランス崩して倒れちゃって。

覆いかぶさった私。

すぐに上体を起こす。

「ご、ごめん」

「ううん」

目の前に蓮くんの顔があって。

そう。

唇もある訳です。

断然早い私の鼓動。

赤い顔の蓮くん。

そっと、目を閉じて

唇を重ねようとした時――

「結衣~! ちょっとケーキどうするのー!」

お母さんの声。

ビクッとして。

瞬時に蓮くんの体から離れて正座した私。

蓮くんもその対面に正座していた。

「結衣ー!」

「あ、今行くー」

蓮くんはスッと立ち上がる。

私もぴょこんと。

目と目が合って。

肩を揺すって笑い出す。

私は蓮くんの手を引っ張って部屋を後にした。



――蓮くんが帰った後。

お父さんとお母さんが、

「やっぱりいい子だね。結衣が好きになったの分かる」

「結衣、どんなことでもいい。お父さんに相談しなさい」

って、声をかけてくれた。


――その日の夜。

お父さんがお風呂に入ってる時。

お母さんと二人でおやつを食べてる時。

「結衣」

「なあにお母さん」

「その……彼とはエッチはしない方がいいかな」

唐突な言葉に心臓がぴょんって跳ねる。

「ん? な、なに急に……どうして、ダメなの?」

お母さんは手にしたマグカップに視線を落とした。

「うん。女性は体に記憶が残るから。特に初めてで、大好きな人だったら尚更……。その記憶が、結衣をずっと縛り付けてしまうのが怖いのよ」

私はうつむいて、そっと腿をさする。

お母さん。

もう残っちゃってるよ。

そうなんだね。

ずっと残るんだ。

うれしいな。

――お母さん。

ありがとう。

私のこと心配してくれて。

顔を上げて微笑むと、お母さんは少し目を見開いて。

マグカップから手を離して。

頷きながら笑った目が滲んでいた。

あっ。

分かっちゃったのかなって思った。

「お母さん、ありがとう。でもね……。私は、蓮くんがいなくなった後に寂しくて死んじゃう私より、蓮くんに触れられなかったことを一生後悔して生きる私の方が、ずっと怖いの」

お母さんはそっと立ち上がって、ゆっくり私の隣に腰掛けた。

細くて柔らかい手が私の手を包んで。

肩を抱き寄せられ、髪を撫でられる。

お風呂上がりの子供の頃みたいに。

「いつの間にこんな大人になっちゃったのかな。良かったねそれだけ好きになれた人に出逢えて」

「うん」

お母さんの腕の中で、私はただ頷いて、温かな雫が頬を伝っていた。


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

感想やご意見ありましたら、お気軽にコメントしてください。

また、どこかいいなと感じて頂けたら評価をポチッと押して頂けると、励みになり幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ