一大事……
窓の向こうの空には高く薄い筋状の雲が幾つも列をなしている。
涼しい秋がやってきた。
部活に妄想に忙しなくしていると時が経つのは早いものでもう10月。
今は昼休み。
私は何とかお弁当を口に運んでいる。
食欲はないけど、早起きしてお母さんが作ってくれたから何とか流し込んでいる状況。
美味しいはずなのに味はそっちのけ。
朝から私の頭の中は麻耶がもたらしたニュース速報が新幹線並みのスピードで、ううん、地球の公転並みのスピードでめくるめいている。
学年のアイドル、七海ちゃんが蓮くんに告ったという話しは学年中を駆け巡り、至るところで話題の中心。
噂の出所も内容も色々で、上手くいったとか、七海ちゃんが振られたとか、錯綜している状況。
七海ちゃんは丸っこいかわいい子。
太ってるわけじゃなくて、髪型もミディアムボブでフワッとしてるし、顔立ちも目もほっぺもふんわりしていて。
身長は私より少し低いくらいで、いつもニコニコしていて本当にかわいい子。
男子も女子もファンは多い。
噂話しは、とどまることを知らず、蓮くんが好きな人がいるからと断ったという内容のものまである。
ずっと気が気じゃない私。
七海ちゃんのことも気になる。
上手くいっちゃったのか、そうでないのか。
いや、上手くいっちゃ困る。
すっごい困る。
とっても困る。
だって――
蓮くんの隣は私がずっと予約しているんだから。
それに……
「好きな人がいる」
って蓮くんの台詞。
もしかして、もしかして……
「違うと思うよ」
現実に引き戻すのは麻耶の声。
口を尖らせて麻耶を睨みつける。
「なに? 何が違うの?」
「え? 聞いてなかったの?」
「ん? 聞い……てた……けど」
大きなため息をつく麻耶。
「ほらこないだ言ってたじゃん、駅前にクレープ屋さん出来るって話」
「……え? ああ、でもそう言ってったよ、お母さん」
「出来るには出来るみたいだけど、ふんわり屋さんじゃなくて個人経営のお店みたいだよ」
その違うだったんだ……
ホッと小さく息を吐いて胸を撫で下ろす。
「もう、結衣さ、どうせ蓮くんと七海のこと考えてたんでしょ?」
「うえ! そんなことないよ」
「もう、バレバレなんだから隠さなくてもいいよ」
「うう……」
ウインナーをパクリ。
ご飯食べたら、聞いてみよう、横山くんと恭一くんに。
「あのね、結衣」
「なあに?」
「あのね……」
箸を置いてうつむく麻耶。
私は身を屈めて覗き込むと真っ赤なほっぺ。
「どうしたの?」
出来るだけ優しく明るい声にする。
下を向いたまま、小声でゴニョニョと何か言っているみたいだけど。
「麻耶?」
「だからね……」
「うん」
「……」
私は顔を近づけて耳に手を当てた。
「あの、今度の週末に、恭一くんとデートすることになった」
ふんふん。
デートかいいなあ。
私も、蓮くんと……
「えー!?」
思わず立ち上がって声を荒げる私。
「結衣!」
あたふたした麻耶は両手でひらひらさせて座って言わんばかり。
「もう……」
うつむき加減の麻耶は肩を丸めて小さくなる。
「ごめん、でも良かったじゃん。でどこいくの? いきさつは? 告ったの?」
「あ、えーと、告白はしてない。一昨日、恭一くんと帰りが一緒になって、そん時にね、あの、サッカー見に行かないって誘ってくれて、それで行く事になった」
「すごい!麻耶よかったね! じゃあじゃあ、その時に告りなよ」
「ひぇ……でもでも、いきなり言っちゃうの?」
「うーん、私だったら言っちゃうけど、あっ……」
「……なに?」
「恭一くんから誘ってきたならワンチャンあるかもよ」
麻耶はいっそう顔を赤らめて、テーブルの上で組んだ指がもそもそと動く。
普段しっかり者の麻耶も恋の病にかかったらかわいい女の子。
「……そ、そうかな?」
「ともかく、楽しむんだよデート」
「う、うん、でも何かごめんね……その……」
「何が? 何で謝るの? 上手くいくといいね!」
「……うん、ありがと」
肩をすぼめて微笑む麻耶。
分かってるよ、私に気を遣って言いづらかったことも、自分だけデートしちゃってって思ってるんだよね、きっと。
いいんだよ。
時々、厳しいことも言ってくれるけど、私のためだっていうのも分かってるよ。
目の前で笑う、今の麻耶の幸せそうな笑顔が見れて私は嬉しいんだ。
クスッと笑いが込み上げる。
私も絶対、幸せになるんだ。
蓮くんの隣で、この笑顔を見せるんだ。
私もいつか……
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