表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから。  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/67

蓮くん誕生日デートです。証。

ザー……

降り止まない雨。

私はスッと立ち上がって蓮くんの隣に腰掛ける。

ベッドが沈んで。

蓮くんの肩が触れて離れた。

私は蓮くんの組んだ両手の上に右手を重ねた。

「うん、話して。蓮くん大好きだよ。……だから、全部、ちょうだい」

私を見て、ゆっくり目じりを下げる蓮くん。

そして私の右手を大きくて温かい手がサンドイッチ。

「結衣の言う通り。俺は結衣が好きだった。ずっと。あ、今ももちろん好きだよ」

力がぐって入って潰される私の右手。

「うん。知ってるよ」

「一目惚れだった。忘れもしない一年の夏。野球部の地区大会一回戦の時」

蓮くんは脇に置いたさっきの写真立てを私の前にかざした。

あっ。

映っていたのは私。

想い出した。

初めてユニフォームを着て応援に行った時で。

ユニフォームに袖を通したことが嬉しくて。

まだ踊りとか全然だったけど。

ただ、ひたむきに声援を送っていた。

その時のエースの先輩が、初回からピンチで。

思わず立ち上がって、

「頑張れ!」

って、声を張り上げた。

その時の私だった。

「いい顔してるだろ?」

「うん」

蓮くんはにこりと笑って、写真立てを自分の脇にそっと置いた。

その手がまたサンドイッチして。

私にドキドキと安心を運んでくる。

「だから、きっと俺のが先に結衣のこと好きになったんじゃないかな」

悔しいけど……

そうかも。

黙って頷く私。

「どっちがとか関係ないけどね。ごめんな。でさ、結衣が初めて告白した時の事覚えてる?」

「うん」

「結衣の気持ちを知った時。めちゃくちゃ嬉しかった。飛び上がって喜びたいくらい嬉しかった」

「でも……」

「聞いて」

ささやくように。

おねだりするような。

声色がこころに触れる。

また潰される右手。

「うん」

「ありがとう。結衣は俺が初めて好きになった女の子だよ。初恋。なんだ」

いつものようにきゅうってなるお腹。

じわっと全身に伝わっていく熱。

だって。

すごい話し方があったかいの。

まるで、触っちゃいけない。

繊細なガラス細工を触るような。

壊れやすい何かを包み込むような。

「私も初恋だよ。蓮くんが」

「そっか。嬉しいよ」

「私も、嬉しいよ……」

呼吸が苦しくて。

そっと胸元を左手で握りしめる。

私の右手をさする蓮くん。

擦れる肌の感触が、ざわざわって全身に伝わって。

もう、死んじゃうよ。


ザー……

「これから言うこと。ちゃんと聞いて、これからのこと考えて」

「え?」

首を捻って、眉を上げる蓮くん。

私はコクリとうなずいた。

蓮くんはゆっくり視線を宙に上げた。

どこでもない、どこかを。

真っ直ぐ見つめている。

私は、その口元を見つめた。

「結衣のこと好きだし、大切だよ。だから結衣を傷つけたくなかった。でも実際は、もうすでに傷つけているかもしれない」

「ん?」

蓮くんは片手をポケットに突っ込んで。

フリスクを取り出した。

そして、それをかざしながら私を見つめる。

首を傾げる私。

カシャカシャってケースを振った蓮くん。

「これ薬なんだ。普段これと普通のフリスクと二つ持ってる」

「ん……?」

蓮くんはケースを脇に置いて私の手をまたサンドイッチ。

その手を見つめた蓮くん。

「はあっ」

って、小さく吐息を零した。

「結衣、ごめんな。俺病気なんだよ。今は凄い状態はいいらしい。でも、長くてあと数年らしい。こんな俺を好きになってくれた結衣に、俺は未来を約束できない……」

痛いくらいに。

ぎゅって潰れた私の右手。

頭を何かで殴られたようだった。

呼吸も忘れたかもしれないし。

あれだけ鳴っていた心臓も止まったかもしれない。

今までの蓮くんとの全ての出来事が、電車の車窓のように流れて行った。

――目を瞑って小さく息を吸う。


ザー……

雨の音が徐々に聞こえてきた。

え?

うそ……

長くて数年……?

こんなに元気……なのに?


でも――。

震えている私の右手。

違う。

蓮くんの手が震えているんだ。

嘘じゃ……

ないんだ。

そうだよね。

蓮くんが嘘なんて。


あっ。

嘘ついてたんだ……

蓮くんの気持ちにも。

私にも。

そうか。

好きだから。

私の告白もすべて断っていたんだ。

じゃあ、どうして彼氏になってくれたの?

私の好きを受け止めたの?


ザザー……

強くなった雨足。

ぱらぱらと窓に打ち付けている。

ゆっくりと目を開ける。

視界にはテーブルの上のプレゼントのアルバム。

私が尋ねるよりも先に蓮くんの声が耳に届く。

「どうして、付き合おうかって思ったか。もちろん好きだからだけど、何度も何度も振っても、結衣の諦めない気持ち。そして笑顔。結衣のそばにいたら病気治るんじゃないかって。在りもしない奇跡にすがりたくなっていた」

顔を上げて宙を見つめる蓮くん。

濁りのない瞳で。

うっすら潤って。

「……」

私は、ハッとして左手で胸元をぎゅーっと握りしめていた。

「いや、純粋に結衣のそばで生きてみたいって。想ってしまっていた。ごめんな。結衣に辛い思いをさせるって分かってるのに」

怯えた声だった。

あの時みたいに弱々しい声。

ちゃんと全部話してくれた。


そっか。

だから。

寂しそうな顔して。

怖い顔して。

分かったよ。

ずっと告白を断って。

でも、一緒にいたらって。

想ってくれて。


それで。

私に想い出を残さないために。

手をつながないとか。

写真を撮らないとか。

せめて、物として何も残らないようにしてたんだね。

きっと。


でもね、蓮くん。

形なんてなくても、一緒に過ごした時間は消えたりしないんだよ。

風も匂いも味も音も。

蓮くんの笑顔は、すでに私のこころに刻んでしまったんだもん。

だからって、蓮くんが悪い訳じゃないよ。

誰も悪くないよ。

蓮くん苦しかったね。


ザザー……

あっ。

そっか。

窮屈と自由……

今なら意味が分かるよ。

したいことがあっても。

病気のことがあるから。

自由に出来ないことがあったんだよね。

私のこともそうだったんだね。

サンドイッチされている手を見つめた。

震えっぱなしの蓮くんの手。

あったかいよ。

大丈夫だよ。

こころの中に、どうしようもないくらい。

せり上がってくる。

この想い。


だから、私の答えは――

そんなの決まってるよ。

さっき言ってくれたもん。

「そっか。それで? 私は病気の蓮くんでもいい。蓮くんが好きなんだもん。一緒にいるよ。先のことは分からないじゃん。今もそうだけど、私はずっと蓮くんのそばにいるから」

「結衣……」

「うん。全部ちょうだい。我慢しないでいいよ。名前で読んでくれたこと、好きって言ってくれたこと、病気のこと話してくれたこと、嬉しいよ」

「……」

「まだ、隠してることある?」

「ない……」

苦笑う蓮くんの頬にきらりと光った雫が一つ。

私は震える左手をそっと蓮くんの手に重ねた。

体温も想いも私の全部を移すように。

しっかり包んだ。

「何も蓮くんが心配することないよ。私は傷ついたりしない。ちゃんと話してくれたから。だから自分を責めないで」

「結衣……おまえは本物のチアだな」

「そうだよ、応援は任せて。一緒に蓮くんがしたいことしよう。私も我慢しないよ」

涙のあとが残る頬に私は唇を重ねた。

ほっぺも震えてるの。

私の唇も。

「蓮くん、好きだよ……私は、蓮くんの中に、私をいっぱいに残したい」

心臓が今までにないくらいうるさくて早い。

私は蓮くんの頬に両手を添えてこっちを向かせた。

留めどなく流れる雫を親指で拭う。

蓮くんの瞳が少し揺れる。

両手で蓮くんの顔を引き寄せて。

蓮くんのおでこに自分のおでこをこつん、と当てる。

「約束とか、未来とかいらないよ。でも……」

目を閉じる。

私まで涙が伝染しそうだから。

スマイル。

オーケー。

すーっと、触れる吐息まで震えている蓮くん。

ゆっくり息を呑んで。

瞼を開く。

蓮くんは、視線を落としたまま。

涙は零れたまま。

少し引きつるような呼吸。

「私は……私は、今、目の前にいる『生きてる』蓮くんの鼓動も、熱も、私の中に全部刻んで欲しい」

ビクッて蓮くん体が動いて。

大きく息が吸われた。

「想い出じゃなくて、消えない『証』を、今ここでちょうだい……ね、いいでしょ……?」

ザザー…………

雨音だけが、ゆっくり、時を確かに進めていた。


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

感想やご意見ありましたら、お気軽にコメントしてください。

また、どこかいいなと感じて頂けたら評価をポチッと押して頂けると、励みになり幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ