蓮くん誕生日デートです。一緒がいいね。
蓮くんがピザを頼んでる間にキッチンで準備。
ここも掃除が行き届いていてきれい。
人の家の慣れないキッチンだけど。
いつか作ってあげようと思っていたパンケーキ。
トートバッグから材料を出して。
エプロン出して。
こっそり冷蔵庫を開けて。
タッパを隠した。
中身は私が漬けたお漬物です。
よし!
両手を合わせる。
「結衣」
背中から蓮くんに呼ばれる。
「なあに」
振り返る私。
「なんか音楽でもかけとこうか?」
「うん」
「結衣は何聞いてるの? 俺、最近の曲聴かないから分かんないんだけど」
「私も最近の音楽分かんない」
「そうなの?」
「うん。お父さんとお母さんの影響で昔の音楽のが詳しいかも」
「まじか、うちもそうなんだよな。どんなの聞いてる?」
「ああ、お父さんは『X JAPAN』とか『TM NETWORK』とかで、お母さんは『DREAMS COME TRUE』とか『JUDY AND MARY』かな」
「大体似た感じなんだな親世代になると」
「そうなの?」
「じゃあ、適当にかけるわ」
「ありがとう」
少しして『TM NETWORK』の曲が流れ出す。
音楽が空間を満たしていく。
体でリズムを刻んで。
脳内は段取りの確認。
「俺さ、なんか手伝うことある?」
ビクッ!
いつの間にか隣にいる蓮くん。
カウンターの上を覗き込もうとしている。
「あああ、ダメだって、ちょっと……」
私は両手で蓮くんの目を隠そうとする。
蓮くんは前後左右に動いて抵抗。
「へへ」
「もう蓮くん!」
私がぷーっと膨れると。
「悪い、悪い」
って。
楽しそうに笑ってる。
絶対悪いって思ってない。
けど。
かわいいから。
許しちゃう。
「手伝うことないから、あっち行ってて」
私は蓮くんの腰の辺りを掴んで。
回れ右させて背中を押した。
「ふーん。じゃあ、部屋にでも行こうかな」
「違うよ。そばにいてくれたらいいの」
あっ。
大きな背中。
触っちゃった。
胸の前で両手を握る。
見た目よりがっしりした感触。
お腹がきゅうってなっちゃって。
にやにやのほっぺはこんがりしちゃって。
視線は蓮くんを追いかける。
「なんだよそれ」
頭をかきながら蓮くんはリビングへ。
「い、居てくれたらいいの!」
「はいはい」
やばい。
一緒に住んでるみたいだよ。
妄想大魔王がぐつぐつ噴きこぼれそうで。
だめだめ。
吸って吐いてを繰り返し。
言い聞かせる。
蓮くんのためにちゃんと練習したんだから。
よし。
橘結衣。
行きます!
半袖だけど、腕をまくって気合を入れる。
キッチンの棚を見回して。
扉を開けて。
泡立て器、ボウル、ヘラ、サラダ油……
必要な物を並べて。
リズムに乗って。
料理スタート。
「君に会うために生まれた~」
歌詞をなぞるように、小さく鼻歌を歌いながら泡立て器を動かす。
蓮くんが後ろにいる。
という実感が、最高のやる気スイッチみたい。
――バターと甘い小麦粉の香ばしい匂いに包まれた空間に。
『DREAMS COME TRUE』が流れている。
ピンポーン。
ピザがやって来て。
蓮くんが対応してくれて。
私は特製パンケーキをテーブルに並べて。
向かい合って座る。
「うわ、すごいな!」
「へへ」
両手を腰に当てて胸を張る。
蓮くんは身を乗り出して、パンケーキを眺めている。
たっぷり生クリームとたっぷりハチミツ。
みかんを散らしたふわとろパンケーキ。
「蓮くん、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう。今まで一番の誕生日プレゼントだよ」
目をまんまるにして、笑ってくれる蓮くん。
私がプレゼントしたはずなのに。
もう言葉と笑顔を贈られて。
こころもほっぺも黒焦げです。
「えへ。うれしいな」
「なんか食べるの勿体ないな、そうだ!」
蓮くんはスマホを取り出してパンケーキをパシャリ。
「結衣、パンケーキ持って」
「はい」
私とパンケーキをパシャリ。
「蓮くんも撮ってあげる。スマホ貸して」
一瞬ためらった蓮くん。
「じゃあ、お願い」
私は蓮くんのスマホでパシャリ。
『ブルーのシャツ着たら、すごく、似合う~』
流れる歌詞が目の前の蓮くんみたい。
優しい顔。
写真欲しいけど。
私はこころのシャッターを切る。
蓮くんの真似をして、もちろん連写。
そしてスマホを蓮くんに返した。
「ありがとう、よく撮れてる。結衣、才能あるかもな」
「そう、かな?」
「あっ! ちょっと待ってて」
蓮くんは席を立つと部屋を飛びだした。
ダッ、ダッ……
階段を駆け上がる音がして。
扉が開く音。
バタン!
すぐに扉が閉まって。
ダッ、ダッ……
降りてくる。
「はあ、はあ……」
息を整える蓮くん。
その手にはカメラと三脚を持って。
ん?
パンケーキをカメラで撮るんだ。
そんなに喜んでくれたんだね。
「結衣、今さらだけど、ほんとごめんだけど、俺と一緒に写真撮ってくれないか?」
頷きながら首を傾げる私。
ん?
ふん。
ん?
え?
ん?
蓮くんは三脚にカメラをセットしている。
ふん。
カメラを覗き込んで。
レンズをいじって。
「結衣? どうかな? いい? 一緒に写真撮っても。それとも……怒ってる?」
ゆっくり首を振る私。
「じゃあ、撮るよ」
こくんと頷く私。
蓮くんは何かのボタンを確認している。
そして、ちょんと私の隣に腰掛けた。
椅子を近づけて。
肩がごっつんこ。
「結衣、笑顔を見せて」
耳元から優しい声がこころに触れた。
あっ。
一緒に写真撮れるんだって。
「結衣?」
「うん」
両手でワンピースの裾を握りしめて。
涙に代わるギリギリで想いを堰き止める。
スマイル。
オーケー。
「一緒に持って」
ゆっくり隣を向くと、私が作ったパンケーキのお皿を蓮くんは持ってくれていた。
「うん」
私はお皿に手を伸ばす。
蓮くんが息を吐く。
「じゃあ、いくよ。ハイ、ポーズ」
カシャカシャカシャ……
蓮くん連写発動。
そっと、パンケーキと蓮くんを見つめた。
すぐに視線に気がついた蓮くん。
ゆっくりこっちを向いて。
私を見て、今この瞬間が嬉しくてたまらないっていう顔をした。
そんなの見ちゃったら。
ポロポロ想いが零れだして止まらないの。
蓮くんはそっとパンケーキのお皿を置くと、膝の上の私の手に大きなあったかい手を重ねてきた。
「ごめんな、結衣にばかりしんどい思いをさせて」
私は首を振る。
スッスッと鼻をすする。
蓮くんの顔も声もみんな滲んでしまう。
肩が引き寄せられて、蓮くんの肩に頭をもたげた。
「ちゃんとする。俺決めたから」
しっかりした声。
ぬくもりが私の髪をやさしく撫でていく。
ごちゃごちゃなのに。
きゅうっと。
じんじんと。
どきどきと。
でも。
ふわふわして。
このまま生クリームみたい溶けそうだった。
「あったかいうちに、食べよ。結衣のパンケーキ食べたいから」
私は体を起こして鼻をすする。
顔を上げて引きつる呼吸を整える。
「これで、涙拭いて」
蓮くんが差し出してくれたハンドタオルを広げて顔に当てた。
マスカラもチークも台無しだけど。
そんなのどうでもよかった。
何がどうなってるのかもまだ追いついてないかもしれない。
でもね。
大切にされてるって分かるから。
「はあ……」
タオルを握りしめて。
顔を上げて。
頬もあげて。
口角もあげる。
そっと、蓮くんの横顔を見つめた。
「蓮くんありがと。食べよ」
私が見てたら絶対――
ピザを取り分けていた蓮くん。
ぴくっとして。
こっちを向く。
そう、絶対見つめ返してくれてるもん。
きっと黒い点々と寝不足みたいな変な顔になってる私。
でも蓮くんは何も言わないよ。
ただ、優しく微笑んでくれている。
見つめ合ったまま。
視線は逸れることはなくて。
全身に浸透していく蓮くん。
私が眉を上げると。
うなずく蓮くん。
「いただきます」
揃った声が部屋に響く。
ふんわりやわらかな、蕾が芽吹いたよ。
「旨い! パンケーキ! めっちゃ旨い!」
「もう、蓮くん、そっちから食べたの?」
「せっかく結衣が作ってくれたんだから当たり前だろ」
ほっぺを膨らませてモグモグの蓮くん。
「あー、もうまたついてるよ」
私はティッシュを手に蓮くんの口の端を拭いてあげる。
「え?」
じっとしててくれて――
あっ。
蓮くん耳が赤い。
口を結んで。
肩をすくめる。
「もう。しょうがないな」
「ありがとう」
苦笑いの蓮くん。
その唇を見てしまって。
キス――
したいなって思っちゃう。
トントンって胸をそっと叩いて息を吸う。
「でも、こうして隣に居たら拭いてあげられる」
「あのな、子供じゃないんだし」
「いいの。子供でもなんでも。拭きたいの。さあ、食べよ食べよ」
ピザもパンケーキも。
やっぱり美味しい。
蓮くんはもしかしたら魔法のスパイスかも。
でも。
なんだろう。
きっと――
何か心境の変化があったんだね蓮くん。
ちゃんとするから。
言葉の意味は分からない。
ちゃんとしてくれてるのに。
でも、私は。
ううん。
私も蓮くんを大切に想ってるよ。
「マジ旨い!」
「はいはい、またついてるし」
「は? うそだろ?」
笑い声が止まらなくて。
このまま。
このまま。
ずっと、ずっと。
ずーっと。
一緒にいたいよって。
想ってるんだよ。
蓮くん。
いつものように。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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