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好きだから。  作者: ぽんこつ


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42/68

蓮くん誕生日デートです。どっきどき。

ガタン、ガタン……

車窓には鼠色の空。

天気予報通りの雨。

晴女伝説は伝説にならないまま幕を閉じた。

そして――

私がたてたデート計画。

うきうき動物園ハッピーバースデーデート。

それはなくなっちゃったけど。

昨日の夜、蓮くんから思わぬ提案があった。

『俺の家来る?』

って。

すぐに、

「うん」

って、返事をしてから。

もうずっと鼓動と息をしているみたい。

親友のように。

私の気持ちに寄り添って。

荒れ狂う波のように。

空を映す水面のように。

だって。

お家だよ。

三回目のデートで。

妄想大魔王が爆発して。

もうずっと熱くて。

布団をはいだり掛けたり。

でも――

誕生日プレゼントどうしようかなって。

考えてる時は、こころは鎮まって。

一応考えてはいたんだ。

私はたくさんの想い出をプレゼントしてもらった。

物じゃない方が蓮くん喜んでくれる気がして。

だから、同じお返しで『スシゴロー』ご馳走しようかなって考えてた。

そこで閃くのが私。

今の私が自信を持って作れるお料理にしようって。

まあ料理っていうほどのものでもないけど。

喜んでくれたらいいなって。

はじめからお家だって分かっていたら、鶏大根もっと練習したんだけどね。

プレゼントのことが落ち着いたら。

また、大魔王がやってきて。

戦っていたら、普段夜更かししない私が最後に見た時刻。

午前2時になるところだった。


ガタン、ガタン……

『まもなく、高井。高井です……』

朝起きても。

想い出したら最後。

大魔王が襲来。

シャワーを浴びても。

ご飯を食べる時も。

服を着る時も。

髪をセットする時も。

メイクをする時も。

ドキドキは鳴り止まなくて。

家を出てからもずっと心臓と歩いているみたい。

抱えていたトートバッグを肩にかける。

電車のスピードが落ちて。

私はゆっくり立ち上がる。

窓ガラスに映る、ピンクと白のギンガムチェックのワンピース。

今日のためにクローゼットをひっかきまわして見つけた。

高校一年の時にお父さんに誕生日プレゼントで買ってもらったんだ。

デザインは女の子らしくて好きなんだけど。

ちょっと、幼く見えるかなって。

髪は後ろで一つに束ねて、ピンクのリボンのバレッタをつけてみた。


雨の中、蓮くんは高井駅まで迎えに来てくれた。

駅の改札の向こうに、その姿を見つけた時。

じとっとしているのに。

その周りだけ爽やかな空気に包まれていた。

でもね、蓮くんが私を見つけた時。

ポカーンて顔したの。

やっぱり子供ぽかったかなって。

こころの風船がしゅんってしぼんだんだ。

「来てくれたの?」

「当たり前だろ」

だって。

当たり前って言ってくれたの。

ちょっと膨らんだこころ。

分かりやすい私。

「なんかすごいな結衣」

首をさすりながら、吐息交じりの声の蓮くん。

「なにが?」

「いや……」

って。

何か言いかけた蓮くんの視線が私をなぞるのが分かって。

ぴきんって。

金縛り。

「変かな……」

また。

言っちゃった。

右手でワンピースの裾をたぐる。

上目遣いに覗いた蓮くんは、私を見てる。

「かわいいなって」

今度は私が口を開ける番だった。

いつものように悲鳴を上げるお腹。

重力に逆らう血液。

パチン。

て、弾けるこころの風船。

かわいいって。

よかった。

「そ、そう?」

乱れてもいないのに。

サイドの髪に手を添えて整えてみる。

「ああ……」

乱れてるのは鼓動の方で、地球を一周してきたみたい。

必死に大魔王を閉じ込める。

傘は二つあるけど、あいあい傘で家まで歩く。

ジーンズに、水色のポロシャツの蓮くん。

シンプルだけどかっこいいの。

しっかり捕まえられた右手は汗ばんじゃって。

汗が混ざった手からドキドキが伝わっちゃってるのかなって。

でも、それは蓮くんも一緒で。

ドキドキしてるのかなって。

傘の中の空間だけ、温度が上がってるみたいだった。


蓮くんのお家は駅から歩いて10分位。

住宅街にある二階建ての一軒家だった。

きぃ。

って、黒い門を開けて。

蓮くんはポケットから鍵を取り出して。

ガチャ。

ん?

「あれ? 誰もいないの?」

「うん、父さんも母さんも出掛けてる。夜には帰ってくると思うけど」

「そっか……」

足が動かなくて固まっちゃった私。

だって。

お家に二人きりだって。

耳元に心臓が引っ越してきて。

雨音さえ聞こえない。

でも――

大丈夫。

そっと胸元に手を添えた。

蓮くんと付き合えるってなった時に覚悟はしてるから。

ちゃんと、かわいくしてきたよって。

大好きな蓮くんのために。

「どうぞ、入って」

ビクッてして見た蓮くんは、玄関扉を支えていた。

「あ、はい。お邪魔します」

なぜか小声な私。

あっ。

蓮くんの匂い。

というかお家の匂いなんだけど。

スニーカーを脱いで揃える。

「じゃあ、こっち」

「はい」

言われるがまま、蓮くんのあとをついて行く。

廊下の壁には、蓮くんが撮った写真が飾ってあった。

蓮くんの家のスリッパは、私の足には少し大きくて。

パタパタという音が、私の緊張を急かすみたい。


「とりあえず、そこ座ってて」

リビングに案内され、蓮くんはソファを指さした。

「あっ、は、はい」

上ずる声の私。

「なあ、何する? 家呼んどいて、あれだけど、何も考えてなかった」

「なんでもいいよ」

蓮くんの背中に向けて答えて。

一人熱くなる。

なんでも……

だめだめ。

私は部屋を見回した。

お掃除がされてきれいな空間。

ここの壁や棚にも、ところどころに蓮くんが撮った写真が飾ってある。

動物、町、夕陽。

雑踏に信号や落葉、小石。

色んな写真。

少しドキドキがおさまった気がする。

「なあ、紅茶でいいか?」

「うん」

蓮くんの声がキッチンから飛んでくる。

「なんか、蓮くんのお家、写真で一杯で癒されるね」

「そうか?」

両手にマグカップを持った蓮くん。

それをテーブルに置きながら、隣にそっと腰を下ろした。

ドキン襲来。

「ありがとう」

私は両手でマグカップを持って。

フーフーして口をつける。

ちょうどいいあったかさで甘い。

喉を通っていくぬくもりが、少し気持ちを宥めてくれているよう。

「おいしい」

「そっか」

蓮くんもニコって笑って一口。

「俺んちゲームとかないし、なんか映画でも観る?」

「あ、うん。蓮くんと一緒なら何しても楽しいから……」

あっ。

言っちゃった。

「そっか、俺もかな」

ニコッと私を見て、マグカップをテーブルに置いた蓮くん。

さっきから蓮くんの動き一つに一人でビクッてなってる。

「あ、蓮くんの撮った写真もっと見たいな」

「ああ、じゃあ、あとで俺の部屋に行こう」

「ふぁあい」

変なとこから声が出た――

俺の部屋というキーワードに最大級のドキンが襲う。

紅茶をゴクゴク飲む私。

「昼は、なんかデリバリーする?」

「う、うん」

あ、そうか。

もうお昼か。

お腹は空いているけど。

胸は、もう一杯です。


そうだ。

大事なこと、あるじゃん。

マグカップをテーブルに置いて。

シュッと背筋を伸ばす。

「あ、あのね、蓮くん。キッチン借りてもいいかな?」

「いいけど、どうしたの?」

「私からの誕生日プレゼント作る」

「え?」

ビクッとして顎を引いた蓮くん。

そんなのも。

かわいい。

けど。

ドキンってする。

「じゃあさ、とりあえず、先にピザ頼もう。蓮くん」

「ああ、わかった。結衣は何がいい?」

「色んなの食べたいな」

「確かに。じゃあどれにしようか?」

スマホの画面を見せてきた蓮くん。

「うーん。四種類のやつにしようよ。そうしたら、ちょうど二人で四枚ずつ食べれるし」

「ああ、いいね。じゃあ、俺はマヨネーズがいいな」

「ふふ。かわいい。私はチーズたっぷりの」

「結衣はチーズ好きだもんな」

「うん」

こんな会話だけで、ニコニコが止まらない。

そしてね。

ドキドキもんなんだよ。

蓮くん。

長いまつ毛の瞳が動いて。

スマホの上で指が動いて。

「……好きだよ」

って、小さく零れてた。

「ん? 俺も好きだよ。結衣」

ちゃんと見つめ返してくるんだ。

下唇を噛んで伏し目がちに見た蓮くんは、同じように伏し目がちに私を見ていた。

きゅって頭のてっぺんから何かが抜けて行った。

微笑みを交わして。

蓮くんは眉を上げた。

「結衣、大丈夫? 緊張してる?」

「うん、ちょっとだけ……」

マグカップを手に取って。

紅茶を一口、流し込む。

「そりゃあそうだよな。俺だって緊張してる。その、女の子家に呼んだの初めてだから。いや、従妹がいるか。それに……」

え?

少しうつむいちゃった私。

何かがつんつんする。

「直人の姉ちゃん」

「あっ……」

顔を上げた私の視線に、少し意地悪そうに笑う蓮くんがいた。

横山くんのお姉ちゃん……

こないだ焼きもち妬いちゃった。

「意地悪しないでよ」

「ごめん」

蓮くんは、マグカップを取って喉を鳴らす。

「でも、結衣は俺にとって初めての彼女だよ」

バキューン。

やばいです。

こころもお腹も頭も打ち抜かれちゃった。

両手で持ったマグカップを胸元に。

だって。

だって。

初めての子だよ。

私が。

今日もチークの意味ないかも。

「わ、私だって、蓮くんが初めての彼氏だもん」

そのまま紅茶を飲み干した。

甘さが落ち着きと余韻を混ぜてくれた。

でも――

なんか、いつもの蓮くんと違う気がする。

お家だからなのかな。

それとも、私が過敏になってるだけなのかな。

視線を感じて。

蓮くんを見る。

ほっぺがほんのり染まってる。

瞳は少し潤んでる?

気がした。

「それで、何を作ってくれるのかな?」

「え? あ、それはね……秘密」

「ふーん。秘密か……楽しみだな」

「じゃあ、作るね」

私は小さく息を吐いて立ち上がった。

作り出したら匂いでバレちゃうけど。

なんか秘密って言ってみたかったの。


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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