じゅわじゅわ
朝は涼しかったけど。
9時を過ぎたらもう暑い。
お日様は絶好調。
遮る雲もなく。
じりじりとアスファルトを焼いている。
今日は何も予定のない土曜日。
蓮くんは家族でバーべーキューするんだって。
私はお母さんと大型スーパーに買い物に来た。
ちょうど、小間井駅と高井駅の中間地点にある。
何でも特売日だから買いだめをするんだって。
久しぶりに運転するお母さんの運転はなんかひやひやしたけど。
なんだか楽しそうなお母さん。
スーパーの中はたくさんの人がいた。
私は鶏大根、出汁巻き玉子、アジの干物の材料をかごに入れる。
「結衣、頼んだものも忘れないでよ」
「うん」
メモを確認。
ピーマン。
トマト。
にんじん。
大根。
じゃがいも。
里芋。
玉ねぎ。
きゅうり。
カブ。
ほうれん草……
ん?
野菜ばっかりだ。
そう言えば、蓮くん。
昨日のメッセージのやり取りの中でも好きな食べ物を何気なく聞いてみた。
その結果、豚汁も好きって。
ジャーマンポテトにポテサラも。
聞いたら、聞いたで。
作ってあげたいなって。
思っちゃう単純な私。
「お母さん。鶏大根に出汁巻きと豚汁とポテサラって合うのかな?」
「あら、いいじゃない。結衣が作ってくれるの?」
「え? ああ。うん。練習したいかな」
「じゃあ、今日は豚汁作る?」
「うん。でもさ、これいっぺんに作るの大変かな?」
「そうね、慣れるまでは難しいかも」
「そっか」
「ああ、でもポテサラは、前の日に作って冷蔵庫で寝かして置くのもいいし。それが嫌なら少し早めに作ったらいいんじゃない。冷やした方が味が馴染むから」
「ふーん、そうなんだ」
「鶏大根も豚汁も煮込んじゃえばいいし、出汁巻きを最後にしたらいいんじゃないかな」
「なるほど。お母さん教えて」
「はいはい。彼のためなんでしょ?」
ビクッとして背筋が伸びる。
「う、うん」
「いいじゃない。まあそうね、メモ見ながらでもいいし。失敗したっていい想い出だし」
「嫌だよ。美味しいって言って欲しいし、喜んでもらいたい」
「そうね。でも。好きな子が作ってくれた料理はどんな物でも男の子は覚えてるもんよ」
「そうなの?」
「そりゃあそうよ、だって、自分のために好きな女の子が作るんだよ。しかも愛情をこめて。美味しくなあれって」
「お母さんもそうなの?」
「そうよ。お父さんや結衣に残さず食べてもらえたら嬉しいよ。結衣はその点、いつもお弁当残さず食べてくれるからね」
「うん。だって美味しいし、お母さん早起きして作ってくれてるじゃん」
「お父さんに聞かせてあげたいわ。今はそうでもないけど、結婚したての頃、よーく残したのよ。休憩中に電話がかかったとか、タイミングが悪かったとか」
「そうなんだ」
「でも、ちゃんと、いつもありがとうは言ってくれてたな」
恥ずかし気に笑って。
首を傾げるお母さん。
「ふーん。お母さんかわいい」
「もう、親をからかわないの。でもね、結衣。男の子は胃袋を掴むのよ」
お母さんは言葉の最後に、宙で何かを掴むような仕草をした。
ん?
胃袋?
「え? どうやって?」
「ははは、もちろんそれは美味しいご飯を作るってこと」
「あっ。そう言うことか」
「ほら、じゃあ、ジャガイモ二袋にして。それからごぼうにこんにゃくも」
「はあい」
色とりどりの野菜たち。
ふと思う。
野菜の見極め方?
何がいいのか分からない。
みんな、手にとっては慣れたように品物を見定めている。
私は見た目で大きそうなのを選ぶ。
試しにごぼうの匂いを嗅いでみたけど。
土の匂いしかしなかった。
でも、こういうのも知りたいな。
どんなのがいいのか分かるようになりたい。
そうしたら、美味しいもの食べさせてあげられるかなって。
こんにゃくはどれも一緒だから簡単。
カートが二つ。
私が持ってるカゴ一つ。
山盛りの食品たち。
お母さん満足そう。
会計を済ませて。
買い物袋に詰めていく。
何気に見た、五つ向こうの台のそばに。
ん?
蓮くん?
ニコニコしている。
バーベキューの買い出しかな?
!
カチン。
固まってしまう私。
お、女の人と一緒だ。
ショートヘアの女の人。
クロップドジーンズに黒のTシャツ。
スラッとして背の高い。
なんかお姉さんな感じ。
年上の人だと思う。
きっと。
?
確か蓮くんは一人っ子。
誰だろ……
仲良さげに話してる。
あっ。
女の人が蓮くんの髪を触った。
ゴミを取ったみたい。
何かがしぼんでいく。
「結衣? 手、止まってるよ」
「あ、あはは……」
数品詰め込んで。
もう一度視線を投げる。
蓮くんはいない。
そわそわして。
3倍のスピードでしまっていく。
「お母さん。遅いよ」
「なによ、さっきまでボーっとしてたくせに忙しい子ね」
両手に買い物袋を提げて早足でお店を出る。
キョロキョロと見回してみる。
いない……
「もうちょっと、結衣どうしたのよ」
「ああ、ごめん。友達見たような気がして」
「そうなの?」
「あ、でも見間違いかも」
「じゃあ、帰るわよ」
「うん……」
しゅんとしている。
あの女の人とバーベキュー行くのかな……
それだけじゃない、もやっと大魔王。
ああ、これ嫉妬してるんだ私。
嫌だな。
この気持ちって。
大丈夫だよ。
蓮くんは私のこと好きだし。
キスだってしたもん。
あああああ。
頭の中で関係ない言葉を叫ぶ。
さらに強大な妄想大魔王がやってきそうで。
首を振る。
荷物を後部座席に乗せていると。
「結衣!」
きゅんって。
こころに届く声。
振り向くと蓮くんが駆け寄ってくる。
陽射しを遮るように手をかざしながら。
じゅわじゅわする私。
「おはようございます」
お母さんに頭を下げる蓮くん。
「おはようございます」
そう言いながらお母さんは、私を見てニヤリ。
「初めまして、烏丸蓮です。結衣さんとお付き合いさせて頂いています」
「あら、初めまして。結衣がお世話になってます」
「いえ、そんな」
「お買い物?」
「あ、はい、今日は友達の家族とバーべーキューに行くんで、その買い出しに来ました」
「友達?」
あっ。
また言っちゃった。
「ああ、直人だよ。家族ぐるみの付き合いでさ。あいつの姉ちゃんと買い出し担当」
蓮くんが振り向いた先。
さっきの女の人が、こっちに向かって頭を下げている。
スーって。
吹いてないのに。
こころにそよぐ風。
もやもやが晴れるの。
「あ、そうなんだ」
「じゃあ、また夜にメッセージする」
「うん。蓮くん気を付けて」
「じゃあ、失礼します」
蓮くんはお母さんに小さく頭を下げて、私に向かって微笑みをくれた。
もちろん私はにこにこ大魔王。
「はーん。友達じゃなくて彼を見たんだ」
「え? あ、うん」
「まあいいじゃない誤解も解けたし、帰るから早く乗って」
「へ?」
お母さんは運転席に乗り込んだ。
誤解って。
なんで。
どうして。
分かるの?
助手席に乗り込んで。
お母さんの横顔を見つめる。
「彼、いい子だね」
ビクッとして体が跳ねる。
「うん」
「優しい目してたな。結衣。あなたを見る彼の目。それに結衣の彼を見る目も」
エンジンがかかってお母さんはアクセルを踏んだ。
もうバレてるんだ。
私のこころが焦げ付いたこと。
「そのうち、家に呼びなさい。料理作ってあげるんでしょ?」
「あ、はい」
「もう。お母さんも青春したいわ」
そう言ってケラケラ笑うお母さん。
でも。
嫌だね。
焼きもちって。
こないだみたいにちゃんと話せばいいだけなのに。
厄介だな。
でも。
横山くんにお姉ちゃんがいるなんて知らなかった。
フロントガラスの向こうの青信号。
お母さんは鼻歌を口ずさみながらハンドルを握っている。
あっ。
DREAMS COME TRUEの『うれしい たのしい 大好き』だ。
私も一緒になって口ずさんだ。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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