誕生日デートです。マジカルタイム。
ザッ、ザッ。
「砂浜、歩けるんだね」
二人の足跡を残しながら歩く。
さらさらと寄せては返す波の音。
普段あまり聞けない音。
なんか穏やかな気持ちになっていく。
空が黄色からオレンジに塗り替えられて。
夕焼け色にビルやレインボーブリッジが染まっていく。
波打ち際で夕暮れの写真を撮ってみることに。
蓮くんは波打ち際ギリギリ、地面すれすれでシャッターを切っていた。
その姿をまずは心のシャッターで連写。
夕陽を浴びた蓮くん。
しかも水面のキラキラが反射して。
かっこよくて。
神々しく見えて。
思わず手を合わせていた。
よし。
私も真似をしてしゃがんでスマホを構えてみる。
「わあ」
水面すれすれで、遠くにビルがあって、赤、紫、紺……
グラデーションがきれいな広い空。
パシャッとシャッタ―を切る。
画面を見てみる。
「きれい……」
画面の下、わずかな空間に、とろけそうな水面は琥珀色。
その上に色んな形のビルの黒い影があって。
写真の大部分は鮮やかな色たちの空。
左端にぽつんと一つだけ明るい星があった。
「どう撮れた?」
ビクッとする私。
いつの間にか隣にいた蓮くん。
「う、うん、見て。どうかな?」
スマホを蓮くんの前に差しだした。
「おお。いいね。よくこの画角で撮ろうと思ったね?」
「ん? がかく?」
「ああ、画角っていうのは角度のことね、この地面すれすれで撮ったの良いと思う」
「これは蓮くんがそうやって撮ってたから真似したの」
「そっか、それにしてもよく撮れてる。綺麗な瞬間だよ」
「ほんと! 嬉しい」
画面を見てスマホを抱きしめた。
「あ、あの星は何?」
写真にも写り込んでいた、ひときわ輝く星を指さした。
「ああ、あれは一番星だよ」
「一番星?」
「季節や時間によって火星だったり木星だったりするんだ」
「え? 同じ星じゃないの?」
「そうみたいだよ、何年かの周期で変わるんだって」
「ふーん、そうなんだ。面白いね。同じ星かと思ってたら、いつの間にか違う星が光ってて。でも、一番星なんだ」
「ああ、その通り」
「そうだ。蓮くんの見せて」
私はちょんちょんとカメラを指さした。
「じゃあ、これ見てみて」
カメラのディスプレイに写っていたのは――
え?
写真を撮っている私とその後ろにあるレインボーブリッジ。
微笑みながらスマホを構えている私。
なんかこの空間に私しかいないみたいだった。
「もうずるいよ。蓮くん。私も撮りたいよ……蓮くんのこと」
「それは置いといて。よく見てこの写真。橘の感想を聞きたい」
「ん? 私の感想?」
蓮くんは大きく頷いた。
上手にはぐらかされた気もするけど。
小さく息を吐いて、もう一度、ディスプレイを眺めた。
右の下辺り。
しゃがんでスマホを構えている私。
目の前は波が作った白いあぶくと琥珀色の海。
奥に何かの島みたいなのがあって濃い緑色。
その向こうに明かりが灯り始めたレインボーブリッジ。
空は左から赤、紫、紺……
「最初に想ったのは、私だけしかいない世界って感じたよ。それと、色んな色があるのにみんなが溶けあってる? みたいな?」
「うん。やっぱすごいな。橘を撮ったんだよこれ」
ん?
どういうこと?
ん?
「うん。私が映ってるもん」
「そう。この世界が全部橘だってこと。だからその感想合ってる。俺が撮った意味合いと一緒だ」
「そう、なの?」
「橘しかいない。そして橘が持っているもの、笑顔も優しさも、明るさも、寂しさも……その、何だ全部の色が入ってるってこと」
もう一度、ディスプレイを覗き込んだ。
確かにたくさんの色がいる。
その色たちが私の色んな部分ってこと……
ジーンと心に染み込んできた。
足を抱えて、膝の上に顎を乗せる。
やっぱり、絶対、好きだもんね。
私のこと。
じゃなきゃ、こんな風に撮ってくれないもん。
もう。
ダメだよ。
好きって言葉聞きたくなっちゃうよ。
ダメだよ。
落ち着いて。
「あっ」
ざー。
波が押し寄せてきて蓮くんはスッと立ち上がって後ずさり。
「わっ」
私は立ち上がろうとして。
後に重心がかかって。
手をバタバタしながら尻餅をついちゃった。
砂だったからそんなに痛くなかったけど。
「おい大丈夫か」
蓮くんの声が飛んできて。
私の前に――
差し伸べられた蓮くんの手。
え?
蓮くんの顔を見上げる。
真っ直ぐ私を見ていた。
指先がビクッとして。
蓮くんも気がついたみたい。
その瞬間。
眉間にしわが寄って。
目が泳いで。
驚き?
恐怖?
動揺?
そんな表情が浮かんで。
目を閉じて。
息を吐いて。
少し口元が緩んで。
開いた瞳はとてもとてもやさしい眼差しだった。
なんだったんだろう?
蓮くんは、手を握れと言わんばかりに手を近づけた。
「いいの?」
「ああ……」
低くて押さえた声。
私はその手を握った。
全身に電気が走って。
お腹がきゅうってなって。
熱くなって。
でも、その温もりが。
大きくて、しっかりつかんでくれた手の安心感が私の全身を宥めてくれた。
蓮くんが引っ張り上げる力を使って立ち上がる。
すると。
つないだ手はすぐにほどかれた。
「ありがとう」
「いや、チアやってるのにおっちょこちょいだし、危なっかしい」
「ごめんね」
「いや、謝らなくていいけど、気を付けろよ」
「うん」
私は、ぱんぱんとスカートをはたく。
ただ、つながった右手だけは、その甲ではたいた。
そんな私を見つめる蓮くんの瞳は、一番星みたいに揺れていた。
「あ、あそこに行ったらレインボーブリッジ近くで見えるのかな?」
島みたいなところを指さした。
「え? ああ、見れると思うけど」
カメラをバッグにしまいながら首を傾げる蓮くん。
「ん? どうしたの?」
「いや、おまえ帰らなくていいのか?」
「え? うん……晩御飯食べてくるって言ったから。あ、でも蓮くんが都合悪いならいいよ。すごく、すごく楽しかったし……」
だめだ。
また離れたくないって。
一緒にいたいって。
でも、たくさん誕生日プレゼントもらったよ。
それに――
「よし、じゃあ、行くか。晩御飯は何がいいか考えながら行こう」
歩き出す蓮くん。
ちょこちょこと追いかける。
「え!? いいの。本当に? 大丈夫なの?」
「ああ、いいよ」
振り向いて笑ってくれた顔。
沈みかけの太陽の名残りを浴びて。
優しく赤く染まっていたの。
「ありがとう。蓮くん」
泣き出しそうだったけど。
私はさっき、蓮くんが見せた表情が気になっていた。
言葉で言い表せない、色んな感情がごちゃ混ぜになったような顔のこと。
そう。
前に『自由』って言ってたことを想い出したから。
ずっと心にあった蓮くんの何気ない一言。
確か『自由』の前に『窮屈』って言ってた。
そう。
『窮屈』じゃなくてそのままでいられること。
それが『自由』なのかなって。
何かあるのかな?
そっと蓮くんのシャツをつまむ。
「ねえ蓮くん。私、蓮くんの彼女だから、それだけ忘れないでよ」
「なんだよ、急に」
「傍にいるから、私は蓮くんの味方だから。どんなことがあっても」
ピタって、立ち止まった蓮くん。
私の顔をなんか珍しいものでも見るような瞳で見つめてきた。
「どしたの? 何あったの? 私で良かったら話してみて」
ぴくって、まつ毛が動いて、息を吸って。
何か言いかけたような気がした。
少し目を伏せた蓮くん。
でも――
次の瞬間には柔らかな瞳で微笑む蓮くんがいた。
「ほら、行くぞ」
「え……?」
私の右手が――
蓮くんにさらわれて。
ついて行く。
え?
なんで?
どうして?
少し汗ばんだ蓮くんの左手と私の右手。
左手を胸に添えながら、少し早足の蓮くんについて行く。
蓮くんの腕の動きに合わせて。
私の腕が動いている。
何度見てもつながってるし。
右手から伝わるぬくもりと圧力。
え?
なんで?
どうして?
つないでるんですけど……
手――
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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