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好きだから。  作者: ぽんこつ


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34/42

誕生日デートです。マジカルタイム。

ザッ、ザッ。

「砂浜、歩けるんだね」

二人の足跡を残しながら歩く。

さらさらと寄せては返す波の音。

普段あまり聞けない音。

なんか穏やかな気持ちになっていく。

空が黄色からオレンジに塗り替えられて。

夕焼け色にビルやレインボーブリッジが染まっていく。

波打ち際で夕暮れの写真を撮ってみることに。

蓮くんは波打ち際ギリギリ、地面すれすれでシャッターを切っていた。

その姿をまずは心のシャッターで連写。

夕陽を浴びた蓮くん。

しかも水面のキラキラが反射して。

かっこよくて。

神々しく見えて。

思わず手を合わせていた。

よし。

私も真似をしてしゃがんでスマホを構えてみる。


挿絵(By みてみん)


「わあ」

水面すれすれで、遠くにビルがあって、赤、紫、紺……

グラデーションがきれいな広い空。

パシャッとシャッタ―を切る。

画面を見てみる。

「きれい……」

画面の下、わずかな空間に、とろけそうな水面は琥珀色。

その上に色んな形のビルの黒い影があって。

写真の大部分は鮮やかな色たちの空。

左端にぽつんと一つだけ明るい星があった。

「どう撮れた?」

ビクッとする私。

いつの間にか隣にいた蓮くん。

「う、うん、見て。どうかな?」

スマホを蓮くんの前に差しだした。

「おお。いいね。よくこの画角で撮ろうと思ったね?」

「ん? がかく?」

「ああ、画角っていうのは角度のことね、この地面すれすれで撮ったの良いと思う」

「これは蓮くんがそうやって撮ってたから真似したの」

「そっか、それにしてもよく撮れてる。綺麗な瞬間だよ」

「ほんと! 嬉しい」

画面を見てスマホを抱きしめた。

「あ、あの星は何?」

写真にも写り込んでいた、ひときわ輝く星を指さした。

「ああ、あれは一番星だよ」

「一番星?」

「季節や時間によって火星だったり木星だったりするんだ」

「え? 同じ星じゃないの?」

「そうみたいだよ、何年かの周期で変わるんだって」

「ふーん、そうなんだ。面白いね。同じ星かと思ってたら、いつの間にか違う星が光ってて。でも、一番星なんだ」

「ああ、その通り」


「そうだ。蓮くんの見せて」

私はちょんちょんとカメラを指さした。

「じゃあ、これ見てみて」

カメラのディスプレイに写っていたのは――

え?

写真を撮っている私とその後ろにあるレインボーブリッジ。

微笑みながらスマホを構えている私。

なんかこの空間に私しかいないみたいだった。

「もうずるいよ。蓮くん。私も撮りたいよ……蓮くんのこと」

「それは置いといて。よく見てこの写真。橘の感想を聞きたい」

「ん? 私の感想?」

蓮くんは大きく頷いた。

上手にはぐらかされた気もするけど。

小さく息を吐いて、もう一度、ディスプレイを眺めた。

右の下辺り。

しゃがんでスマホを構えている私。

目の前は波が作った白いあぶくと琥珀色の海。

奥に何かの島みたいなのがあって濃い緑色。

その向こうに明かりが灯り始めたレインボーブリッジ。

空は左から赤、紫、紺……

「最初に想ったのは、私だけしかいない世界って感じたよ。それと、色んな色があるのにみんなが溶けあってる? みたいな?」

「うん。やっぱすごいな。橘を撮ったんだよこれ」

ん?

どういうこと?

ん?

「うん。私が映ってるもん」

「そう。この世界が全部橘だってこと。だからその感想合ってる。俺が撮った意味合いと一緒だ」

「そう、なの?」

「橘しかいない。そして橘が持っているもの、笑顔も優しさも、明るさも、寂しさも……その、何だ全部の色が入ってるってこと」

もう一度、ディスプレイを覗き込んだ。

確かにたくさんの色がいる。

その色たちが私の色んな部分ってこと……

ジーンと心に染み込んできた。

足を抱えて、膝の上に顎を乗せる。

やっぱり、絶対、好きだもんね。

私のこと。

じゃなきゃ、こんな風に撮ってくれないもん。

もう。

ダメだよ。

好きって言葉聞きたくなっちゃうよ。

ダメだよ。

落ち着いて。


「あっ」

ざー。

波が押し寄せてきて蓮くんはスッと立ち上がって後ずさり。

「わっ」

私は立ち上がろうとして。

後に重心がかかって。

手をバタバタしながら尻餅をついちゃった。

砂だったからそんなに痛くなかったけど。

「おい大丈夫か」

蓮くんの声が飛んできて。

私の前に――

差し伸べられた蓮くんの手。

え?

蓮くんの顔を見上げる。

真っ直ぐ私を見ていた。

指先がビクッとして。

蓮くんも気がついたみたい。

その瞬間。

眉間にしわが寄って。

目が泳いで。

驚き?

恐怖?

動揺?

そんな表情が浮かんで。

目を閉じて。

息を吐いて。

少し口元が緩んで。

開いた瞳はとてもとてもやさしい眼差しだった。

なんだったんだろう?

蓮くんは、手を握れと言わんばかりに手を近づけた。

「いいの?」

「ああ……」

低くて押さえた声。

私はその手を握った。

全身に電気が走って。

お腹がきゅうってなって。

熱くなって。

でも、その温もりが。

大きくて、しっかりつかんでくれた手の安心感が私の全身を宥めてくれた。

蓮くんが引っ張り上げる力を使って立ち上がる。

すると。

つないだ手はすぐにほどかれた。

「ありがとう」

「いや、チアやってるのにおっちょこちょいだし、危なっかしい」

「ごめんね」

「いや、謝らなくていいけど、気を付けろよ」

「うん」

私は、ぱんぱんとスカートをはたく。

ただ、つながった右手だけは、その甲ではたいた。

そんな私を見つめる蓮くんの瞳は、一番星みたいに揺れていた。


「あ、あそこに行ったらレインボーブリッジ近くで見えるのかな?」

島みたいなところを指さした。

「え? ああ、見れると思うけど」

カメラをバッグにしまいながら首を傾げる蓮くん。

「ん? どうしたの?」

「いや、おまえ帰らなくていいのか?」

「え? うん……晩御飯食べてくるって言ったから。あ、でも蓮くんが都合悪いならいいよ。すごく、すごく楽しかったし……」

だめだ。

また離れたくないって。

一緒にいたいって。

でも、たくさん誕生日プレゼントもらったよ。

それに――

「よし、じゃあ、行くか。晩御飯は何がいいか考えながら行こう」

歩き出す蓮くん。

ちょこちょこと追いかける。

「え!? いいの。本当に? 大丈夫なの?」

「ああ、いいよ」

振り向いて笑ってくれた顔。

沈みかけの太陽の名残りを浴びて。

優しく赤く染まっていたの。

「ありがとう。蓮くん」

泣き出しそうだったけど。

私はさっき、蓮くんが見せた表情が気になっていた。

言葉で言い表せない、色んな感情がごちゃ混ぜになったような顔のこと。

そう。

前に『自由』って言ってたことを想い出したから。

ずっと心にあった蓮くんの何気ない一言。

確か『自由』の前に『窮屈』って言ってた。

そう。

『窮屈』じゃなくてそのままでいられること。

それが『自由』なのかなって。

何かあるのかな?

そっと蓮くんのシャツをつまむ。

「ねえ蓮くん。私、蓮くんの彼女だから、それだけ忘れないでよ」

「なんだよ、急に」

「傍にいるから、私は蓮くんの味方だから。どんなことがあっても」

ピタって、立ち止まった蓮くん。

私の顔をなんか珍しいものでも見るような瞳で見つめてきた。

「どしたの? 何あったの? 私で良かったら話してみて」

ぴくって、まつ毛が動いて、息を吸って。

何か言いかけたような気がした。

少し目を伏せた蓮くん。


でも――

次の瞬間には柔らかな瞳で微笑む蓮くんがいた。

「ほら、行くぞ」

「え……?」

私の右手が――

蓮くんにさらわれて。

ついて行く。

え?

なんで?

どうして?

少し汗ばんだ蓮くんの左手と私の右手。

左手を胸に添えながら、少し早足の蓮くんについて行く。

蓮くんの腕の動きに合わせて。

私の腕が動いている。

何度見てもつながってるし。

右手から伝わるぬくもりと圧力。

え?

なんで?

どうして?

つないでるんですけど……

手――


挿絵(By みてみん)


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