誕生日デートです。いっぱい、たくさん。
初めてのお台場に上陸の私。
大きなショッピングモールやホテルやマンションたちが出迎えてくれた。
「せっかくだから」
って、蓮くんの案内で、海沿いの遊歩道を柔らかな風を浴びながら歩く。
私は怒られないから蓮くんの肘の辺りをつまむ。
「気持ちいいね、蓮くん」
「ああ、ちょうどいい陽気だな」
前より会話になってるんだよ。
少し歩いて、視界に入ってきた物。
「え? なんで自由の女神?」
「詳しいことは覚えてないけど、日本とフランスの友好の証だったような気がする」
「ふーん。蓮くんは何でも知ってるんだね」
「え?」
「私が聞くこと、大体答えてくれる」
「そっか?」
「そうだよ」
蓮くんの顔を覗き込むようにしてニコってしたら。
おでこを手でさすりながら、笑い返してくれた。
それから、大きな通路を歩いて。
童話に出てきそうな、かわいらしい外見の小さなピザ屋さんでランチ。
ピザを半分ずつ食べた。
カリカリの生地と、とろとろのチーズ。
すごく美味しい。
だって蓮くんと食べてるから。
蓮くんはまた口の端に食べ残しをつけてて。
教えてあげたら。
「ありがとう」
って、恥ずかしそうに笑って。
かわいいの。
食後にフリスクあげて。
二人で目をしゅばしゅばさせて笑い合った。
あまーいミルクティーで一息。
それから、ショッピングモールを冷やかして。
「どんな服が好みなの?」
私の問いかけに。
「ん? こだわりないかな、動きやすいのがいい」
蓮くんは首を捻った。
「あ、私も!」
「そうなの? こんなおしゃれしてるのに?」
「え? そう? そうかな?」
下ろした髪の毛先をつまむ。
「なんか、こないだとも違うし、おしゃれだなって」
唇を噛みしめる。
覚えてるんだ。
ちゃんといるんだ。
蓮くんの中に私。
「蓮くんだって、今日のシャツ似合ってるよ。うん。おしゃれだしかっこいい」
あっ。
言ってからまた顔が熱い私。
「そ、そっか、まあ引っ張り出した甲斐があったかな……」
「今日の、ために? 準備してくれたの?」
「え? ああ、まあ、一応。おまえの誕生日だろ」
「ありがとう。蓮くん」
「いや、別に……おまえも似合ってるし、かわいいんじゃないか」
「え?」
バッグのベルトをぎゅって握って。
ちらちらと蓮くんの横顔をうかがう。
気持ち耳が赤い――
気がする。
それを見て伝染する私って。
だって、聞いちゃった。
褒めてくれた。
かわいいって。
「今なんて、言ったの?」
蓮くんは、
「めちゃ、似合ってるよ、その服」
頭をわしゃわしゃってかきながら少し早口。
「ありがとう。それだけ?」
「ん? それだけって?」
「ううん。ありがとう。嬉しいよ蓮くん」
「そ、そっか」
もう一回なんて欲だしちゃった。
ちゃんと言ってくれたんだから。
困らせちゃだめだよね。
前回より会話も弾んで。
こうして、今日も魔法の時間がとけていく。
ショッピングモールを出て、一緒に写真を撮って歩く。
野良猫撮って。
船を撮って。
海を撮って。
人混みを撮ったり。
影を撮ったり。
街路樹の葉っぱを撮ったり。
蓮くんと写真を撮っていると、何でも被写体になるってわかった。
そして、なんか蓮くんて色んな角度から見ているんだって気づいたよ。
例えば、お花が咲いてるでしょ。
それを撮るって決めたら、お日様の位置を確認して。
少しジーッと花を見つめて。
そして撮影ポイントに行って。
距離とかアングルとか決めたら――
連写発動。
すごいいい顔してるの。
集中してる時の蓮くん。
何杯でもおかわりできるって感じ。
私はまだまだだけど、写真を撮るという同じことしてるのも。
一緒にいる空間や時間を切り取ってるって思えるから。
歩き回ってるだけだけど、すっごく面白い。
そして、大きな赤い観覧車を撮りあいっこしたら。
蓮くんは観覧車の上半分と青い空。
「わあ、日の出みたい」
って言ったら、
「おまえ、すごいな」
って褒められた。
「そう?」
「少なくとも、俺の意図はそうだったから、昇る太陽に思えた」
「うわ! 蓮くんと同じこと思えたんだ。うれしい」
私は胸の前でスマホを両手で挟む。
目の前の蓮くんは、半開きにした口をそのままに固まってた。
私が首を傾げると、
「お、おまえの写真見せてよ」
ちょっと慌てた感じで、蓮くんはスマホを指さした。
「あ、はい」
私のは観覧車全体を撮った何気ない写真。
ただ、しゃがんで撮ったんだ。
そうしたら、
「いいじゃん、大きさの迫力が分かる」
って褒められた。
嬉しくてピョンピョン飛び跳ねてたら。
カシャカシャ……
また、撮ってくれた。
「もう。かわいく撮れてますか?」
後ろ手に組んで首を傾げる私。
「え? ああ、いい感じじゃない。やっぱり、おまえ動物っぽいな」
だって。
でも、一瞬、見惚れてた?
のかなって。
恥ずかしいけど。
見てくれていいんだよって。
言いたいけど。
言えるわけがない。
ガサガサ……
街路樹が揺れて、砂埃が舞って。
強い風が吹き抜けて、まくれ上がったスカート。
「わっ……」
慌てて手で押さえて。
チラッと蓮くんを見たら。
観覧車みたいに赤かったの。
スーッと視線を空に向ける蓮くん。
見られちゃった……?
そう思った途端に心臓が頭にやってきて。
顔が焼けて熱い。
スカートの裾をつまみながら膝をこすり合わせる。
「なんか目にゴミが入ってさ……」
目をこすっている蓮くん。
ん?
見られてない……?
ううん……
優しいから蓮くんは。
どう思ってるんだろ?
ダメダメ。
落ち着け。
結衣。
「あ、あ、あのさ、く、クレープ食べない?」
変な声が出た。
小刻みに頷く蓮くん。
その動きがなんかかわいくて面白くて。
恥ずかしさが、ほぐされていく。
「フフ。蓮くん、キツツキみたい」
両手で口を押さえる。
「え? あ、俺も動物か」
頭をかいて。
小刻みに頷いて見せる。
手を叩いて喜ぶ私を見て。
ゆっくり口角が上がる蓮くん。
やばい。
恥ずかしさを通り越して。
楽しすぎて。
蓮くんも楽しそうで。
最高の誕生日だよ。
ありがとう、蓮くん。
それから、生クリームたっぷりのクレープを買って。
ほっこりぽかぽかの陽だまり。
木漏れ日のベンチに並んで座って。
観覧車を見ながらおやつタイム。
「あ、蓮くん、ここついてるよ」
「ん?」
私が自分の口の端を押さえると、舌を出してペロッとする。
「もう。取れてないよ」
差し出したティッシュを受け取った蓮くんはそっと拭う。
そんな様子をニコニコにしながら見つめていると、
「なに? まだついてる?」
蓮くんは眉を寄せた。
「ううん。いっつも蓮くん右の口の端に何かついてるなって」
「そうか?」
「うん、そうだよ」
クレープをパクリ。
生クリームの甘さが私のこころのように溶けていく。
蓮くんは首を捻りながらクレープをパクリ。
ぬるい風が二人を包んで。
かすかに香る海の匂いが混ざってきた。
「蓮くん、楽しいね」
「え? ああ、そうだな」
「あー。またついてるよ」
そっとティッシュで口元に手を伸ばしてしまった。
あっ。
すんでのところで手を止めて。
蓮くんを見た。
黙ったままの蓮くん。
あれ?
「拭いてもいい?」
小さくうなずく蓮くん。
きゃは。
口の端のクリームをそっと拭き上げる。
あっ。
唇の感触がティッシュ越しに伝わっちゃって。
指が震えだす。
さっと、引っ込めて。
膝の上でティッシュを握りしめた。
「ありがとう。橘」
私はぶんぶんと首を振る。
蓮くんはパクってクレープにかぶりついてもぐもぐ。
あっ。
またついてる。
それを見たら少し力が抜けて。
「蓮くん、拭いてあげる。またついてるよ」
「え? まじか?」
「ほら……」
手を伸ばすと蓮くんはじっとしていた。
それもなんかかわいくて。
誕生日プレゼントたくさん貰っちゃったかも。
拭き終わると、蓮くんはしきりに首を傾げていた。
「俺、食べるの下手かな?」
「そんなことない。今のままでいいよ。ついたら、私が拭いてあげるから」
肩をすくめて微笑むと。
蓮くんもゆっくりと頬を緩めた。
その前髪が風に揺れて、瞳に光と影が交互に運ばれてキラキラして見えた。
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