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好きだから。  作者: ぽんこつ


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33/39

誕生日デートです。いっぱい、たくさん。

初めてのお台場に上陸の私。

大きなショッピングモールやホテルやマンションたちが出迎えてくれた。

「せっかくだから」

って、蓮くんの案内で、海沿いの遊歩道を柔らかな風を浴びながら歩く。

私は怒られないから蓮くんの肘の辺りをつまむ。

「気持ちいいね、蓮くん」

「ああ、ちょうどいい陽気だな」

前より会話になってるんだよ。

少し歩いて、視界に入ってきた物。

「え? なんで自由の女神?」

「詳しいことは覚えてないけど、日本とフランスの友好の証だったような気がする」

「ふーん。蓮くんは何でも知ってるんだね」

「え?」

「私が聞くこと、大体答えてくれる」

「そっか?」

「そうだよ」

蓮くんの顔を覗き込むようにしてニコってしたら。

おでこを手でさすりながら、笑い返してくれた。


それから、大きな通路を歩いて。

童話に出てきそうな、かわいらしい外見の小さなピザ屋さんでランチ。

ピザを半分ずつ食べた。

カリカリの生地と、とろとろのチーズ。

すごく美味しい。

だって蓮くんと食べてるから。

蓮くんはまた口の端に食べ残しをつけてて。

教えてあげたら。

「ありがとう」

って、恥ずかしそうに笑って。

かわいいの。

食後にフリスクあげて。

二人で目をしゅばしゅばさせて笑い合った。

あまーいミルクティーで一息。


挿絵(By みてみん)



それから、ショッピングモールを冷やかして。

「どんな服が好みなの?」

私の問いかけに。

「ん? こだわりないかな、動きやすいのがいい」

蓮くんは首を捻った。

「あ、私も!」

「そうなの? こんなおしゃれしてるのに?」

「え? そう? そうかな?」

下ろした髪の毛先をつまむ。

「なんか、こないだとも違うし、おしゃれだなって」

唇を噛みしめる。

覚えてるんだ。

ちゃんといるんだ。

蓮くんの中に私。

「蓮くんだって、今日のシャツ似合ってるよ。うん。おしゃれだしかっこいい」

あっ。

言ってからまた顔が熱い私。

「そ、そっか、まあ引っ張り出した甲斐があったかな……」

「今日の、ために? 準備してくれたの?」

「え? ああ、まあ、一応。おまえの誕生日だろ」

「ありがとう。蓮くん」

「いや、別に……おまえも似合ってるし、かわいいんじゃないか」

「え?」

バッグのベルトをぎゅって握って。

ちらちらと蓮くんの横顔をうかがう。

気持ち耳が赤い――

気がする。

それを見て伝染する私って。

だって、聞いちゃった。

褒めてくれた。

かわいいって。

「今なんて、言ったの?」

蓮くんは、

「めちゃ、似合ってるよ、その服」

頭をわしゃわしゃってかきながら少し早口。

「ありがとう。それだけ?」

「ん? それだけって?」

「ううん。ありがとう。嬉しいよ蓮くん」

「そ、そっか」

もう一回なんて欲だしちゃった。

ちゃんと言ってくれたんだから。

困らせちゃだめだよね。

前回より会話も弾んで。

こうして、今日も魔法の時間がとけていく。


ショッピングモールを出て、一緒に写真を撮って歩く。

野良猫撮って。

船を撮って。

海を撮って。

人混みを撮ったり。

影を撮ったり。

街路樹の葉っぱを撮ったり。

蓮くんと写真を撮っていると、何でも被写体になるってわかった。

そして、なんか蓮くんて色んな角度から見ているんだって気づいたよ。

例えば、お花が咲いてるでしょ。

それを撮るって決めたら、お日様の位置を確認して。

少しジーッと花を見つめて。

そして撮影ポイントに行って。

距離とかアングルとか決めたら――

連写発動。

すごいいい顔してるの。

集中してる時の蓮くん。

何杯でもおかわりできるって感じ。

私はまだまだだけど、写真を撮るという同じことしてるのも。

一緒にいる空間や時間を切り取ってるって思えるから。

歩き回ってるだけだけど、すっごく面白い。


そして、大きな赤い観覧車を撮りあいっこしたら。

蓮くんは観覧車の上半分と青い空。

「わあ、日の出みたい」

って言ったら、

「おまえ、すごいな」

って褒められた。

「そう?」

「少なくとも、俺の意図はそうだったから、昇る太陽に思えた」

「うわ! 蓮くんと同じこと思えたんだ。うれしい」

私は胸の前でスマホを両手で挟む。

目の前の蓮くんは、半開きにした口をそのままに固まってた。

私が首を傾げると、

「お、おまえの写真見せてよ」

ちょっと慌てた感じで、蓮くんはスマホを指さした。

「あ、はい」

私のは観覧車全体を撮った何気ない写真。

ただ、しゃがんで撮ったんだ。

そうしたら、

「いいじゃん、大きさの迫力が分かる」

って褒められた。

嬉しくてピョンピョン飛び跳ねてたら。

カシャカシャ……

また、撮ってくれた。

「もう。かわいく撮れてますか?」

後ろ手に組んで首を傾げる私。

「え? ああ、いい感じじゃない。やっぱり、おまえ動物っぽいな」

だって。

でも、一瞬、見惚れてた?

のかなって。

恥ずかしいけど。

見てくれていいんだよって。

言いたいけど。

言えるわけがない。


ガサガサ……

街路樹が揺れて、砂埃が舞って。

強い風が吹き抜けて、まくれ上がったスカート。

「わっ……」

慌てて手で押さえて。

チラッと蓮くんを見たら。

観覧車みたいに赤かったの。

スーッと視線を空に向ける蓮くん。

見られちゃった……?

そう思った途端に心臓が頭にやってきて。

顔が焼けて熱い。

スカートの裾をつまみながら膝をこすり合わせる。

「なんか目にゴミが入ってさ……」

目をこすっている蓮くん。

ん?

見られてない……?

ううん……

優しいから蓮くんは。

どう思ってるんだろ?

ダメダメ。

落ち着け。

結衣。

「あ、あ、あのさ、く、クレープ食べない?」

変な声が出た。

小刻みに頷く蓮くん。

その動きがなんかかわいくて面白くて。

恥ずかしさが、ほぐされていく。

「フフ。蓮くん、キツツキみたい」

両手で口を押さえる。

「え? あ、俺も動物か」

頭をかいて。

小刻みに頷いて見せる。

手を叩いて喜ぶ私を見て。

ゆっくり口角が上がる蓮くん。

やばい。

恥ずかしさを通り越して。

楽しすぎて。

蓮くんも楽しそうで。

最高の誕生日だよ。

ありがとう、蓮くん。


それから、生クリームたっぷりのクレープを買って。

ほっこりぽかぽかの陽だまり。

木漏れ日のベンチに並んで座って。

観覧車を見ながらおやつタイム。

「あ、蓮くん、ここついてるよ」

「ん?」

私が自分の口の端を押さえると、舌を出してペロッとする。

「もう。取れてないよ」

差し出したティッシュを受け取った蓮くんはそっと拭う。

そんな様子をニコニコにしながら見つめていると、

「なに? まだついてる?」

蓮くんは眉を寄せた。

「ううん。いっつも蓮くん右の口の端に何かついてるなって」

「そうか?」

「うん、そうだよ」

クレープをパクリ。

生クリームの甘さが私のこころのように溶けていく。

蓮くんは首を捻りながらクレープをパクリ。

ぬるい風が二人を包んで。

かすかに香る海の匂いが混ざってきた。

「蓮くん、楽しいね」

「え? ああ、そうだな」

「あー。またついてるよ」

そっとティッシュで口元に手を伸ばしてしまった。

あっ。

すんでのところで手を止めて。

蓮くんを見た。

黙ったままの蓮くん。

あれ?

「拭いてもいい?」

小さくうなずく蓮くん。

きゃは。

口の端のクリームをそっと拭き上げる。

あっ。

唇の感触がティッシュ越しに伝わっちゃって。

指が震えだす。

さっと、引っ込めて。

膝の上でティッシュを握りしめた。

「ありがとう。橘」

私はぶんぶんと首を振る。

蓮くんはパクってクレープにかぶりついてもぐもぐ。

あっ。

またついてる。

それを見たら少し力が抜けて。

「蓮くん、拭いてあげる。またついてるよ」

「え? まじか?」

「ほら……」

手を伸ばすと蓮くんはじっとしていた。

それもなんかかわいくて。

誕生日プレゼントたくさん貰っちゃったかも。

拭き終わると、蓮くんはしきりに首を傾げていた。

「俺、食べるの下手かな?」

「そんなことない。今のままでいいよ。ついたら、私が拭いてあげるから」

肩をすくめて微笑むと。

蓮くんもゆっくりと頬を緩めた。

その前髪が風に揺れて、瞳に光と影が交互に運ばれてキラキラして見えた。


挿絵(By みてみん)

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