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好きだから。  作者: ぽんこつ


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32/38

誕生日デートです。船に乗る。

私は晴女なのかも。

天気予報は曇りのち晴れだったけど。

朝から青空が広がっていた。

今日は二回目のデート。

そうです。

私の誕生日。

だから特別感を出してます私。

チークはオレンジ。

つやつやコーラルピンクのリップ。

髪型もサイドに寄せた三つ編み。

私も初めてのスタイル。

テンション上げて。

かわいいって想ってくれますようにって。

丁寧に編んだんだよ。

それに、部活があるから、出来ないマニキュアも。

クリアなベージュピンク。

ちょっと、自分の指じゃないみたい。

服も普段着ないような女の子っぽいのにしてみた。

靴ひもがピンクのアイボリーのスニーカー。

ラベンダー色のフレアスカート。

パフスリーブの白いコットンブラウス。

少し透け感があって、袖口に繊細なレースがあしらわれているの。

お母さんが買ってくれたんだ。

結局、今日もお母さんに、

「結衣、かわいい。彼もいちころだよ」

って、かわいいって言われちゃったけど。

いちころってなんだろ?

それから、今日も5時に起きたのは内緒だから。


誕生日だけど、プレゼントは期待しない。

ただ、一緒に過ごせるだけで幸せなんだから。

暴走しないように言い聞かせて。

でも、妄想は膨らんじゃって。

でも、ちゃんと蓮くんのことも知っていきたいから。

めくるめく、せわしく動く頭と心。

待ち合わせは高井駅。

蓮くんの住んでいる街の改札。

約束の時間の10分前。

蓮くんは既にいた。

黒いスニーカーにジーンズ。

白のドット柄のシャツ。

柱に寄りかかって。

ちょっと眩しいくらい、かっこいいんだけど。

私の彼氏。


挿絵(By みてみん)


手を振りながら。

ちょこちょこと駆け寄る。

寄りかかっていた体を直して片手を挙げる蓮くん。

「おはよう。待った?」

「おはよう。いや、今来たとこ」

このちっちゃな嘘が同じで。

にんまりしてしまう。

ふって気の抜けたように笑う蓮くん。

でもね。

知ってるよ。

蓮くんの瞳が私を見つけた時から追っかけてくれたの。

かわいいって想ってくれてますか?


それから電車に揺られて浅草へ。

そこそこ混んでて。

会話もあんまり出来なくて。

でもおかげで、蓮くんに密着。

吊革につかまる蓮くんのバッグのベルトにつかまる私。

都心に近づくに連れて。

満腹になっていく車内。

駅に着いて人が流れるたび。

私をそっと守るように蓮くんの片手が私の背中を少しだけ引き寄せる。

服の上から伝わる蓮くんのぬくもりに。

きゅうってなるお腹に汗ばむ体。

心臓の早さと音が蓮くんにバレちゃってる気がした。

地下の浅草の駅に着いて。

私は迷子にならないように蓮くんの肘あたりをつまんでついて行く。

「人がいっぱいだね」

「まあ、浅草は観光地だからね」

地下通路から伸びる階段の先の空の青が鮮やかで。

地上に出たら眩しさに手をかざした。

とてもたくさんの人で賑わう街。

勝手を知ってるのか、蓮くんは迷わず歩く。

でもね。

気づいたよ。

なるべく、私が家や壁側になるように選んで歩いてくれているの。

そんなこころ配りを噛みしめるように。

胸に手を添えた。

そして。

やってきたのは、隅田川の橋のたもとにある船の乗り場。


挿絵(By みてみん)


対岸にはスカイツリーと金色のオブジェクトが屋上にあるビル。

ここから隅田川を下る遊覧船に乗るんだって。

へへ。

これね、蓮くんの提案なの。

川から見える景色って普段見れないから面白いよって。

私の誕生日のデートのこと考えてくれたんだよ蓮くん。

長細いガラス張りの船。

蓮くんは一回乗ったことがあるみたい。

船尾のデッキ部分で出発を待った。

水面はゆらゆらして弾ける光の中に水鳥が気持ちよさそうに浮かんでいる。

「楽しみだな」

首を傾げて微笑むと、

「そっか」

少し照れたように。

眩しそうに細くなった目で笑い返してくれた。

ふわりとスカートが跳ねて。

サイドに編み下ろした髪をそっと撫でた。

そう、浅草からお台場まで。

船の上のちょっとした冒険。

わくわくが止まらなくて。

ブルルルル……

低いエンジン音と共に足の裏に振動が伝わって。

船がゆっくりと動きだす。

「わっ」

ちょっとよろめきそうになって手すりにつかまった。

でもね、気がついたよ。

蓮くんが手を差し出そうとしてくれていたこと。


すぐそばの橋の下をゆっくりくぐって。

きらきらの川の道路を進んでいく。

すごく新鮮だった。

空と水に挟まれて、いつもより街が高くて。

次々に橋がやってくる。

「わあ、蓮くん見て!  橋がすぐそこ!」

なんか頭がぶつかりそうで、手すりにつかまって背伸びして手を伸ばしてみる。

「おい、危ないぞ」

蓮くんが服の裾を掴んで。

脇腹あたりに蓮くんの手の感触が伝わって。

どきっとして、手を引っ込めようとしたら。

足元がよろめいて――

「あ――」

倒れそうになったら。

お腹を抱きかかえられた私。

ぴーって。

何かが破裂して。

また、きゅうってなったお腹。

またたく間に全身に巡る熱。

そのまま動けなくて。

だって、服越しに蓮くんの腕の感触が、体温が分かるから。

「おい」

「はい」

背中から聞こえる蓮くんの声。

ハッとして。

そーっと姿勢を直すと、お腹から腕がスーッと離れた。

そっとお腹の辺りを触れている私。

「大丈夫か?」

こくんと頷いて。

ゆっくり振り返る。

「ごめんなさい。ありがとう」

「ほんと、おまえは危なっかしいな」

しょうがいないなって。

そんな言い方。

でも、全然嫌味じゃないの。

「ああ、へへ」

お腹を擦っていた私。

「ん? ごめん痛かった?」

「あ、ううん。そうじゃない、大丈夫」

サッと後ろ手に組んで、微笑んだ。

真っ赤な顔してるんだきっと。

今日もチークの意味ないかも。

「そっか」

爽やかな風が前髪を靡かせて笑う蓮くんの顔。

ほらね。

言葉も表情も行動も。

全部やさしいの。


蓮くんはバッグの中から相棒を取り出した。

「せっかくだから、写真撮ろう」

そう、今回はカメラを持っている蓮くん。

遠ざかっていく橋にカメラを向けた。

私のこと撮ってくれないかな。

また。

なんて思いながら、私もスマホを構える。

近づいてくる橋の上から子供たちが手を振っていた。

片手を振り返しながらシャッターを押す。

「バイバイ~」

橋をくぐる時子供たちが声をかけてくれた。

私は笑顔で手を振り返す。

カシャカシャ……

ん?

蓮くんの顔を見たら、こっちにレンズが向いていた。

橋の影から出て、カメラを下げた蓮くんの顔に陽射しが当たって。

笑顔がひときわ眩しい。

「いま、私のこと撮ったの?」

「ん? 撮ってないよ」

微笑みながら首を傾げる蓮くん。

「嘘だ。撮ったでしょ?」

「撮ってない、子供たちを撮った」

「じゃあ、見せてよ」

「ダメだな。プライバシーの問題だ」

「ケチ……」

私が口をとがらせて膨れると――

カシャカシャ……

ん?

シャッター音。

「え? 今のは撮ったでしょ!」

「撮ってない」

「もう。いいもん。自分のことは撮らせないくせに。ずるいんだ蓮くん」

プイってそっぽを向いて手すりにつかまった。

頬が緩んで、口をすぼめる。

嬉しいんだよ。

私のこと撮ってくれてるの。

でも、私が撮れないのは悔しいけど。

でも、蓮くんは私の笑顔が素敵だって。

好きだって想ってくれてるの聞いたから。

だから、さっきのちょっと照れたような笑いも。

誤魔化したような言い訳も。

今ちゃんと心に焼き付けてるんだよ。


ん?

私の顔の前に蓮くんのカメラがひょっこり現れた。

そのディスプレイに映っていたのは――

橋の上の子供たちを見上げて笑いながら手を振る私の横顔。

「いい顔してるだろ。今日は誕生日だから特別に見せるけど、あげないよ」

「……うん……」

こんな顔、してるんだ。

何か自分で言うのもおかしいけど。

今、この瞬間の全部が楽しいって。

そんな風な顔、だった。

「どした……?」

隣の蓮くんが少し覗き込んできた。

「あ、いや、私こんな顔してるんだって。ちょっとびっくりした」

ニヤって蓮くんは片方の口の端を上げて、カメラのボタンを押した。

ディスプレイを見ると――

口を尖らせて膨れている私の顔。

「あっ……やっぱり撮ってたじゃん」

「なんかフグみたいでかわいかった」

「もう! …………ん? 今、なんて?」

「ん? フグみたいって」

「違う。そのあと!」

「なんか言ったっけ?」

蓮くんは首を傾げて空を見上げた。

じっーと蓮くんを見つめていると目が合って。

ゆっくり。

確実に。

笑顔に変わっていって。

笑い合う。

ニコニコが止まらない。

それから、ここがいいよって色んな撮影ポイントを教えてくれた。

すれ違う船。

色んな形をした橋。

川を渡る電車。

そして、レインボーブリッジを初めて下から見た。

見上げながらピョンピョン飛び跳ねる私を見た蓮くんは、

「おまえはやっぱり、水族館にいそう」

って、笑ってくれた。

その笑顔は、蓮くんが撮った私の横顔みたいで。

今が楽しいって、想ってくれてるのかなって。

潮風を浴びて髪がわちゃわちゃしたけど。

それすら嬉しくて。

くすぐったくて。

撮った写真を見せ合いっこしたりして。

ずっとうきうきしっぱなしの私。

きっと蓮くんも。

だって、私が笑ったら笑ってくれて。

蓮くんが笑ったら、私の心はもっともっと笑ってるから。


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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― 新着の感想 ―
幸せな時間は、読んでいても心地よいですね。 二人の初々しいデートの様子にほっこりしました。 蓮君が何を抱えているかは分からないけれど、結衣ちゃんなら蓮君に「もう一人じゃない!」って思わせることができそ…
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