憩いの場所?
ランチは、二人で初めてのファーストフード。
恋人っぽい距離。
って、恋人なんだよね。
今目の前にいる。
私の彼氏。
目にかかった前髪を指で払って。
ふわって揺れる髪。
そのまま、指がポテトをつまんで。
ぱくっ。
いつも食べてるチーズバーガーも。
シェアしたチキンナゲットも。
フライドポテトも。
美味しいの。
いつもより。
「食べていいよ」
蓮くんはポテトを指さした。
きっと、私が蓮くんを見てたのを。
ポテトが欲しそうだと思ったのかな。
でも、ポテト好きだから。
貰っちゃう。
「じゃあ、ナゲット1個あげる」
「いいのか?」
「うん、ポテトもうちょっと頂戴」
私は手を伸ばして三本つまんでパクリ。
ニコニコしながらハンバーガーを頬張る蓮くんを眺める。
ほっぺを膨らまして。
もぐもぐ。
もうこのまま、時間よ止まれ!
て、心の中で叫んでみる。
あっ。
蓮くん、ソースが口の端に着いたまま。
かわいいな。
気が付かない。
私がティッシュを手にそっと口元に手を伸ばした時。
蓮くんは顔を背け、
「触るな……」
って、ちょっとだけ怖い声。
思わず俯いて、肩を落とす私。
「ごめんね」
「いや、慣れてなくて、こっちこそごめん」
「ううん。これ使って」
私はラブレターのように両手でシュッとティッシュを差し出す。
「ありがとう」
受け取ったティッシュで口に着いたソースを拭う蓮くん。
恐る恐る伏し目がちに見ていたら。
蓮くんの口の端が上がったように見えて。
私も顔を上げる。
優しい。
ほんの一瞬だけど、やさしい顔だった。
写真は撮れないけど、忘れちゃいけない!
心のアルバムにしっかり焼き付ける。
ふいに蓮くんはポケットからフリスクを取り出す。
私の死角でそれを手に出しひょいっと口に運んだ。
いつもの食後のフリスク。
あれ?
まだ、食事残ってるのに。
お腹一杯なのかな?
それとも、スース―したい気分なの?
私はブレザーのポケットを確認。
そうだ。
今日の学校の帰りに買おうと思ってたんだフリスク。
あっ。
へへへ。
閃いた私。
「私も、欲しいな」
紙コップの水を飲みながら、蓮くんは視線をこっちに向ける。
目と目があって。
瞬きひとつで、蓮くんに染まる頬と耳。
肩に力が入って。
また伏し目になる私。
「おまえ、持ってるだろ?」
ん?
覚えてる。
私が持ってるの。
「もうなくなっちゃって、買うの忘れてたから」
「ふーん」
小さくうなずく蓮くん。
ポケットに手を突っ込んで。
さっきとはパッケージの色が違うフリスクが出てきた。
「手出して」
「はい」
私はちゃんと受け取れるように、両手を差し出す。
カシャ、カシャ……
コロコロと粒が掌に落ちてくる。
「ありがと」
「ああ」
私は蓮くんの真似をして、ひょいっと口に入れてみた。
鼻からスーッと抜ける爽快さに、目が少ししみて。
思わず飲み込んでしまって。
むせる。
「大丈夫?」
飛んできた蓮くんの声。
胸をトントンと叩きながら。
うなずいて笑顔を作る。
すると、蓮くんの顔がゆっくり微笑みにかわっていくの。
私がむせたら笑ってくれる。
それが、無茶苦茶嬉しくて。
私の失敗で笑ってくれるなんて。
間違いなく、好きだよね。
私のこと。
「落ち着いた? ジュース飲みな」
「んんっ。んん……うん」
両手で持ったオレンジジュース。
おちょぼ口でくわえたストローでごくごく。
気にしてくれてるよ。
あれ?
蓮くんはポテトをパクリ。
ふーん。
食後じゃない時もあるんだフリスク。
私は残りのチーズバーガーをパクリ。
しっかり、蓮くん虎の巻に加筆できるように。
今日の収穫を頭の中に叩き込む。
ポテトを食べる時一本一本、丁寧に食べる。
私は……その食べ方の雑さを、書かない。
いや、書けない。
フリスクは食後とは限らない。
よし。
そして――
大事なことがあるんだ。
そのために今日誘ったまである。
オレンジジュースで喉を潤す。
しゅっと背筋を伸ばして息を吸う。
「あ、あのさ、蓮くんの誕生日っていつなのかな」
首を傾げてほほ笑んでみる。
「あ、うーん……」
ナゲットを一個、口に入れて黙ってしまった蓮くん。
視線はうつむいたまま。
やっぱり教えてくれないのか……
どうしてなんだろう?
「あ、ごめんね……」
「いや……」
そう言ってポテトをつまむ蓮くん。
仕方ない。
でも。
次が今日の本命だから。
お尻を浮かせて座り直す。
ブレザーの袖を握って。
そっと腿の上に置いた。
頑張れ。
結衣。
「あの……ね、蓮くん」
「ん?」
ストローをくわえながら、私を見てくれた。
ここは、逸らしちゃダメ。
そわそわする膝。
強張る肩。
さっき飲んだのに乾く喉。
「わ、私の誕生日はね。来週の26日なんだ……」
「そう……」
蓮くんの視線は逸れないで。
私を見てる。
「あ、何か欲しいとかないから、全然気にしないで……でも……」
「でも、なに?」
両手を胸に添えていた。
もう分かりきっている鼓動の早さ。
それをなだめるように。
「その、ど、土曜日だから一緒に、デート出来たらいいなって、思って」
蓮くんはもぐもぐしながらうつむいた。
ゴクリと飲み込む音がして。
「わかった。来週の土曜日だな」
「うん……」
視野が一気に広がって。
蓮くんの周りにキラキラ花が縁どられる。
すーっと体の力が抜けて。
目から少し溢れた想いを指で拭う。
熱くあたたかな雫。
「ありがとう……」
良かったね結衣。
だから泣かないよ。
「で、どこ行くの?」
「ん……?」
「いや、そのデートだろ?」
「それは……考えてなかった。オーケーしてくれてから考えようかなって」
「そっか……」
ふんわり浮かんだ蓮くんの笑顔が優しくて。
視線だけが上がって。
何考えてるの?
私のことですか?
じわじわと沁み込んでいく。
誕生日デート。
約束しちゃった。
あっ。
「くしゅん」
両手で口を覆う。
「おい、大丈夫か? 風邪ひいたらデートどこじゃないぞ」
鼻をすする。
「へへ。ありがとう、大丈夫。風邪なんかお風呂入って吹き飛ばすから。蓮くんこそ気を付けてね」
「ああ……」
「そうだ。今度、蓮くんが風邪ひいたら私が看病しに行ってあげる。おかゆ作って、お漬物も持ってくから」
「え? あ、いや……」
「私は、蓮くんの彼女だもん。役に立ちたいもん」
「……たってるよ」
「ん?」
なんて?
今、なんて?
「今なんて言ったの?」
「ん?」
頬杖をついて。
ジーッと見つめてみる。
蓮くんはオレンジジュースをジュルルって吸いきった。
「そうだ……アップルパイ食わない?」
がくってなる私。
「ハハハ……」
腕を組んで笑う蓮くん。
「もう。いいよ。アップルパイ食べよ」
気づけば、トレイの上の氷は全部溶けていて。
窓の外は、さっきよりずっと暗くなっていた。
結局、何時間話してたんだろう。
テストの話。
麻耶の話。
私の話。
時々、蓮くんが呆れたように笑ってくれて。
それだけで、私はもう、お腹いっぱいだった
ザー……
止む気配のない雨はまだ降り続いている。
ガタン、ガタン……
私は改札まで蓮くんを見送る。
ピンポーン。
「またさ、こういうの学校帰りにしたいな」
向かい合った蓮くんに首を傾げて聞いてみた。
「ああ、タイミングが合えば。いいよ」
「ほんと!」
ぴょんと飛び跳ねると、蓮くんの頬が緩んだ。
「はいはい」
その分かったよっていうような。
やれやれというような言い方も声も優しい。
そんな蓮くんに見惚れて。
心からわいてくる微笑み。
次のデートのことも。
また、こうやって会えるということも。
「蓮くん、傘使って」
蓮くんの胸元にピンクの傘を押し付ける。
「え? おまえどうするの?」
「お母さんに迎えに来てもらう。さっき頼んだから」
「いいのか?」
「うん。蓮くん風邪ひいたらデート出来ないし。心配だから」
「……わかった」
蓮くんが傘を手にした時。
四度目の接触。
私の手を覆うように被さって、あったかかった。
そして少し汗ばんでたの。
「じゃあ、おまえも気を付けて」
「うん、蓮くんも」
私が手を振ると、蓮くんは片手を小さく挙げた。
自動改札を抜けて、階段に通じる角を曲がるとき。
こっちを向いた。
私は両手を大きく振る。
蓮くんは片手を振り返してくれた。
何か笑ってるみたいだった。
ゆらゆら、ふわふわした余韻が残って。
大きく息を吸って肩を落とした。
ぴょんと。
向き変えて歩き出す。
視線の先。
色とりどりの傘が。
咲いて。
萎んで。
――さてと。
私を幸せに時間に誘ってくれた雨。
この中を家まで、ダッシュか。
橘結衣。
行きます。
私は雨のカーテンの中に飛び込んだ。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……
足音が跳ねる。
灯りはじめてた外灯や街の明かりが。
水たまりや濡れたアスファルトに揺れて浮かんで。
制服が肌に張り付いて、水しぶきが顔を叩く。
すごく冷たいはずなのに。
笑っている私。
胸に抱えた掌に残る蓮くんの温もりが。
私を包んでくれているから。
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