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好きだから。  作者: ぽんこつ


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30/40

かさなって

カリカリ……

シャーペンの走る音が支配した教室。

私は小さく息を吐いて。

解答用紙をひっくり返した。

わずかに見える蓮くんの背中。

真っ直ぐ伸びている。

いつも私より早く終わってる。

今年の体育祭。

蓮くんはお休みで、あの颯爽とした走りを見ることが出来なかった。

『風邪ひいた。ごめん』

ってメッセージが来たけど。

相変わらず返信率は低いまま。

でも、同じクラスにいるから。

休憩時間や、時々一緒に登下校する時間があるから。

話せる機会が増えたから。

メッセージの遣り取りが少なくても全然大丈夫。

今日は中間テストの最終日。

前日、送ったメッセージ。

「明日学校終ったら一緒にお昼食べて帰ろ」

って。

返事は今朝来た。

『わかった』

このたったの四文字で。

パワー全開。

エネルギー満タン。

お陰で頭まで冴えちゃって。

テストの解答欄は全部埋めれた。

最近ふと思う。

蓮くんとなら何でも出来そうな気がするの。

トマトジュースも飲めるんじゃないかって思えるもん。

蓮くんの頭が動いて、窓の外を見ているのかな。

さすがにテスト中、振り向かせちゃうのはダメだから。

私も外を見る。

同じ景色を見ているよ。

校庭の木が風に踊ってる。

どんよりした雲が青空を少しずつ塗りつぶしていた。

あれ?

雨降るのかな?

天気予報では夕方から雨って言ってたけど。


キーンコーン、カーンコーン……

終業のチャイムが鳴って。

ちょろちょろと蓮くんの席に。

「テストどうだった?」

「ああ、まあまあかな」

「そっか。でも蓮くん頭いいから羨ましい」

「そっか。橘だって出来るだろ勉強」

ぎぎって椅子を引いて蓮くんが立ち上がる。

「じゃあ、行くか」

「うん!」

並んで廊下を歩いて。

階段を下りて。

昇降口で靴を履き替えて。

「あっ……」

パラパラと落ちてきた雨。

キャーと声をあげながら校門へ駆けて行く生徒もいる。

「おまえ傘持ってる?」

「ごめん、ない。蓮くんは?」

「悪い、ない」

視線の先の雨は糸を引いて線の膜を下ろして。

色が少しずつ抜け落ちていく。

「どう、しようか」

「結構降ってるな」

蓮くんを見ると、チラッと私を見て苦笑う。


「結衣~」

背中から飛んできた麻耶の声。

「ああ、麻耶」

振り返ると、麻耶は下駄箱で靴を履き替えていた。

「どうしたの? もしかして傘ないの?」

「うん」

ニヤッと麻耶は笑う。

「じゃあ、私の貸してあげるよ」

「え? でも麻耶どうするの?」

麻耶は後ろを指さした。

そこには靴を履こうとしている恭一くん。

麻耶は両手を口に添えて、私の耳元で囁く。

「あいあい傘しちゃいな」

そしてウインクをして、私に傘の柄を握らせた。

「あ、ありがとう」

「じゃね」

小さく手を振ると、恭一くんが差した傘の中に身を預け歩いて行った。

「じゃあ、私たちも行こうか」

私が傘を広げる。

淡いピンクの傘。

想いもよらないシチュエーションに無駄にドキドキしだす。

ううん。

無駄じゃないんだけど。

「あ、俺が傘、持つよ」

「あ、はい。ありがとう」

くっと差し出した傘。

蓮くんが柄を握る時。

手が触れた。

きゅーって、全身の毛が逆立った。

サッと手を離す。

後ろ手に組んで。

触れた箇所をそっと撫でた。

「じゃあ、行こう」

「はい」

麻耶の傘は微妙に大きくなくて小さくもなくて。

私の肩が蓮くんに触れる、というかぶつかる。

あっ。

すぐに分かったよ。

私が濡れないように傘を私の方に傾けてくれているの。

「蓮くんが濡れちゃうよ」

「ああ、大丈夫」

「ううん、こないだ風邪ひいたでしょ。せっかく治ったのにまたぶり返しちゃうかもしれないよ」

私は傘の柄を持って蓮くんの方に傾ける。

また手が触れちゃった。

でも、心配だから。

ここは譲らない。

「お、おい」

「いいの。私は大丈夫だから、蓮くんが風邪ひいちゃったら、私のせいだもん」

「……」

「そんなのやだから」

結局、二人で傘の柄を持つという不思議な状態。

「わかった、ありがとう」


挿絵(By みてみん)


傘とアスファルトを叩く無数の粒音。

肩が濡れて、地面の跳ね返りが足に触れて冷たい。

「そうだよ。たまには言うこと聞いて」

頬を膨らませた私。

「あ、ああ」

うつむいた蓮くん。

「あ、ごめん。その、そんな、あの、ただ風邪ひいて欲しくなくて」

「わかったから」

少し口の端を上げた蓮くん。

「うん。そうだ。お昼何食べる?」

「そうだな、おまえが食べたいやつでいいよ」

「え? 蓮くんが食べたいやつでいいよ」

ふって蓮くんは笑う。

そして、横目でチラッと私を流し見た。

きゅんて。

なに今の。

かっこいいんだけど。

目をパチパチさせて焼き付ける。

「じゃあ、ハンバーガーでも食うか?」

「あ、うん。じゃあ、小間井の駅ビルの中の『ムック』にしよ」

「わかった」

やさしい声と物言い。

それだけで、こころが浮かれる私。


ザー……

雨が世界の音を遮ってくれて。

雨の膜につつまれ、傘が作ってくれた隙間の晴れ模様。

二人だけの空間。

かさなり続ける手のぬくもり。

つないだわけじゃないけど。

じわじわ滲んでくる汗。

その中で、トントン。

右、左と重なる歩幅。

にやける私。

信号待ちでピタッと止まる呼吸も一緒。

これって。

ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、らんらんらんだ。


シャー。

水しぶきを上げて走る車。

ピポ、ピポ……

せーの。

右、左……

「どした?」

「ん?」

「何にやにやしてるの?」

「あ、いや、一緒にいるから……だよ」

目線だけで蓮くんを見上げた。

口を半開きにした蓮くんと目が合って。

ちょっとかわいくて頬が緩んだら。

蓮くんもふわりと笑う。

足元と右手の重なりだけに集中。


「駅着いたから傘閉じるよ」

「あ、はい」

もう終わっちゃった。

そっと蓮くんのぬくもりから離した手。

あ、柄が汗ばんでいるの……

バレちゃうな。

蓮くんはそんなこと気に留める様子もなく傘を畳んだ。

「あ、麻耶のだから私が持つよ」

「別にいいよ」

「いいの」

「はいはい、じゃあ」

スカートの裾でさりげなく手の汗を拭いて。

蓮くんが差し出した傘。

ちょっと手を触りに行っちゃう私。

今日三度目の接触。

両手で柄に残る蓮くんのぬくもりを噛みしめる。

あっ。

私はリュックからハンドタオルを取り出した。

「蓮くん、肩濡れてるから、これで拭いて」

「あ、いやおまえだって」

「いいの。先にどうぞ」

「ああ、ありがとう」

濡れた肩を拭う蓮くん。

何かやりづらそうだし。

拭き方が男の子。

むずむずしだす私。

「ちょっ、ちょっと貸して」

「ん?」

私は蓮くんからハンドタオルを貰って。

肩に押し付けるようにトントンと水を吸い取った。

そして自分の濡れた肩を拭きあげる。

「ありがとう、橘」

「ううん。いいよ。じゃあ、電車に乗ろう。お腹空いてきた」

「ああ、俺も」

重なる微笑み。

改札を並んで抜けていく。

同じ歩幅と速さで。

ささいなことも。

うきうきして。

跳ね上がるこころ。

足取りも軽くなる。

「どした?」

「ん?」

「なんか今のおまえの歩き方、ウサギみたい」

「え?」

見上げた蓮くんの口元がほころんで。

瞳が私を映してる。

「かわいい? うさぎでしょ?」

右手だけで頭にうさぎの耳を作ってみる。


挿絵(By みてみん)


「ハハ……」

白い歯を見せて笑う蓮くん。

胸の前で傘の柄を両手で握りしめた。

ピンクがゆらゆらしてる。

ねえ?

嬉しい?

楽しい?

大好きだよ蓮くん。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。

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