ふにっと、ふわっと。
通学路。
少し先に蓮くんの姿。
私は駆け寄って、ぴょんと隣に並ぶ。
「おはよう、蓮くん」
蓮くんは私を見て笑う。
「おはよう」
キラキラの瞳。
すぐにギアが上がる鼓動。
キスしたこと。
思い出しちゃって。
蓮くんの口元を見つめてしまう。
「ちょっといい?」
立ち止まった蓮くん。
首を傾げる私を、道沿いの公園に誘った。
トコトコと後をついて行く。
突然振り返った蓮くんにビックリして目を閉じる。
あっ。
ほっぺに柔らかい感触。
スッと離れていくぬくもり。
ゆっくり瞼を開ける。
――水色の何かがぼんやりと見える。
あれ?
頬に手を当てる。
あったかいほっぺ。
スマホの音楽が鳴り出す。
ハッとして。
掛け布団をはいだ。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな光。
その光の中。
枕元のクラゲと目が合って、昨日のことが一気に押し寄せてくる。
――キス。
しちゃったんだ。
布団をかぶってうずくまる。
触れた唇。
もう蓮くんのぬくもりが刻み込まれてしまっていて。
勝手に暖房がついて熱くなる体と快速電車みたいな鼓動。
「結衣~、起きたの~」
お母さんの声が一階から飛んでくる。
「起きてるよ~」
支度しなきゃね。
大きく息を吐いて、布団をはいだ。
そっとクラゲを手に取った。
ふにふにが気持ちいい。
私のこころはふにゃふにゃかな。
ぬいぐるみを顔に押し当てた。
ぽかぽかした空気の通学路。
青い空にふんわりした雲が漂っている。
緑の匂いを乗せた風が制服のスカートを持ち上げては通り抜けて行く。
信号待ち。
道路を忙しなく行き交う、色とりどりの車。
いつもの朝。
少しだけ違うのは、私のこころ模様かな。
ピコン。
ん?
ポケットからスマホを取り出す。
麻耶から?
『昨日、返信来なかったけど、大丈夫? なんかあった?』
あっ……
いけない。
返事しようと思って。
蓮くんからメッセージが来て。
「麻耶ごめんね、疲れて寝ちゃった。昼休みに話があるの」
素早く返事を打って。
ぽちっと送信。
光の速さで返信。
『いいよ。わかった。あとでね』
ピポ、ピポ……
信号が変わって歩きだそうとした時。
「おはよう」
ビクッとして振り返る。
蓮くん!
「お、おはよう」
声まで跳ね上がり裏返る。
蓮くんは少し頬を上げて歩き出す。
口をすぼめた私はちょこちょこと隣に並ぶ。
ん?
あ?
これ初めてだ。
一緒に登校するの。
肩をすくめて唇を噛む。
「蓮くん、あのさ」
「なに?」
「なにかあったら話し聞くよ。私、彼女だから」
「なにかって?」
「なにかって?」
「はは……」
蓮くんはうつむいて笑うと空を見上げた。
私はその首筋から顎、そして――
あっ。
という間に顔が熱くって。
きゅうってなるお腹。
胸の前でブレザーの袖をこすり合わせる私。
「ど、どんなことでも蓮くんの力になりたいから、は、話して……ね」
「ああ……」
そう言って鼻をすすった蓮くん。
それから、昨日の写真を見せ合いっこした。
私の撮った写真のことを聞くとね。
蓮くんね、絶対ダメだとか良くないとか、否定的なこと言わないの。
それでね、こう想って撮ったでしょって言われることがあって。
そのほとんどが当たってるの。
だから思っちゃった。
やっぱり私のこと。
好きだよねって。
ルンルンしてきて。
体を左右に揺すりながら歩いていたら。
「やっぱ、おまえペンギンみたいだな」
だって。
「いいもん。ペンギンでもかわいいんでしょ?」
あっ。
言っちゃった。
蓮くんの顔を覗き込んだ。
片手で顔を覆って上から下ろして――
口を覆ったところで。
目が合った。
フフッ。
て、私がふきだすと。
蓮くんもそのまま目尻が下がって肩を揺すった。
私のほっぺが染まるくらいの早さで教室に着いちゃった。
席に座った蓮くんの背中を見つめる。
髪と制服に差し込む柔らかな光。
蓮くん。
名前のあとには音符が付いてる感じで呼びかける。
「結衣、おはよ!」
ビクッとして肩が揺れた。
「お、おはよう、麻耶。昨日はごめんね」
「ううん。いいよ、もう朝から恋する乙女の眼差ししちゃって」
「な、なに。いいでしょ」
「いいよ~」
麻耶は体を押し付けて私の椅子に腰かけてきた。
「で、どうだったのデート?」
耳元で囁く麻耶。
吹きかかる息に、無意味にゾクッとする私って……
「え? あ、うん……」
ちょっとあの瞬間が甦っちゃって。
肩を寄せ首を傾げた。
「え? なにかあったの?」
「ん? 何もないよ楽しかったよ」
「嘘だ。耳赤いもん」
「ひぇっ。あ、その、あの」
「いいよ。あとで教えて。私も話したいことあるから」
「ああ、うん」
麻耶は席を立った。
椅子に座り直して両手で頬杖をつく。
恋する乙女の眼差しを送ってみる。
あっ。
前の席の高橋くんに送ってしまう。
ちょっとずれて。
蓮くんの背中をしっかり捉える。
ふいに蓮くんが振り向いた。
きょろきょろして――
私を見てくれた。
すぐに。
当たり前に。
自然に笑顔になる私。
鼻にしわを寄せて、呆れたように笑うと、蓮くんは前を向いた。
ちゃんと見てるからね。
私はそばにいるよ。
ずっと。
キンコーン、カーンコーン……
ふわふわな妄想をかき消していくチャイムに一人頬を膨らませた。
――昼休み。
いつものように、蓮くんは横山くんたちとご飯を食べている。
私は麻耶と屋上に来た。
心地良い風が肌をなぞっていく。
お弁当の卵焼きを口にした時。
「私、恭一くんと……キス……した」
「へ?」
真っ赤な顔の麻耶は口をすぼめた。
口の中の卵焼きを飲み込みそうになった私。
モグモグとゆっくり噛みしめる。
甘さをしっかり飲み込んだ。
「そ、そうか。どんな感じだったの?」
「あ、うん。デートの終わりぎわにね、名前呼ばれて抱きしめられて……」
「うわ……」
麻耶のほっぺが乗り移ってくる。
「なんか、幸せだった。キスしてる最中……溶けちゃいそうだった……」
「そっかあ……」
一瞬だったし。
一方的だったからな。
私の場合。
「結衣は? なんかあったんじゃないの?」
「へ? あ、うん。私からキスしちゃった……」
「え!? 初デートで? すごいな結衣」
「ううん、そんな……ただ、おやすみってほっぺに……」
「ううん、結衣からしたのがすごいなって。烏丸くんなんて?」
「あ、いや、怒ってはいなかったし。楽しかったって、今朝、偶然駅で会って一緒に登校した」
「ふーん。烏丸くん、案外、結衣にメロメロなのかもよ」
「ひぇ。そ、そうかな……あんまり変わらないけど……でも、デートの時すごい話したし楽しかったよ」
「結衣の顔見てれば分かる。じゃあそのうちダブルデートしようね」
「うん。蓮くんがいいって言ったらね」
「まあ、それはそうか。でも良かった結衣が幸せそうで」
「そう……? かな」
「うん。何かさっき烏丸くん見てた視線。大切な人を見つめる目だった。ただの好き好きって感じじゃなくて」
「そう?」
「だから、なんか変化あったのかなって。でも初デートでキスでしょ?」
「な、なに、ほっぺにだよ……」
じっと見つめ合う。
耳まで赤信号になる私も麻耶も。
肩を揺すって笑いだす。
私は、ごはんをパクッと一口。
蓮くんと……
いつか……
妄想大魔王が暴走しそうで。
慌てて首を振る。
ふわっとした温かな風が私たちを包んでいった。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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*人物画像は作者がAIで作成したものです。
*風景写真は作者が撮影したものです。




