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好きだから。  作者: ぽんこつ


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28/39

はい。初デートです。漂う想い。

そんなに長い時間、泣いていた訳じゃないと思う。

手鏡に映し出された真っ赤な瞳の女の子。

目の下は落ちたマスカラでクマの様になって。

黒い点々が涙のあとのように残っている。

私はお母さんにメッセージを送る。

「今、駅なんだけど、ちょっと汗かいたからお風呂沸かしといて」

『わかった。楽しかったのかな?』

「うん、ちょっと歩き疲れたかも」

『ご飯は食べてないんでしょ?』

「うん。でも、先にお風呂かな」

壁に手をついて立ち上がり、スマホをバッグにしまう。

唇に残る感触。

もう一度、指先で触れる。

キスしたら嬉しいと思ってた。

幸せだと思ってた。

なのに、どうして胸がぎゅってなって、苦しいの。

想いが溢れただけなのに。

あんなに楽しかったから。

蓮くんと初めて二人だけの時間を過ごせて。

満足できてたはずなのに。

一緒にいたい。

離れたくない。

だから……

帰り道そんな堂々巡りをしていても、ちゃんと家には着いていた。

玄関の前で。

目を閉じて。

スマイル。

オーケー。

ドアノブに手を掛けた。

「ただいま」

「お帰り、お風呂沸いてるわよ。ご飯作ってるから、早く入っちゃって」

キッチンからお母さんが声を張り上げた。

「はーい」

そそくさと二階の部屋に駆け込んで、着替えを持ってお風呂場に向かった。


シャワーを浴びて、メイクも、髪型もリセットしたら。

なんか、今日のことすべてを洗い流しているような気にさえなる。

温かい湯船に浸かって、今日という日を心に刻む。

蓮くん……

どう思ってるのかな。

しなきゃよかったかな。

嫌いになっちゃったかな。

手をつながないどこの騒ぎじゃないもんね。

――キスって。

肩を抱いて、顎まで浸す。

ずっと抑えてた想いだもん。

だって好きだから。

蓮くんだって、きっと私のこと好きだから。

キスはダメって言われてないけど……

鼻をすすって天井を見上げた。

湯気がぼんやり漂っている。

その白さの中に、水槽を泳ぐクラゲや、アリーナを舞うイルカ。

そして、あの電車の窓に映った二人の姿が、ゆっくりと浮かんでは消えた。

どうしよう。

何てメッセージ送ろう。

送った方がいいよね。

麻耶に相談しようかな。


お母さんは、私の顔を見るなりにやっと笑っただけで、デートのことはなにも聞いてこなかった。

夕食を済ませて、部屋に戻ると、スマホとクラゲのぬいぐるみとベッドに潜り込んだ。

虎の巻を書く気力も出ない。

ふにふにクラゲの手触りが心を宥めてくれる。

そっと枕元に置いて、スマホの画面を見た。

『デートどうだった?』

麻耶からメッセージが入っていた。

ピコン。

あっ。

蓮くんから。

咄嗟にスマホを胸に抱えた。

ばくばくしだす心臓。

そーっと、顔の前に画面を持ってくる。

タイミング悪く暗転する。

うっ……

画面をタップ。

『ちゃんと家着いたか? 今日はありがとう。楽しかった』

文字を読むとき息をするのを忘れてた。

キスのこと。

怒られなかった。

心配してくれてる。

楽しかったって。 

唇が震えて、涙が流れて耳に入った。

震える指で返信を打つ。

「うん。家にいるよ。蓮くんもちゃんと家にいるの? 私こそ楽しかった。本当だよ。ありがとう」

すぐに既読が付いた。

今この瞬間。

画面の向こうで、蓮くんもスマホを見てるんだ。

ピコン。

『家にいる。じゃあまたな、おやすみ。さっき言いそびれたから』

「うん。おやすみなさい」

良かった。

良かった……

おやすみの文字を見つめながら、耳にたまった涙を指で拭う。

滅多に蓮くんからメッセージ来ないのに。

わざわざ送ってきてくれた。

そう思ったら急にキスしたことが。

恥ずかしさと嬉しさに変換されていた。

指先で触れた唇。

蓮くんのほっぺたの感触がよみがえる。

ぽっと火照る頬。

クラゲを抱えて、横を向いて丸くなる。

今日は初めてのキスの日。

間接キスとほっぺにキスと。

ダメだよ私。

蓮くんのことも考えないと。

スマホを取って、蓮くんの写真を映し出す。

そう。

寂しそうな顔してた。

きっと同じ想いだったのかな。

もっともっと知って。

今よりもっと好きになって。

その時は……


挿絵(By みてみん)

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。

*風景写真は作者が撮影したものです。

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― 新着の感想 ―
デートの章、圧巻でした! 結衣ちゃんが乗り移ったのを確かに感じます。 蓮くんが結衣ちゃんに素直になっていく様が良きです。 ほっぺにキスは心配になったけれど、蓮くんがショックを受けないでよかった〜。 ま…
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