はい。初デートです。漂う想い。
そんなに長い時間、泣いていた訳じゃないと思う。
手鏡に映し出された真っ赤な瞳の女の子。
目の下は落ちたマスカラでクマの様になって。
黒い点々が涙のあとのように残っている。
私はお母さんにメッセージを送る。
「今、駅なんだけど、ちょっと汗かいたからお風呂沸かしといて」
『わかった。楽しかったのかな?』
「うん、ちょっと歩き疲れたかも」
『ご飯は食べてないんでしょ?』
「うん。でも、先にお風呂かな」
壁に手をついて立ち上がり、スマホをバッグにしまう。
唇に残る感触。
もう一度、指先で触れる。
キスしたら嬉しいと思ってた。
幸せだと思ってた。
なのに、どうして胸がぎゅってなって、苦しいの。
想いが溢れただけなのに。
あんなに楽しかったから。
蓮くんと初めて二人だけの時間を過ごせて。
満足できてたはずなのに。
一緒にいたい。
離れたくない。
だから……
帰り道そんな堂々巡りをしていても、ちゃんと家には着いていた。
玄関の前で。
目を閉じて。
スマイル。
オーケー。
ドアノブに手を掛けた。
「ただいま」
「お帰り、お風呂沸いてるわよ。ご飯作ってるから、早く入っちゃって」
キッチンからお母さんが声を張り上げた。
「はーい」
そそくさと二階の部屋に駆け込んで、着替えを持ってお風呂場に向かった。
シャワーを浴びて、メイクも、髪型もリセットしたら。
なんか、今日のことすべてを洗い流しているような気にさえなる。
温かい湯船に浸かって、今日という日を心に刻む。
蓮くん……
どう思ってるのかな。
しなきゃよかったかな。
嫌いになっちゃったかな。
手をつながないどこの騒ぎじゃないもんね。
――キスって。
肩を抱いて、顎まで浸す。
ずっと抑えてた想いだもん。
だって好きだから。
蓮くんだって、きっと私のこと好きだから。
キスはダメって言われてないけど……
鼻をすすって天井を見上げた。
湯気がぼんやり漂っている。
その白さの中に、水槽を泳ぐクラゲや、アリーナを舞うイルカ。
そして、あの電車の窓に映った二人の姿が、ゆっくりと浮かんでは消えた。
どうしよう。
何てメッセージ送ろう。
送った方がいいよね。
麻耶に相談しようかな。
お母さんは、私の顔を見るなりにやっと笑っただけで、デートのことはなにも聞いてこなかった。
夕食を済ませて、部屋に戻ると、スマホとクラゲのぬいぐるみとベッドに潜り込んだ。
虎の巻を書く気力も出ない。
ふにふにクラゲの手触りが心を宥めてくれる。
そっと枕元に置いて、スマホの画面を見た。
『デートどうだった?』
麻耶からメッセージが入っていた。
ピコン。
あっ。
蓮くんから。
咄嗟にスマホを胸に抱えた。
ばくばくしだす心臓。
そーっと、顔の前に画面を持ってくる。
タイミング悪く暗転する。
うっ……
画面をタップ。
『ちゃんと家着いたか? 今日はありがとう。楽しかった』
文字を読むとき息をするのを忘れてた。
キスのこと。
怒られなかった。
心配してくれてる。
楽しかったって。
唇が震えて、涙が流れて耳に入った。
震える指で返信を打つ。
「うん。家にいるよ。蓮くんもちゃんと家にいるの? 私こそ楽しかった。本当だよ。ありがとう」
すぐに既読が付いた。
今この瞬間。
画面の向こうで、蓮くんもスマホを見てるんだ。
ピコン。
『家にいる。じゃあまたな、おやすみ。さっき言いそびれたから』
「うん。おやすみなさい」
良かった。
良かった……
おやすみの文字を見つめながら、耳にたまった涙を指で拭う。
滅多に蓮くんからメッセージ来ないのに。
わざわざ送ってきてくれた。
そう思ったら急にキスしたことが。
恥ずかしさと嬉しさに変換されていた。
指先で触れた唇。
蓮くんのほっぺたの感触がよみがえる。
ぽっと火照る頬。
クラゲを抱えて、横を向いて丸くなる。
今日は初めてのキスの日。
間接キスとほっぺにキスと。
ダメだよ私。
蓮くんのことも考えないと。
スマホを取って、蓮くんの写真を映し出す。
そう。
寂しそうな顔してた。
きっと同じ想いだったのかな。
もっともっと知って。
今よりもっと好きになって。
その時は……
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