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好きだから。  作者: ぽんこつ


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26/44

はい。初デートです。募る想い。

お手洗いで、メイクチェック。

チークのせいなのか、もうずっとそのままなのか。

ほんのり染まった頬を見てにやける。

リップを塗り直して。

スマイル、オッケー。

窓際の席に佇んでいる蓮くん。

またフリスクを食べているみたい。

余程スース―するのかお冷を飲んでいた。

私はバッグからスマホを取り出して――

ズームで蓮くんの横顔をパシャリ。

見つめた画面。

あれ?

何か寂しそうな顔。

遠くを見ている眼差し。

なんだろう?

私はスマホをしまって、蓮くんの待つテーブルに小走りで向かう。

「お待たせしました」

「じゃあ、行こうか」

お会計はもちろん割り勘。

でも結局、一人分の値段は同じだった。

「さっきパンフレット見たら、イルカショーがもうすぐあるから行ってみる?」

「はい」

レストランを出ると、少し強い風がひと吹きスカートを弄んで行った。

さっきの広場を抜けて水族館の建物の方へ。

イルカショー・アリーナという案内板の通りに進む。

お腹も心も満たされて。

ずっと蓮くんの顔を見てる。

ドン!

「わっ」

痛い……

「だ、大丈夫?」

「へへ……」

コンクリートの花壇に膝をぶつけた。

何でか知らないけど蓮くんが笑ってくれてるから。

痛みも吹き飛ぶ。

「気を付けなよ、でも何でそんなとこにぶつかった?」

「あ、へへ。ちょっと空見てた」

嘘ついちゃったけど。

また、蓮くんは笑ってくれた。


挿絵(By みてみん)



建物に併設されたアリーナ。

大きな半円形のプール。

スタジアムみたいな階段状の席が囲んでいる。

「どこで見る? 近くのがいいのかな? この辺のが全体が見れて見やすそうだけど」

蓮くんと一緒ならどこでもいいよって。

言いたい。

けど言えない。

「下の方濡れそうだよね。この辺にする?」

並んで座ると、どことなく修学旅行みたいな空気になって、それが少しおかしくて。

嬉しくて。

前のほうの席では、小さな子がはしゃいでる。

水が飛んでもいいようにカッパを着て、親子で笑ってた。

私はスマホを握ったまま、時々、となりの蓮くんをちらっと見た。

「こういうの見たことないな」

「うん、私も初めて」

一緒に初めてのことが嬉しいよ。

一緒に写真は撮れないし。

手も繋げないけど。

それ以上にいっぱい話せてるし。

触れちゃったし。

言葉じゃなくてもかわいいって。

思ってくれたし。

もしかしたらお世辞かもしれないけど。

そんなことは良くて。

あの時うなずいてくれたから。

今日は幸せいっぱい見つけたよ。

初めてのデートで間接キスも。

また、一人で沸騰している。

でもでも。

妄想大魔王がこんにちは。

ねえねえ、今日キスしちゃうの?

え……?

無理死んじゃうよ。

でも、想像以上にいい雰囲気じゃない。

手握ってみたら?

無理死んじゃうよ。

それに約束だから。

嫌われたくないもん。

「イルカの名前は、トビオとハナコだって」

「トビオ?」

「なんかすっごく高く飛べるみたいだよ」

「そのままだ」

何でもない会話が楽しいね。

しかも、蓮くんからこんなに喋ってくれるなんて思っていなかった。


『こんにちは、みなさん、今日はスプラッシュ・グリーティングに参加してくれてありがとう……』

軽妙な声がアリーナに響いて。

大音量の音楽が流れる。

どこから来たのか二匹のイルカが交差するように飛び跳ねた。

「うわ」

「おお」

蓮くんの横顔。

笑ってる。

ショーが始まると、音楽と水しぶきで、世界が一気に華やいだ。

イルカたちが空を飛ぶたび、客席から拍手がわく。

私は──

拍手より先に、蓮くんを見てしまう。

手を叩きながら、ちょっとだけ笑ってた。

目元が、やわらかかった。

風が吹いて、前髪が揺れた。

──こんなふうに笑えるなら、ほんとは、ずっと笑っててほしいのに。

「すごいね」

ショーの終わりが近づいたとき、ぽつりと私が言うと、蓮くんがこっちを向いた。

「おまえ、あっち側にいそう」

「え、イルカのほう?」

「うん。飛びそう」

「……それ、バカにしてる?」

「いや、ほめてる」

その言葉に、ふっと笑ってしまった。

こんなふうに、話して、笑って。

もっとずっと、この時間が続けばいいのに。

しかもまた、おまえだって。

名前でも呼んでもいいよって。

言いたいけど、言えなくて。

自然にそう呼んでくれてるだけで。

心の中は春一番がずっと吹いてるから。

「おまえ、チアで運動神経いいだろ。あの輪っかとかくぐれそう」

「でも水の中からは飛べないよ」

「ああ、そうか」

「蓮くんだって、足早いからハヤオって名前でかけっこしたら」

「ハヤオってまんまだろ」

「じゃあ、私はトビコ」

笑いが弾ける。

言っちゃった。

どさくさに紛れて。

気がついたのかな?

気づいてないのかな?

蓮くん。

楽しいね。

笑顔の蓮くん。

時間よ止まれって思うけど。

楽しい瞬間、瞬間が、あっという間に過ぎていく。

もう一度、魔法をかけて朝に巻き戻して、一緒にいたいな。


三匹のアザラシが両手を叩いて。

拍手をおねだりする。

プールに飛び込んで。

優雅に泳いで輪をくぐる。

そこにイルカ達もやってきて。

大きな飛沫を上げながら歓声と拍手が巻き起こる。

最後はイルカが大きなジャンプをしてくす玉を割った。

中から垂れ幕が出てきて、

『見てくれてありがとう。トビオとハナコと仲間たち』

って書いてあった。

反響する歓声の中、私たちも拍手を送る。

少しひんやりとした空気が陽射しを傾けて。

ぼんやりと空が黄色くなってきた。

今日が終わる合図みたいで。

スッと寂しい風が吹いて蓮くんの顔を見た。

逆光になった蓮くんのまつ毛が、金色の光を吸い込んで透けている。

「思ったより面白かった」

蓮くんはボソッと呟いた。

「うん。イルカもアザラシもかわいかった」

「そうだな、生で見ると目とかがすごいきれいだった」

「色んなこと見てるんだね蓮くん」

ハッとした顔の蓮くん。

アッとした顔の私。

時が止まって。

蓮くんは、小さくため息をついて何も言わなかった。

そして少しだけ視線を上げて空を見つめていた。

名前で呼んだの気づいたのに怒られなかった。

蓮くんの瞳もきれいだよ。

優しい眼差しだった。

動物たちを見る目も。

私を見る目も。

私の視線はどう?

「トビコもそうだろ」

「え?」

空を見つめたたまま、頬が緩んだ蓮くん。

きゅってなって。

手からスマホを落としそうになった。

いつのまにか頭で鳴っている鼓動。

心にわいた言葉を何度も繰り返しながら。

震える指でスマホをバッグにしまう。

「トビコじゃない……もん」

言ったそばから。

喉が渇いて。

うつむいて。

スカートをぎゅっと握って。

目を閉じた。

いっぱい、いっぱい、いいことあるのに。

それ以上望まなくてもいいのに。

怒られちゃうかな。

ふーって、大きなため息が聞こえて。

「俺そういうの慣れてなくて、どう返したらいいか分からない正直。ごめんな」

語りかけるような言い回し。

「え? ううん。トビコでもいい。ごめんなさい」

「じゃあ、俺はハヤオだな」

ゆっくり、顔がほころんで、笑いあった。

髪も瞳も唇も柔らかな光を帯びてきれいだった。


少し気持ちが浮ついて。

ううん。

ずっと浮ついているんだけど。

ピョンピョン飛び跳ねるように歩いていたら。

「やっぱり、お前ショーできそう」

「じゃあ、蓮くんあそこの木まで競争」

私は駆け出した。

フライングして。

全速力。

私だって女子の中では早い方だから。

ショルダーバッグを抱えながら。

足音が近づいてきて――

あっという間に抜かれた。

蓮くんは木をタッチして振り向いた。

肩で息をしながら私を迎え入れた。

胸に手を添えて、私は息を整える。

「勝てると思ったのに」

「いや、でもお前も早かった」

声に出して笑い合う。

でも、かっこよかったよ。

蓮くんは、わしゃわしゃって無造作に手で髪を払う。

その仕草ひとつも。

心に焼き付いて。

知ってる?

蓮くん?

もうあなたに染まってるんです。


帰り際に入ったお土産ショップ。

私は手のひらサイズのクラゲのぬいぐるみに目を止めた。


挿絵(By みてみん)


水色で、やわらかくて、触るとふにふにしてて──

……なんだろう、これ、今の気持ちに似てる。

「それ、欲しいの?」

蓮くんがふいに声をかけてきた。

「えっ!? あ、いや、かわいいなって思っただけで……」

「ふーん」

蓮くんが見てたのは、たぶんぬいぐるみじゃなくて、私の顔。

それに気づいたとき、呼吸がちょっとだけ苦しくなった。

かわいいなって、見てくれてるのかな?

蓮くんがトイレに行った隙。

私は、こっそりクラゲをお買い上げ。

やっぱり、証が欲しくて。

今日、ここに来たっていう。

はしゃぎつかれた訳じゃないけど。

徐々に会話が減っていった。

今日が終わっちゃうのが寂しくて。

とても、とても、楽しかったから。

バイバイするまで笑顔でいたいのに。

どうしようもなく寂しくなるの。

きっと、思った以上に楽しかったから。

いやだな。

これから楽しい日をたくさん作ればいいのに。

もっと、もっと、一緒にいたいよ。

蓮くんの背中に向かって、

「好きだよ」

声にならない声で囁いた。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。

*風景写真は作者が撮影したものです。

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