はい。初デートです。満悦です。
ペンギンエリアから続く道を歩いていたら大きな広場に出た。
爽やかな風の中に、うっすら海の匂いがした。
蓮くんの半歩後ろを歩いて。
ミラーでチェック。
前髪大丈夫。
チークで赤いのかはもう判別できない。
リップもつやつや。
よし。
ちょこちょこ隣に並ぶ。
「お、美男美女の初々しいカップル発見」
広場に景気のいい声がスピーカーから響き渡る。
何かイベントでもあるのかな?
辺りを見ても――
お客さん達で賑わってるだけ。
「おやおや気がついていませんね、そこのきょろきょろしている彼女」
ん?
周りのお客さんが私たちを見ている。
蓮くんも気づいたみたいで、私を見る。
首を傾げる私に、蓮くんも同じように首を傾げた。
「いいね、青春って感じかな。見つめ合って首を傾げる」
え?
「あ?」
建物に備え付けられているスクリーンに私たちが映し出されている。
私が指をさす。
画面を見つめる蓮くんと私が映し出された。
「君たち高校生かな?」
アップになった私がコクリと頷く。
「今日はデートだよね。楽しんでる?」
「はい」
あ、声に出しても分からないのに返事をした。
「彼氏さん、彼女さんかわいいでしょ?」
アップになった蓮くんは目を伏せて――
頷いた。
ぽっと。
赤くなる私。
また。
直接言われた訳じゃないけど。
頭の中で心臓がサイレンのようにうるさい。
「あらら、彼女さん照れちゃってるのかな、彼女さん、彼氏さんかっこいいね」
「はい」
思わず顔を上げた、真っ赤な顔の私がアップになる。
「あんまり邪魔しちゃ悪いからね、今日のベストカップルでした。お幸せに~」
パチパチと周りにいたお客さんが拍手をしてくれてた。
パチンとスクリーンは広告に切り替わる。
立ちすくむ私たち。
風がスカートの裾と髪を優しく撫でていく。
くしゅくしゅして膝をこすり合わせる。
「あ、あ、お腹空かない?」
「ああ、そうだな」
「な、何がいいかな」
「あそこにレストランってある」
蓮くんが指さした先に展望レストランの案内がある。
「展望って何が見えるのかな?」
「海じゃない」
「行きたい。見てみたい」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
ぽかぽかした光が私たちを包んで。
斜めに伸びた影が跳ねていた。
展望レストランは、ガラス張りの窓から東京湾が見渡せた。
「窓際、空いてますか?」
蓮くんがそう言ってくれて、案内された席。
「うわ」
煌く水面。
遠くにかすんだ山が見える。
大きな船もいる。
私はバッグからスマホを出して。
この席の想い出を納めてみる。
景色が分かるように。
カシャ。
隣で蓮くんも撮っていた。
「ねえ、見せあいっこしよ?」
蓮くんは笑ってうなずいてくれた。
席に腰掛けて。
「先に注文しとこう」
「はい」
メニューは普通の洋食。
お魚みたから。
お魚はさすがに食べられない。
「烏丸くん、決まった?」
「いや、どーしようかなって迷ってる」
「お漬物以外何が好きなの?」
「ん? みかん」
かわいいし、面白くて笑ってしまう。
「ごめん、ご飯で。何か好きなものないの?」
「ああ、そうか。パスタは好きかな。エビフライとか。でもここでエビフライなんか食べにくい」
「あ、私も。お魚系はなんかね。ねえねえ、二人でさパスタ頼んで半分こしない?」
「え? ああ、面白いかも」
うひゃ。
乗ってくれた。
優しいな。
「じゃあ、俺ナポリタン」
「トマトだけど大丈夫なの?」
「ああ、生がダメなだけだから……ん?」
蓮くんは私を見つめて首を傾げていた。
「じゃあ、私はカルボナーラにする」
「飲み物は? 俺はアイスティー」
「私も。デザート食べてもいい?」
「ああ、俺も食べるわ」
「じゃあさ、じゃあさ、デザートも分け合いっこしようよ」
クスッと笑った蓮くん。
「分かった」
やばい。
楽しいよ。
楽しすぎるんだけど。
メニューを胸に抱く。
「俺はチーズケーキにする」
「あ、じゃあ、私はレアチーズケーキ」
蓮くんが呼び出しボタンを押して。
スタッフに注文してくれた。
もういい感じだよ。
バクバクはしてないけど。
もう、ほっぺが痛いくらい笑ってるの。
「じゃあ、写真見ようか」
「うん」
テーブルの中央にスマホを並べておく。
「うわ」
蓮くんの写真は海が主役で。
空は僅かに映ってるだけで。
シルエットの船が数隻。
光の海に浮かんでいた。
私のはちょうど空と海が半分くらい。
「どうして、空が少ないの?」
「ああ、やっぱりこのキラキラした海って、しょっちゅう見られるわけじゃないと思うんだ」
「ん?」
「天気は勿論だけど、時間や季節、太陽の角度によって変わるから。それに……」
「それに?」
「いや、橘のは正統派でいいと思う。中央で空と海が半分。ここから見た景色って分かる広がりも」
「え? すごい。どうして分かるの?」
「何んとなくというか、俺も写真を撮り始めた頃そうだったから」
「じゃあ、私も蓮くんみたいな写真が撮れるようになるかもしれないんだ」
「かもね」
そこにちょうど料理が運ばれてきた。
美味しそうな湯気と匂いを引き連れて。
ご飯を食べるのに、髪を後ろでまとめる。
ポーチから取り出したヘアゴムを口に挟んで。
毛束をまとめて。
ヘアゴムを取った時。
視線を感じて顔を上げたら蓮くんと目が合った。
すぐに逸らされちゃったけど。
何だろう?
ヘアゴムで束ねた髪を留めて。
よし。
修学旅行の時に一緒にご飯食べたことあるけど。
今日は二人きり。
こころは一杯だけど、お腹は空いちゃった。
きっと、蓮くんのせい。
なんだぞ。
「いただきます」
フォークで巻き付けたパスタをパクリ。
「おいしい」
「ナポリタンも旨いよ」
蓮くんもずっと優しい顔。
なんか。
その顔だけでご飯が食べれる気がする。
お腹が空いてただけあって。
モグモグと食べられる。
「あ、烏丸くん、ここ」
私は自分の口の端を指で押さえる。
蓮くんの口にミートソースが付いてたから。
察知した蓮くんは、ティッシュで口を拭う。
そして、半分食べた所でお皿を交換。
これも間接キスになるのかな。
なんか今日一日で一年ぶんの鼓動を打ってるみたい。
心臓を忙しくしてるのは私のせい?
違うよね。
蓮くんだよね?
そんな、蓮くんはカルボナーラをパクリ。
「うん、旨い」
ナポリタンみたいなほっぺの私も口に運んで。
「おいしい……」
蓮くんの味はしないけど。
しちゃった。
間接キス。
だよね。
そして、デザートでも。
ケーキよりも甘い気分になるのは私だけなのかな。
夢じゃないよねって、腿をつねったら思いのほか力が入って痛くてビクッとなる。
そうだ。
「あ、フリスクあるよ。食べる?」
修学旅行の時、蓮くんは食後にフリスクを食べていた。
「え?」
目をまんまるにしてる蓮くん。
「ご飯の後食べてたでしょ? あげる」
私は前かがみになって、フリスクを持った手を伸ばした。
「あ、ああ」
蓮くんの手のひらに、ケースをカシャカシャと振って――
あっ。
いっぱいでちゃった。
「ごめん……」
声に出して笑う蓮くん。
つられて私も。
「ありがとう。でもさすがに全部はあれだから、半分食べてよ」
「あ、うん」
私はフリスクをバッグにしまって、両手を差し出した。
蓮くんは一粒、一粒、私の手に置いた行く。
白い粒が手のひらで転がってちょっとくすぐったい。
五つずつ。
ちょっとだけ見つめ合っちゃって。
蓮くんはぱくりと口に運んだ。
私も。
口の中にスーッと広がって鼻から抜ける。
さすがに目に染みてパチパチしたら。
蓮くんもしていて。
慌ててお冷を飲んでいるのがかわいくて。
もう、首ったけだよ。
蓮くん。
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