はい。初デートです。出発進行。
水族館までは電車で約一時間。
空いている席に並んで座る。
肩が触れそうな距離。
エンジン音と共に電車がゆっくり動き出して。
その瞬間に体が揺れて肩が蓮くんにぶつかって。
その肩をそっと撫でて、蓮くんを見た。
何もないような顔。
あれ?
「烏丸くん、カメラ持って来なかったの?」
「ん? ああ、今日はスマホで撮る」
「ふーん。スマホでも撮ったりするんだ」
「まあ。手軽に撮れるから」
目をこすった蓮くん。
「どうしたの? 寝れてないの?」
「ん? いや大丈夫」
「もし、あれだったら寝ててもいいよ。私起きてるし起こしてあげるから」
「大丈夫」
そう言ったそばから欠伸をする蓮くん。
かわいい。
私の視線に気がついて苦笑い。
かわいい。
「ん? どうした?」
「あ、へ、あ、いいよ寝ても」
「そうか、でも……」
でも、なんだろう。
でも、本当は寝て欲しくない。
お喋りしたい。
でも、デート楽しみたいから、今のうちに寝てくれた方がいいかなとか。
でも、寝れてないってことは、今日楽しみにしてくれていたのかなとか。
色んなこと考えちゃうけど。
「いいよ寝ても。その代わり、水族館着いたら寝ないでね」
ふって笑った蓮くん。
なんか、ホッとしたような感じだった。
「じゃあ、悪い、ちょっと寝る」
「うん、いいよ」
蓮くんは腕を組んで、うつむいて目を閉じた。
まつ毛長いな。
しっかりした鼻と。
寡黙な唇。
ずっと見てられる横顔。
まだ、電車に乗ってるだけなのに。
いつもの電車なのに。
窓から見る景色も特別な空間。
朝の光が優しく車内に立ち込めて。
ぼんやりした車内。
微笑みかける広告さえ応援してくれているよう。
車窓がゆっくりになって。
電車が駅に着いて。
ドアが開いて。
エンジンが鳴って走り出す。
え?
蓮くんが寄りかかってきた。
ドキンって何処かが音がした。
というか。
私の肩に頭があるんだけど。
ずっしりと、でも嬉しい重さが伝わって。
爽やかな香りがして。
すー、すー。
息遣いも聞こえるよ。
これ動いちゃだめだよね。
蓮くんのお家の匂いがする。
あっ。
蓮くんの手。
息を呑んで指先を伸ばす。
そーっと。
そーっと。
あったかい。
すぐに手を引っ込める。
へへ。
触っちゃった。
膝の上で、その指を包む。
ちょっと首傾げて――
蓮くんの頭とごっつんこ。
全身の毛穴が開いたみたいにびりびりする。
そっと目を閉じて。
蓮くんの呼吸に自分の呼吸を重ねてみる。
空気を読めない心臓だけが。
バクバクしてて。
熱くもないのに手に汗が滲んできて。
このままずっといられたらいいのにって思って。
蓮くん。
好きだよ。
「結衣……結衣起きて……」
遠くで誰かが呼んでいる?
あ? 蓮くん?
「う、うん?」
目を開けて蓮くんを見ると、優しい微笑みを浮かべていた。
「もう、着くよ」
「え? あ、ごめんなさい私が寝っちゃったんだ」
「大丈夫? 緊張して寝れなかったの?」
「え? いや、そんなことないけど」
「そっか、俺は寝れなかった緊張して」
「実は、私もなんだ」
「もう、素直じゃないな俺たち」
「あっ」
膝の上にある私の手に、蓮くんの手が重ねられた。
あったかくて、大きい手。
「結衣、好きだよ……」
その言葉が頭の中で響き渡る。
「私も好きだよ。蓮くん……」
ハッとして目を覚ます。
蓮くんは眠ったまま。
夢か……
『まもなく、海浜公園。海浜公園です』
あぶない。
寝過ごしちゃうところだった。
蓮くんのパーカーの袖をつまんで。
「蓮くん……烏丸くん、着くよ」
「ん? ん?」
ゆっくり瞼が上がって。
ハッとして体を起こした蓮くん。
「悪い……」
「ううん。よく寝れた?」
「あ、ああ」
「水族館楽しみだね」
蓮くんの口角が少し上がった。
「ああ」
「イルカとアザラシのショーあるんだって」
「ふーん」
「ペンギンに餌やりも出来るんだって」
「ふーん」
電車のスピードが落ちて。
ホームに滑り込む。
バクバクしたままの心臓。
私はゆっくり立ち上がる。
「行こ」
蓮くんに向かって微笑んだ。
ブレーキがかかって。
うわ。
よろめいた私をいつの間にか立ち上がった蓮くんが受け止めてくれた。
横向きで蓮くんにくっついている私。
蓮くんの鼓動が聞こえて。
全身が赤くなって。
息が出来なくて。
心臓の音が遠くて。
もう溶けてしまうかも。
「着いた、行こう」
「……はい」
まだ始まったばかりなのに。
私生きて帰れるのかな。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
感想やご意見ありましたら、お気軽にコメントしてください。
また、どこかいいなと感じて頂けたら評価をポチッと押して頂けると、励みになり幸いです。
*人物画像は作者がAIで作成したものです。
*風景写真は作者が撮影したものです。
*両方とも無断転載しないでネ!




