はい。初デートです。参ります。
ふふふ。
ふふふ。
にやにやとドキドキが同居した心と頭の中。
昨日も何回も確認した天気予報。
朝起きて確認して、カーテン開けて見た朝焼けがきれいだった。
まるで私のために夜が明けていくみたいで。
少しずつ呼吸していく空を眺めていた。
朝食の時、お父さんも、お母さんも、私の気持ち悪いくらいのご機嫌さに気づいていたのか。
やけに笑ってた。
とうとうこの日がやってきた。
待ちに待った。
蓮くんと初デート。
春休み会えなかったし。
蓮くんに水族館で一緒に写真撮りに行かないか聞いてみたの。
最初は渋っていたけど。
会うたびに。
メッセージを送る度に。
伝えてみたら。
どんな風に私が写真を撮っているか見てみたいって。
そして――
今日がその日。
うひゃ。
デートって書いたスマホのスケジュールアプリ。
その文字を見るだけでときめける私。
目覚ましは6時にセットしてたけど、緊張で5時に起床。
いや、起床というより覚醒。
脳が勝手に「戦闘開始」って言った。
ほんとに今日なの?
夢じゃない?
夢じゃなかったらもう無理なんて。
時間が迫ってくるにつれ。
ドキドキ大魔王が居座ってる。
鏡の前で深呼吸3回。
「落ち着け私。いつもの自分で。いつもの──って何着ていくんだっけ?」
今日まで色々妄想して、準備していた好きな服。
今見るとなんかしっくりこない。
クローゼットを開けて、手当たり次第に服を取り出す。
こうしてみると、どれもデート向きじゃない顔してる。
それもそのはず。
着やすさ重視だから仕方ない。
襟元にリボンの付いた白のブラウス。
可愛いけど学校感が強いし。
黒地の花柄ワンピ。
気合入れすぎって、思われるよね。
デニムスカート。
キュロットスカート。
トレーナーにカットソー。
とっかえひっかえ、一人ランウェイ状態。
悩みに悩んだ挙句。
準備していた好きな服に落ち着く。
マルチボーダーカラーのリブニット。
チャコールグレーのプリーツミニスカート。
着てみると──
やっぱりいい感じ。
鏡の前で2回ターン。
「痛いっ!」
3回目は勢い余ってちょっと転ぶ。
膝をテーブルの角にぶつける。
よし。
服が決まったら、髪をセットする。
テーブルの前に鏡を置いて。
髪はアップにしようと思ったけど、ゆるく巻いてみた。
お父さん、お母さんのアドバイス。
まったくしたことない髪型で。
男子的にはビックリする。
女子的にはテンションが上がる。
右を巻いて左も巻いて。
気づいたらコテを5往復。
熱で思考もとろけそう。
なんか少し大人っぽく見えるかな?
毛先を摘まんで一笑い。
サイドにちょっこりヘアピンつけて。
鏡に向かって微笑みかけた。
お次はメイク。
いつもより気合いが入る。
色々調べて試したもん。
練習したもん。
ビューラーでまつ毛とテンションも上げて。
ぱっちりな瞳になったかな。
マスカラは自然な感じに、でもちょっと長めに。
チークは薄めに、ミルキーピンク。
リップはツヤあり桜色。
上下左右。
あらゆるアングルから見直す。
どうか、今日の私が、かわいいって思われますように。
って祈るように仕上げた。
どうかな。
かわいいって想ってくれるかな。
立ち鏡の前で最終確認。
お母さんにも最終確認。
「いいじゃない。かわいいわよ」
って言ってくれたけど。
最初の『かわいい』は蓮くんが良かったと思ってしまった。
ショルダーバッグをかけて。
キャメルのスニーカーを履いて。
「行ってきます」
「忘れものない? 遅くならないように、気をつけて。頑張れ。楽しんでおいで」
って、お母さんの後押しを受けて玄関の扉を開けた。
外に出ると、すこし風が強くて。
風でスカートがふわっとした瞬間、全身がガチガチに緊張する。
「ちょっと待って、駅前まで私、生きて行けるかな……」
スマホで時間を確認。
待ち合わせの10分前。
駅までは歩いて15分かからない距離。
早すぎると気合い入りすぎって思われるし。
遅れたら論外。
じゃあ何分が正解なの?
迷いながらも、駅に向かう足取りはなぜか小走り。
脳内では、もしも蓮くんが先に着いてて、私を見つけて微笑んでくれたら。
の妄想が再生されまくってる。
「お待たせ、待った?」
「いや、全然、その結衣、かわいいな」
「えへ、そうかな」
……
見慣れた駅前のロータリーが近づいてきて。
私は一度立ち止まり、バッグの中を確認。
お財布、ハンドタオル、ポーチ、ミラー、フリスク──
全部OK。
深呼吸、3回目。
橘結衣、行きます。
その瞬間、風が吹いて、髪がふわっと舞った。
ぽかぽかと、お日様の匂いを運んで。
行ってらっしゃいって。
背中を押してくれた気がした。
駅前の広場に差しかかった時、私はもう5回深呼吸してた。
でも、ぜんっぜん心臓のバクバクは収まらない。
視界の中央。
ベンチのひとつに──
いた。
蓮くんだ。
紺色のパーカーに、黒いチノパン。
制服じゃない私服の蓮くん。
その事実だけで、膝がふるえて笑っている。
「……うそ、かっこいいんだけど」
思わず声に出そうになった。
いや、ちょっと出てたかもしれない。
でもそれどころじゃない。
今から、蓮くんの彼女として、隣を歩くんだよね?
せっかく塗ったチークが、本物の赤ら顔で分からなくなってるかも。
一歩。
また一歩。
足を進めながら。
顔が熱くて。
喉が渇いて。
バッグのベルトをぎゅうっと握りしめた。
あと5メートル。
あと3メートル……!
「おはよ」
声が、震えなかったのが奇跡。
私の声で、蓮くんが顔を上げる。
少しだけ、目を見開いて──
「……あ、おはよ」
ほんのちょっとだけ、口の端がゆるんだ。
たったそれだけの反応なのに、世界が一気に春満開になった気がした。
え、今この瞬間、BGMとか鳴ってない?
私だけ?
「ごめん、待った?」
「いや、今来たとこ」
絶対ウソ。
さっきからずっとそこにいたもん。
でも、そのウソがちょっとだけ嬉しい。
スッと立ち上がった蓮くん。
私たちは少しの沈黙のあと、ぎこちなく歩き出した。
隣に蓮くんがいる。
肩が近い。
呼吸が聞こえそうな距離。
気を抜くと笑ってしまいそうなくらい。
ううん。
もう笑ってる。
私を見て緩んだ口元と、小さなウソ。
もうこれだけで。
今から始まる時間が、まだ信じられないような夢みたいで、くすぐったい。
──さあ、デート開始。
私の恋の、最高の一日が、ついに始まった。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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