はじめ
薄っすら霞がかった空。
淡い光と風を浴びながら校門をくぐる。
高校最後の一年が始まった。
晴れて蓮くんの彼女の座を射止めたものの。
結局、春休みは会えずじまい。
メッセージも全てに返信がある訳ではなくて。
既読すらつかないという状態もざら。
返信率は.265。
野球好きの麻耶曰く。
「渋い」
らしい。
一流選手はの打率は.300を超えるんだって。
でも、その渋さがいいって。
「玄人好みだね」
なんて、よく分からない事を言っていた。
私、玄人になりたいわけじゃないんだけどな。
蓮くんも忙しいとは言っていたけど。
そんな特異な関係の中、悶々とした時間だけが過ぎて行った。
新学期といえば。
重大なイベント。
そうです。
クラス分けの発表です。
喜びやため息が吹き荒れる廊下の掲示板。
人の波に乗りながら、自分の名前を探す。
んー。
一組か。
麻耶も同じクラス。
彼氏の恭一くんも同じ。
よかったね麻耶。
横山くんも一緒。
!
!
心臓が、変な音を立てて跳ねて。
むせそうになる。
うそ。
『烏丸蓮』
二度見どころか、何度も確認する。
一組に、確かにその名がある。
奇跡が起きた。
その場で飛び跳ねそうなのを我慢して、階段を駆けあがり、三年生の教室へ。
校舎の突き当たり。
一番奥が一組の教室。
まさかの蓮くんと同じクラス。
意気揚々と教室に足を踏み入れる。
黒板に張り出された座席表。
私の席は窓際の一番後ろ。
蓮くんは同じ列の二つ前。
すごい。
もう神様が私に好きなだけ観察しろって言ってくれてるようなもの。
ニヤニヤしながら椅子に身体を預ける。
まだ、蓮くんは来ていないけどそこに座っている姿を妄想するだけで。
少しお腹一杯な感じ。
「結衣、おはよう」
「ああ、麻耶、おはよう」
「結局私たち三年間同じクラスってすごくない」
「うん。それに恭一くんも同じクラスで良かったね」
麻耶は少し頬を赤らめて、肩をすくめた。
「そういう、結衣だって」
二人で見つめ合って笑う。
キーンコーン、カーンコーン。
あれ?
チャイムが鳴っても蓮くんは姿を見せず。
担任の山崎先生から「烏丸と立川は風邪で休み」と話があった。
出だしが良いのか悪いのか。
蓮くん大丈夫かな。
風邪で休み。
──それだけのことなのに、なぜか不安になった。
既読のつかないメッセージや春休みの空白。
そして、今もまた“いない”という事実。
こんなに好きなのに、私はまだ蓮くんのことを何も知らない気がした。
頬杖をついて、ため息一つ。
ピコン。
通知音。
ポケットからこっそり出して。
机と体の間にスマホを隠して画面を確認。
『ごめん、風邪ひいた』
初。
蓮くんからの初メッセージ。
私は視線だけ動かして周りを確認。
にやけながら、手早く返信を打つ。
「大丈夫? 心配した。風邪なんか私が治してあげる!」
「おまじない発動! ちちんぷいぷい!」
「早く元気になってね!」
返信は来ないけど、既読はついた。
「おい! 橘」
「はい」
先生に呼ばれて立ち上がった瞬間、スマホを落とす。
「スマホはホームルーム中も使用禁止だぞ」
「はい」
「まあ、今日は始業式だけだから大目に見るが、以後気を付けるように」
「はい」
ストンと座席に腰掛けて。
屈んでスマホを拾い上げ、ポケットに滑り込ませた。
「はあ……」
誰も座っていない、二つ前の椅子。
視線を窓の外に移す。
校庭は春の風の乗った砂ぼこりが巻き上がっていた。
霞んだ空には、一筋の白い線を引き連れた飛行機。
その機体を輝かせながら、知らないどこかへと向かって飛んでいた。
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*人物画像は作者がAIで作成したものです。
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