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好きだから。  作者: ぽんこつ


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奇襲作戦


どうしても手に入れられない情報。

蓮くんの電話番号と誕生日。

諜報部員で蓮くんの親友の横山くん。

知っているはずなのに、さすがに教えてくれない。

本人に聞いても、無視される。

でも、こないだ朝の通学路で撮った写真を見せたら、

「すごくいい」

って褒めてくれた。

電線に止まっている二匹のすずめがくっついていて。

ちょうど陽射しが差し込んでいて。

蓮くんは光の加減が良い、構図もいいって。

日常の一瞬で、よく撮れてるって。

そんなこと考えて撮った訳じゃなかったんだけど。

ただ、かわいいなって思って。

ピーンポーン。

改札の音が聞こえる。

ガタンガタン……

電車が駅に着いたみたい。

私は駅の改札広場の柱にもたれかかって蓮くんが来るのを待っている。


挿絵(By みてみん)


待ち合わせじゃなくて。

待ち伏せだけど。

胸に抱えた小さな紙袋。

その中には、手作りの”愛情”が入っている。

明日はバレンタイン。

土曜日だから学校休みで会えないし。

今日渡そうと思って。

なんか、学校じゃない方が、特別感があっていいかなって。

横山くんの情報だと今日は部活ないって言っていたから。

そろそろ来てもいいんだけどな。

通学路の方を気にしているんだけど。

未だに現れない。

ここは駅の反対側に通り抜けできるから、時折冷たい風が吹き込んでくる。

コートのポケットに片手を突っ込んでカイロで温める。

うーん。

遅いな、蓮くん。

こんな事なら学校で渡せばよかったかな。

口を尖らせきょろきょろ。

仲良さそうに手を繋いで歩くカップルを見ては、いつか蓮くんとって。

妄想が始まってにやけだす。

ガタンガタン……

また電車が着いたみたい。

「ふー」

白いため息が空気に滲んだ先。


ん?

改札を抜けて行く蓮くん。

いつのまに!

私は駆け出して後を追う。

パスケースをタッチして――

バタン。

自動改札が閉まる。

あれ?

あっ。

パスケースじゃなかった。

握りしめていたカイロだった。

後ろの人に頭を下げて、ポケットから出したパスケースをかざす。

ピッ。

改札が開いて、蓮くんを探す。

もう階段を上りきっていた。

ちょっと、待って。

階段をトントントンと駆けあがって。

息を整えながら辺りを見回して。

いつものように蓮くんはホームの端っこにいた。

胸に手を当てて。

橘結衣、参ります。


大きく息を吐いて。

少し早足で蓮くんの元へ。

紙袋は後ろ手に持って隠す。

気配に気づいた蓮くんはこっちを見る。

「なに?」

「あ、あのねこないだ写真褒めてくれて嬉しかった」

「ああ、あれはいい写真だと思う」

「それとね……」

私はそっと紙袋を差し出した。

「これ良かったら食べてみて」

蓮くんは眉間にしわを寄せる。

「あ? いらない」

「え? あ、いや、頑張って作ったんだ……」

「そう」

蓮くんはそっぽを向く。

「ああ、あのバレンタインとかじゃなくて、そのお礼というかなんというか」

何を言ってるんだろ。

「俺、チョコきらいなんだよね」

「え? そうだったの?」

「ああ、甘いのは嫌いじゃないけど」

「そうなんだ」

私は嬉しくて笑う。


「蓮くん、これチョコじゃないよ」

「ん?」

「へへ。これね浅漬けなんだ。だから良かったら……」

蓮くんの眉がぴくっと動いた。

「ふーん。そう」

「遠慮しないで、お返しとかいいから……その代わり感想聞かせて欲しい」

「ふっ」

鼻で笑う蓮くん。

私は首を傾げる。

「もう俺が受け取る前提のような言い方だな」

「あ、え、いらないの……」

「いや……本当にお返し無しでいいのなら」

「うん!いいよ。どうぞ」

両手を伸ばして紙袋を押し出した。

蓮くんは、その持ち手を掴んでくれた。

嬉しくて笑っている私。

「カブとねきゅうりなの」

「ふーん」

『まもなく1番線に電車が参ります……』

「タッパはあげるから、100均のだから」

蓮くんはカバンを小脇に挟んで、紙袋の中に片手を突っ込んだ。

そして、きゅうりを一つ摘まみだして、口に運んだ。

え? 

今食べるの?

ぽりぽり。

いい音がして。

少し口の端が上がった。

気がした。


ガタンガタン――

電車がホームに入ってきて。

風が髪をさらって。

「……」

ん?

蓮くんが何か言ったような。

「え?」

私は聞き取れなくて。

蓮くんの顔を覗き込んだ。

風が緩んで、電車が止まる。

シュッとドアが開いて、人が降りてくる。

邪魔にならないように蓮くんの陰に隠れて。

電車に乗り込む蓮くん。

そのあとをちょろちょろとついて行く。

温かい車内の空気が私を包む。

蓮くんは反対側の窓際に寄りかかった。

「あ、あの。さっきなんか言ったよね?」

おそるおそる上目遣いに聞いてみる。

「ん?」

蓮くんは私を見て窓の外に目をやった。


ドアが閉まって。

うぃーんとエンジンの音がして。

ゆっくりと電車が走り出して。

少しよろけてしまった私の腕を蓮くんの手がグッと掴んでくれた。

きゅんって。

一気にメーターが振り切れて髪の毛の先まで赤くなる。

「あ、あ、ありがとう」

蓮くんの手が離れて。

傍の手すりにつかまった。

その冷たさがちょうどいいくらい。

「漬物、旨い、ありがとう」

途切れ途切れの言葉だけど。

もう、舞い上がってしまいそう。

きっと、湯気が頭から出ていたと思う。

「あ、ありがとう、その蓮くん、私……」

「ごめん、そういう話なら出来ない」

「あ……」

いや違くて。

違くもないんだけど。

タッパ―の下にラブレター忍ばせたの。

それを言おうと思ったんだけど。

ダメなのかな。

きっと。

でも、私が作ったお漬物美味しって言ってくれたから。

お母さんに教えてもらった、おばあちゃん直伝のお漬物。

私の大好きなものを。

蓮くんは窓の外をずっと見ている。

傾いた夕陽がその顔を、私みたいに赤く染めていた。


挿絵(By みてみん)


私の顔の赤さも、この夕陽のせいにできたらいいのに。

蓮くんのが見つめる世界に、いつか私が映る日がきますように。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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*人物画像は作者がAIで作成したものです。

*風景写真は作者が撮影したものです。

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― 新着の感想 ―
本当に更新が楽しみなお話です。 なかなか手強い蓮くんだけれど、漬物を受け取ってくれて、おいしく食べてくれて良かったです。 間接キスといい、蓮くんが結衣ちゃんを好ましく思っている?と思える行動があるのに…
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