京都にて、まさか
かさかさ。
乾いた音を引き連れて転がる落ち葉。
さらさら。
二つの川が合流する地点。
ステレオのように左右から聞こえる水音。
午後のお寺巡りが終わって。
予定より時間が余ってしまったから、散歩がてらに来たこの場所。
あれから、あまり会話は出来なかった。
ポッケから取り出したリップを唇にひと塗り。
ザザザー。
髪が宙に舞って。
枝葉が揺れて。
落ち葉が転がる。
「さむ」
頬を切る冷たい風。
マフラーを鼻の頭まで持ち上げる。
身を屈めて足をもぞもぞ動かす。
目に染みるけど、視線は逸らせない。
手をこすり合わせて、はーっと息を吹きかける。
だって、視界にはカメラを構える蓮くんがいるから。
あのファインダー越しに見えている世界見てみたいな。
さっき見せてくれたけど。
同じ瞬間の景色。
そう思ってレンズの先を目で追う。
川辺で遊ぶ親子。
きらきらと水面が瞬いて宝石箱みたい。
蓮くんは周りを見ながらシャッターを切っている。
しゃがんだり。
数歩歩いたり。
色んな方向に、いろんな角度でカメラを向けている。
花や鳥、車、何を想ってシャッターを切っているんだろ。
聞いてみれば良かった。
ううん。
頑張って聞いてみるんだよ。
ん?
気がついたら。
他のみんなは少し離れた場所でそれぞれカップルになって。
ベンチに座ったり、川辺に座ったり、おしゃべりをしている。
蓮くんは――
まだ写真を撮っている。
話しかけたいけど。
でも、今この集中している時間の邪魔もしたくなくて。
蓮くんのリュックが置いてあるベンチにちょこんと腰掛けた。
少しだけ蓮くんと一緒に座ってる気分に。
髪をかき上げながら、カメラを構える蓮くん。
足を前後に開いて、少し前のめり。
バサバサ。
水しぶきを上げて鳥が水面から羽ばたいた。
その動きに合わせて、蓮くんのレンズも動く。
鳥は少し黄色味を帯びた午後の空を山の方へと飛んでいく。
カメラに視線を落とす蓮くんは、トコトコとこっちに向かって歩いてきた。
ひゃっとして。
突然、騒ぎ出す心臓と頭の中。
なんて声かけよう。
あれ、なんか聞いてみようって。
今思ってたのに。
出てこない。
スカートを握りしめる手に汗がわいてくる。
寒いはずなのに。
口が渇いて。
喉が張り付く感じがする。
「荷物ありがとう」
「え? あ、ううん」
蓮くんはリュックの中から、別のカバンを取り出した。
不可抗力?
荷物番をしていると思ってくれたみたい。
でも、二人なんだよ今この空間。
知らない人が見たら。
なんか。
恋人同士に見えるよね。
遠くから見たら。
そう思うと。
緊張してきて。
頑張れ私。
目を瞑って大きく息を吸う。
「ととっと、鳥撮ったの」
ビックリするぐらい裏返った声。
肩に力が入っている私
「あ、ああ」
上目遣いに隣の蓮くんをうかがう。
口の端が少し緩んだ気がした。
「う、うまく、撮れたの?」
私の声に、取り出したバッグから、違うレンズを取り出した手が止まって。
リュックを地面に置いた。
そっとベンチに腰かける蓮くん。
バクッ!
何かが破裂した。
と、と、と、なりに。
どーしよう。
チン。
レンジの中にいるみたい。
顔も体も熱い。
入ったことはないけど。
寒いはずなのに、汗かいてきてるんだけど。
うつむいている私の視界にカメラが入り込んできた。
ビクッとして。
背筋を伸ばして。
蓮くんを見てしまう。
蓮くんはこっちを向いてるけど、目はそらしたまま。
「これ、さっき、撮ったやつ」
「あ、あ、あ、うん」
私はカメラのディスプレイに視線を落とす。
「うわあ……! きれい……」
ほとばしる光の水面。
首を伸ばして羽を広げた瞬間。
まるで――
鳥が光の水の中から生まれたみたいだった。
蓮くんの指がボタンを押すと。
少しずつ、羽が動いて、川から飛び立つ姿が映し出されていた。
まるで私の落書きの蓮くんのパラパラまんがみたいで。
さっき私が見たものとは違くて、蓮くんが撮った写真は温かかった。
いつの間にか肩の力が抜けて。
手を胸の前で組んでいた。
「すごいね、蓮くん、すごいよ、きれいだった。見せてくれてありがとう」
「そっか。ありがとう。ただ」
「ん?」
「名前で呼ぶな」
「あ、はい。ごめんなさい……」
蓮くんはカメラのレンズを外して、違うレンズを取り付けた。
「あ、あの、どうやったらあんなに素敵な写真が撮れるの?」
「ん?」
「ああ、ごめんなさい」
だめだ、せっかく、せっかく……。
「素敵かどうかは、分からない。ただ、俺が残したいものを……そう、その瞬間を残したいから撮っている」
「残したい……瞬間……」
ハッとして頭に沸いた疑問。
ずっと聞きたかった。
どうして私を撮ってくれているのか。
私の瞬間を残したいってことなのかな。
蓮くんが撮っているのは私だけじゃいけど。
でも、どうして代表作として私を去年も今年も選んでくれたんだろ。
「もしかして、好きだから?」
頭の中で話していたことが、声に出ていた。
ハッとして両手で口を押さえて。
肩を寄せて縮こまる。
「確かにそうかもな、撮影した写真は全部。俺にとって……」
何か言いかけた気がしたけど。
「あの……」
鼻で笑う蓮くん。
「俺は好きじゃない」
「あ。え、うん。ごめんね……」
かさかさ。
落ち葉が靴に当たって。
「そうじゃなくて、そう言う訳じゃなくて、私をここで撮ってくれますか?」
自分でも何を言ってるのか分からなかった。
きゅうってスカートを握って。
うつむいた。
また振られたし。
好きって言ってもいないのに。
それに、何言ってるんだろ。
ぎゅっと目を瞑って。
唇を噛みしめた。
砂を踏む音がして、蓮くんが立ち上がった気配。
足音が少しずつ離れていく。
怒らせちゃった。
呆れられちゃった。
かな。
せっかく。
話せたのに……な。
「橘!」
?
蓮くん?
空耳?
「橘!」
うん。
確かに蓮くんの声。
ハッとして顔を上げる。
蓮くんがこっちに向けてカメラを構えていた。
カシャカシャ――
え?
ちょっと。
今、撮っちゃったの?
カメラを構える蓮くんの後ろで合流した川が光を放って。
まるで蓮くんに羽が生えたように見えた。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
感想やご意見ありましたら、お気軽にコメントしてください。
また、どこかいいなと感じて頂けたら評価をポチッと押して頂けると、励みになり幸いです。
*人物画像は作者がAIで作成したものです。
*風景写真は作者が撮影したものです。
*両方とも無断転載しないでネ!




