表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから。  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

京都にて、食べ歩く

坂道に連なるお店で、お漬物を買って。

食べ歩き。

麻耶は恭一くんと楽しそうに、

「あーん」

なんてやっている。

蓮くんに恋占いの相手のことを聞きたいけど。

聞ける訳ないでしょ。

いきなりする会話じゃないし。

でも気になるし。

前を歩く蓮くん。

歩幅を合わせてついて行く。

しゃきしゃきとしたカブのお漬物を口にしながら。

意外と癖になる美味しさ。

すっぱおいしい。

ドン!

「ひゃっ」

蓮くんが急に立ち止まって。

不可抗力で蓮くんに突撃していた私。

振り返った蓮くん。

「ご、ごめんね。こ、これ食べる?」

手にしていた楊枝に挿したお漬物をかざしてみる。


挿絵(By みてみん)


「なにこれ?」

「あ、お、お漬物です」

「そうじゃなくて」

「……?」

お漬物じゃなくて?

お漬物です。

これ。

首を傾げる私。

「カブじゃないか」

傍にいた横山くんの声。

「あ、はい。カブです」

蓮くんは私の手から楊枝を取るとパクり。

そのまま前を向いて歩き出した。

横山くんが顔を覗き込んできてニヤリと笑い、蓮くんの隣に歩み寄っていった。

ぽーっとしている私。

無造作にお漬物の容器をビニール袋に仕舞う。

そして、右手の指先を左手で包み込む。

あのね。

ちょっとね。

ちょっとだけど。

蓮くんの指先が触ったんだ。

腕を掴まれたり。

お腹をぶっちゃったことはあったけど。

肌と肌が触れてしまった。

ドク、ドク。

鼓動の音が少しずつ頭に近寄ってくる。

ひぇっ!

それに、あの楊枝。

間接キスだよ。

私が蓮くんと。

カーッと全身に血が巡って。

熱くなって。

むずむずして膝をこすり合わせる。

少しずつ人混みに紛れていく背中。

ん?

楊枝を返してもらったら!

ハッとして駆け足で追いかける。

「きゃっ」

前しか見ていなくて誰かとぶつかった。

尻餅をついてお尻に痛みが走った。

「ごめんなさい」

高い声。

制服姿のきれいな女の子。

「あ、私こそごめんなさい」

彼女が差し出した白くて細い手を握りながら立ち上がる。

ちょっとだけ冷たい手。

ぎこちなく笑って。

「じゃあ、失礼します」

「あ、はい、気を付けて」

女の子は会釈をして、長い髪を揺らせて歩いて行った。

「大丈夫、結衣?」

「あ、ちょっとぶつかっちゃっただけだから」

パンパンとスカートをはたく。

「どう? 彼と話せてる?」

「あ、すこし……ね」

「そっか。頑張れ」

「うん。ん? あっ!」

「どうしたの?」

「楊枝」

「ようじ?」

「楊枝思い出したの? 蓮くんは?」

「そこの、お土産屋さんに、ほら」

「ありがと」

ちょこちょこと人の波をすり抜けて。

蓮くんの背中に話しかける。

「あ、ああ、あの」

ゆっくりと振り返ってくれた蓮くん。

「なに?」

「はい、あ、あの……楊枝は?」

「ようじ?」

「お漬物の……まだ残ってるんで、あれがないと食べれなくて」

「ああ、ごめん。捨てた……」

申し訳なさそうに頭を掻いてる蓮くん。

「ううん。大丈夫」

間接キスの野望はついえたけど。

なんだろう。

謝る蓮くんの姿に、こころがくしゃみをしているみたいにむずむずした。



お昼は湯豆腐。

体には優しそう。

ドーナツみたいなお鍋の中にぷかぷかと浮かぶ真っ白なお豆腐。

お腹は空いているはずなのに。

蓮くんと一緒に過ごせる時間に満腹気味。

でも、まだ満足はしちゃいけない。

ともかく。

ちゃんと食べて午後も頑張らないとね。

隣の席の横山くんが、つんつんと私の腕をつついた。

「蓮、漬物とかに最近ハマってるんだよ。体にいいからって」

ひそひそ声で教えてくれた。

「そうなんだ」

「うちの爺ちゃんみたいだよ」

「ふふ。かわいいな」

私は目の前の蓮くんを見つめながら、お皿の中の湯豆腐を口に運ぶ。

「熱っ!」

唇と舌がひりひりする。

「もう、結衣、気を付けなよ」

心配そうに私を見る麻耶。

「へへ」

そんな私をみんなが見て笑う。

「みんなも気を付けて」

蓮くんも少し口の端が緩んだ――

気がした。

笑ってくれたら、何でもよくて。

ちょっぴり嬉しくて。

うそ、すごく嬉しくて。

でも、ひりひりするから、お冷で冷ましてみる。


そのまま、上目遣いに蓮くんを観察。

ふーふーしながら。

お豆腐を口に運んで。

もぐもぐ。

満足気にうなずく。

そして、もう一口。

箸の持ち方や使い方が上手。

ああ、その指先とさっき――

耳が熱くなる。

でもでも、ちゃんと見なきゃ。

蓮くんの食事シーンはレア中のレアなんだから。

美味しそうに頬張りながら食べるんだ。

見てるだけで、私も食べた気になって、お腹が満たされてしまう。

でもだめ、ちゃんと食べないと。

お豆腐につけて食べるポン酢とごまだれ。

ネギ、大根おろし、おろし生姜、七味唐辛子などの薬味達。

お豆腐だけなのに、いろんな味が楽しめて、食べるごとにポカポカしてきた。

食後に蓮くんはフリスクを手早く口の中へ。

そんな蓮くんと目が合った。

ズキン!

すぐに目を逸らされちゃったけど。

みんなの会話の中。

私と蓮くんだけが口を閉じている。

ねえ、蓮くん。

聞こえますか?

私の声?

大好きなんだ?

蓮くんのこと。

聞こえますか?

蓮くんは、こともなげにお冷を飲んでいた。



次のお寺に向かいつつ。

みんなで八ツ橋と抹茶ソフトクリームを食べ歩く。

ずっと食べてる――

気がする。

たまにはね。

いいの。

チアで頑張ってるから。

今日の私も頑張ってるから。

八ツ橋はもちもちの食感と中のあんこの優しい甘さがクセになる。

いくらでも食べれそうな危険な匂いの食べ物。

あれ?

気がついたら、私以外のみんなは、それぞれにおしゃべりをしていて、いい雰囲気。

ソフトクリームのコーンをパクリ。

ごくんと飲み込んで――

「よし」

笑顔を浮かべ、ちょこちょこって、蓮くんの隣に並ぶ。

顔を見たら何も言えなくなりそうだから。

前を向いたまま。

「あ、あの、いい写真撮れた?」

ちゃんと言えた。

「ん? まあね」

返事が返ってきたよ!

落ち着いて、落ち着いて。

後ろ手に組んで息を吸う。

「どんなの、かな?」

「ん?」

「あ、えーと。その、あの、見たいなかな、なんて」

もじもじしてツインテールの毛先を指に絡める。

ふいに立ち止まる蓮くん。

ドキッとする。

どうやらバス停。

ふっと零れる吐息。

蓮くんは首から下げたカメラを操作している。

そして、ストラップを首から外すと、そのまま、私の首に、そっと、被せた。

「え?」

蓮くんの一瞬の息遣いが、首筋に触れた気がして。

ゾクッとする私。

「ここのボタンを押したら次の画像が見れる」

「あ、はい」

私の両手の中にあるカメラ。

蓮くんがいつも持ち歩いているカメラ。

見せてくれるって。

にやにやしちゃう私。

「あ、ありがとう」


挿絵(By みてみん)



ブルルル。

エンジンを震わせて。

バスが止まる。

ピー。

扉が開いて、ぞろぞろとみんなで乗り込む。

空いていた車内で――

みんな二人掛けの座席に。

そして――

蓮くんの隣に座れてしまった私。

カメラを持つ手に汗が滲んで。

肩が触れて――

超接近してる。

最大級の距離。

って意味が分からないけど。

近い。

嬉しいんだけど。

呼吸がままならなくて。

ちょっとくらくらする。

このまま寄りかかりたいけど……

だめだめ。

しっかり意識を保って。

手元のカメラのディスプレイに視線を落とす。

せっかく。

せっかく。

見せてくれるんだから。

震える指とこころで、一つ一つをちゃんと見せて貰う。

そこにはお寺の全景や、仏様がたくさん映っていた。

でも、普通にしていたら、気がつかないような屋根の下の彫刻とか。

床に落ちている葉っぱとか。

池に映る人の影とか。

私には見えてないものが、それ以上に写っていた。

そして――

みんながそれぞれ手を合わせてお参りしている姿。

もちろん私も映っている。

なんかほっこりする写真達だった。

自然と笑っていた私。

「もう次降りるからいい?」

「あ、はい」

首からストラップを外してカメラを手渡す。

すごく、いい声。

予想外に、すごく優しい声。

今まで私に投げ掛けられた言葉でダントツの声。

どうしてだろう?

ちらっと見た蓮くんの横顔。

輪郭が光にぼやけて。

淡く光って。

とにかく美しかった。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

感想やご意見ありましたら、お気軽にコメントしてください。

また、どこかいいなと感じて頂けたら評価をポチッと押して頂けると、励みになり幸いです。

*人物画像は作者がAIで作成したものです。

*風景写真は作者が撮影したものです。

*両方とも無断転載しないでネ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
結衣ちゃん、頑張っていますね。 蓮君、漬物にはまっているんだ(笑) そういうところもカッコいい。ずるいなぁ。 結衣ちゃんのドキドキが伝わってきて、拝読している間、呼吸が止まっていたかも(そんなわけない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ