京都にて、お寺を巡る。
修学旅行で京都に来ている私たち。
最初は気が乗らなかった。
だって蓮くんとはクラスが違うから。
一緒に行動できないから。
――でもね。
私の親友の麻耶が面白い事を言い出した。
自由行動の時。
同じ場所に行ったらいいんじゃない?
でもどうやって蓮くんの行動を知るのか?
そもそも、私の都合だけで班の他の子のことはいいのか?
そこは伊達じゃない麻耶さま。
彼氏の恭一くんは蓮くんと同じクラス。
まず彼を使って蓮くんを同じ班にする。
私からも蓮くんの親友であり、私の諜報部員でもある横山くんに働きかける。
班の人数は四人だから。
恭一くんの友達の三浦一忠くんを加えれば四人。
これで蓮くんパーティーは出来上がり。
問題は私たちの方。
麻耶は恭一くんと一緒に行動できる。
私も愛しの蓮くんと一緒。
あと二人。
朱里と真純を誘った麻耶さま。
理由は簡単。
私たちと一緒。
朱里は三浦くん。
真純は横山くん。
全然知らなかった。
気づきもしなかった。
麻耶に言わせたら。
「結衣は、それでいいって」
褒められたのか、馬鹿にされたのか。
でもでも。
そんなこんなで。
カップル一人と。
片想い三人の思惑が合致して。
『恋花咲かせよ乙女組』
が結成された、
という訳です。
行動は不審に思われないように、蓮くんチームに合わせることになった。
この時点で十分、不審かもってみんな思ったけど。
誰一人として口に出さない。
だって、好きな人と一緒にいられるんだから。
自由行動は二日目の9時から17時まで。
出来上がった行程表を見た時。
ちょっとだけ、いやかなり違和感があった。
「なんか、お寺ばっかりだっけど」
「しょうがないでしょ、あっちのスケジュール丸パクリなんだから」
午前中も午後もお寺。
接近できそうならどこでもいいんだけど。
「でもね、恋愛成就の場所も入ってるの。恭一くんが上手に入れてくれたんだ」
「ありがとう、麻耶。私、頑張るよ」――
ということで。
今いるのはお寺。
名前は……
「にんにんじ」
だったかな?
ここでは座禅をする。
こころを無にして煩悩を取り払って。
意識を今に集中するとかなんとか。
私は手を挙げてお坊さんに質問をする。
「願い事は叶いますか?」
「どうでしょう。ただしっかり意識を集中させて、心の平静を得ることが出来たら、叶うかもしれませんね」
「はい。頑張ります」
お坊さんの指示のもと。
床張りの部屋で、蓮くんグループと乙女組が一列に男女交互に胡坐をかいて座る。
女性は正座でもいいみたいだったけど。
形から入るのは大事って誰かが言ってた気がしたから。
私は蓮くんと横山くんに挟まれて――
そわそわしだす。
座禅って、ピクリとも動いちゃいけないみたいだから。
先に蓮くんの方に少しだけ、座布団を直すふりをして、擦り寄ってみた。
そして――
目を閉じてじっとして。
ただただ、煩悩を無くして。
こころの平静を――
……
……
無理でしょ!
隣にいるんだよ。
蓮くんが。
シーンと静まり返った空間に。
私の心臓の音だけが時間を進めている。
ぱしん!
そういえば、どういうわけか、少しでも動いたら。
お坊さんに肩を棒で叩かれる。
誰かが叩かれたみたい。
ぱしん!
蓮くん何考えてるんだろうな?
私のことだったらいいな。
でも、隣に座っている。
夢のような時間。
目を開けて横顔見たいけど。
動いちゃいけないんだもんね。
ぱしん!
どきどきするけど。
こうやって傍にいると。
少し落ち着いてくる。
だって、このままだったら。
ずっと一緒にいられる。
ぱしん!
結局――
私は一度も叩かれることなく。
座禅を終える。
「あなたの集中した姿勢は美しかったですよ」
お坊さんにも褒められた。
麻耶たちは驚いていた。
「どうやったら無心になれたの?」
朱里と真純に詰め寄られて、まさか蓮くんのことをとも言い難くて。
「なんか居心地良いなって思ってただけ」
「なにそれー」
そんな中でも蓮くんは無反応。
そして、トコトコ歩いて、お土産屋さんが並ぶ坂道上って。
次のお寺に到着。
名前はわからない。
というかそもそも覚えようとしていない。
蓮くんを見るのが私の使命だから。
今までにない時間と距離で蓮くんといられる。
集中力、ううん。
意識の全てを蓮くんに捧げる今日の私。
そして、出来れば話しかけて。
一緒に写真を撮って。
次は、写経をするらしい。
横に長い机に正座で座って、漢字で書いてあるお経を書き写していく。
蓮くんグループは私たちの一列前。
愛しの蓮くんの背中をちらちら見ながら書いている。
お坊さんが言うには意識を集中して、一文字一文字を丁寧に書いてくださいね。
そうしたら、願いごとも叶いますよ。
そう話していた。
恋とは全く関係ない漢字を。
ただひたすらに書き写していく。
でも、願いが叶うのなら全然頑張れる。
蓮くんの彼女になれますように。
私の想いが届きますように。
蓮くんの笑顔がたくさん見れますように。
蓮くんが私のことを好きでありますように。
いつのまにか。
漢字をひたすら書いていた。
気持ちよくて、心地いい感覚。
チアで無心で応援している時みたい。
結局、私が一番書いていた。
「へー。意外だね」
横山くんの声。
「結衣。才能あるんじゃない」
麻耶の声。
蓮くんは無言――
写経や座禅の効果なのか。
なんか。
気分が落ち着いてきていて。
空の青さを今日初めて見た。
だめだめ。
蓮くんに集中しないと。
お寺の敷地に何とかの舞台というところがあって。
みんなで写真を撮ろうってなった。
優秀な諜報部員、横山くんが声を掛けてくれたけど。
「俺はいい」
まさかの蓮くん拒否。
結局蓮くん抜きでみんなで写真を撮った。
麻耶たちは、はしゃいでいるけど。
私にとって蓮くんが写ってない写真なんて。
気の抜けた炭酸みたいに刺激がない。
ん?
違うかな?
気の抜けた炭酸はそれはそれで飲めるもんね。
そして、どうしてか、お寺の中にある神社。
ここが、麻耶が言ってた縁結びの神様。
『地主神社』
て言うみたい。
お寺と神社が一緒ってさすが京都。
なんでも、境内にある二つの石の間を、目をつぶって無事に歩ききることができれば、恋が成就する。
一度でたどり着ければ恋愛の成就も早いという。
麻耶と恭一くんはやらないって。
そりゃそうだよね。
好き同士だもんね。
朱里はすっごい一歩が小さくて。
平均台を歩くように、ゆっくり進んでいたけど成功。
真純は、まさかのダッシュで成功。
二人とも凄い。
そして――
私の番が来た。
「乙女組」としての流れはいいはず。
石の位置を確認して。
両手を頬に当てて。
大きく息を吸う。
チアの掛け声を、心の中で唱えて。
蓮くんの位置を確認。
向かいの石の右側にいる。
「よし、橘結衣行きます」
囁くように自分に言い聞かせた。
ゆっくり目を閉じる。
両手を前に出して。
記憶した蓮くんがいる方向へ。
一歩一歩すり足で。
案外怖い、目を閉じて歩くという動作。
両手を上下左右に動かしながら進む。
右手の指先が何かに触れた。
私はそのまま両手をグッと伸ばした。
ゆっくり瞼を上げる。
?
目の前にニコニコした眼鏡をかけたおじさんの顔。
ハッとして蓮くんを探して首を振る。
次が蓮くんの番だったみたいスタート地点にいた。
「おじさんでごめんな」
眼鏡をかけたおじさんはそう言って笑いを誘った。
ドッと周りが笑う中。
私の視線は蓮くんに。
少し息を吐いた蓮くん。
目を瞑ったまま、もくもくと歩いて――
見事にもう一つの石の前に。
「すごい」
パチパチと沸き起こる拍手に小さくお辞儀をしている蓮くん。
横山くんと何かを話して。
少し微笑んだ。
わっ。
きゅんとして。
見つめてしまう。
だって普通に歩いてるみたいだった。
すごいな、蓮くん――
ん?
誰を想って歩いたの?
え?
え?
誰だったの?
「結衣、次行くよー」
「あ、うん、待ってよ」
すでに駆け出していた心臓に気持ちが追いつかない私。
蓮くんの背中は手が届きそうで届かなくて。
でも、今は立ち止まってる場合じゃない。
せっかく傍にいられる時間を味わわないと。
ちゃんと話しかけないと。
タイムリミットは、あと5時間。
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