表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きだから。  作者: ぽんこつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

雨音に抱かれて

パラ、パラパラ。

窓を叩く雨。

部屋のテーブルに伏せって、物思いに耽っている。


挿絵(By みてみん)


チアの大会。

惜しくも数ポイントの差で本大会の出場は叶わなかった。

でも、創部以来、最高の成績だったみたいで、顧問の先生や教頭先生は大喜び。

けれど、先輩達はやっぱり悔しくて泣いていた。

私は、ちょっと燃え尽きちゃって、珍しくテンションが下がり気味。

それもそのはず。

大会に蓮くんは来ていなかった。

横山くんに聞いたら、急用で行けなくなったったみたいって。

ザー、ザー。

パラパラ、パラパラ。

雨足が強くなったのか、窓を打ち付ける音が大きくなる。

昨日の夜から降り出した雨。

ここ数日は、雨模様とネットの天気予報にも書いてあった。

何にも予定のない週末。

天気でもよければふらっと外にでも出たいけど。

動画も映画も気分が乗らない。

音楽も何か寂しい歌ばかり聞いちゃうし。

立ち上がって窓から外を眺める。

家の前の道路には大きな水たまり。

人も通ってなくて、ひっそりしている。

濃い鼠色の空。

麻耶は今日はデートだし。


ピコン。

スマホが鳴る。

テーブルの前にペタンと座ってスマホを手に取った。

お母さん?

『ごめん、結衣、残業頼まれたから、お昼、お父さんに何か作ってあげて』

「うー。わかった。頑張れ、お母さん!」

料理はお菓子を作るのは楽しいけど、部活があるからあまりしていない。

出来る料理といえば、スクランブルエッグ。

お父さんにメッセージを送る。

「お母さん、残業だって、お昼何食べたい?」

『結衣、作ってくれるのか?』

「頑張るけど、スクランブルエッグしか出来ないよ」

数分後――

ピコン。

お父さんから。

『残念だ、卵がない』

「どーすんの?」

『何か買いに行くか?』

「うーん。雨だし。おとうさん車は?」

『じゃあ、ドライブがてら出かけるか?』

「いいよ」

車の中だけだし、いいかなって一瞬思ったけど、私はスウェットから着替えた。


シャー。

路面の水を切るタイヤの音を引き連れて。

パラパラパラ。

フロントグラスを叩く雨足は強く、ワイパーも忙しそう。

お昼はファーストフードになった。

ドライブスルーで持ち帰る。

お店までは車で15分くらい。

車内にはお父さんが大好きな『X JAPAN』が流れている。

雨に似合わないけど力強いメロディ。

「部活はどうだ? 大会は惜しかったみたいだけど」

「え? うん。楽しいよ」

「どうした、失恋でもしたか?」

「ひぇ? なんで?」

「いや、元気ないだろ、最近」

「そうかな」

意外な所から、まさかの恋バナ。

でも、お母さんにも話してない。

お父さんが気がついたってこと?

「父さんな、母さんが初恋の人だったんだよ」

「え?」

真っ直ぐ前を見つめながら、お父さんの目尻がさがる。

「中学の時の同級生。これは知ってるだろ?」

「うん」

「今みたいなスマホもない。携帯電話が出始めた頃だったんだ。ポケベルっていうのはあってけど、父さんは使えなくて、だから簡単に連絡取れなくてな」

「高校は別々だったんだよね?」

「ああ、でも父さんは母さんのこと忘れられなくて、何度か家の前まで行ったりもした」

「へー。かわいい」

「親をからかうな」

でも、嬉しそうな、お父さん。

「今の結衣と、ちょうどお前と同じ高校二年のとき。中学の同窓会であって、かわいくてな母さん。父さんは帰りに告白したんだよ」

「ふーん。それでどうだったの?」

勿体ぶるように、お父さんは少し間を置く。


シャー。

「振られた」

「え?」

「ショックだったよ。でもな、それで諦めきれるかというと、そうでもないんだな。逆に好きが増えた」

「うん。分かる気がする。でも何でお母さんはお父さんのこと振ったの?」

「ビックリしたんだって」

「どういうこと?」

「母さんも、父さんのこと気にはなってくれていた。良く分からないけど女心という奴なのかな。どうして中学の時に言わなかったのか、なんで今なのか、まあ、色々あったらしい」

そうこうしている間にファーストフードに着いた。

お父さんやお母さんの学生時代の恋の話。

二人とも初恋の人と結ばれたんだ。

ちょっと羨ましい。

でも、そんな姿は想像できない。

もちろん、子供時代もあったのは分かるけど。

「よし、腹減ったな」

お父さんはアクセルを踏む。

背もたれに寄りかかる私。

窓に映る私の顔に、沢山の雨粒が、汗のように涙にようにくっついている。

「それでな、次の日、母さんから電話がきたんだ」

「なんて?」

「週末デートしませんかって」

胸がキュンとなる。

私の恋も。

初恋も。

そうなったらいいのにな。


挿絵(By みてみん)


「そっか。二人とも一途なんだね」

「そうなるかな、だから結衣も、悔いがないように真っ直ぐ生きて欲しい。父さんも母さんもそう思ってる」

なんか、お父さんとお母さんに応援してもらってる気分になってきた。

哀しく聞こえた雨音も、私の中のもやもやを洗い流してくれているよう。

ボーカルの『Toshl』さんの澄み渡る歌声が心に響く。

『Rusty Nail』

切ない歌詞なのに、お腹に響くメロディは温かかった。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

感想やご意見ありましたら、お気軽にコメントしてください。

また、どこかいいなと感じて頂けたら評価をポチッと押して頂けると、励みになり幸いです。

*写真は作者がAIで作成したものです。

*無断転載しないでネ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ