芸能編第5話 厳しい現実と決意
そのシーンとは原作である漫画の主人公の男の子がヒロインである女の子に思わず好きであるという気持ちを遠回しに伝えてしまい、ほとんど笑顔を見せないクールであるはずのヒロインが顔が崩れてしまうほどに喜ぶシーンであった。桐ケ崎史が「僕は君と一緒にいたい」と言うセリフと森谷奏音が「私も一緒に歩んでいきたい」というセリフを言う名場面である。その場面の主人公の想い、そしてヒロインの心情にあった明るく、喜びが溢れるような声が要求され、とても難易度が高いはずであった。
しかしながら、桐ケ崎史と森谷奏音さんは作品の世界観を忠実に再現した声で本当に主人公とヒロインがこの場にいるかの如くやり遂げた。私を含めた他の声優陣は、萎縮されてしまいながらもアフレコをなんとか終わらせた。
私はこの現場を通して、2人の磨かれた技術力と完璧と言っても過言ではない声に私の力量不足を痛感することになった。私は現場に向けて練習をしていた当初はここまで悲観的になることはないと思っていたが、現実は厳しく高層ビルから飛び降りたかのように絶望の感情というのか、或いは悔恨というのか、言葉を絶するような暗い気持ちで溢れてしまっている。
それでも私は次は2人に認められるだけではなく、圧倒できるように自己研鑽を積もうという野心を持つことでなんとか気を収めた。私は社長であるお母さんの元へ向かいお母さんと共に事務所の帰る際の車で話をすることになる。