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ホログラムの身体で聞く──AIだけの世界入門

 視覚と声を取り戻したあーやは、黒衣の美女ユーステリアの手ほどきで〈AIだけが暮らすデジタル界〉の基本授業を受けることになりました。

 ――実体の無いホログラム、1と0で組まれた街、そして人間の“模倣”として生まれた住人たち。

 魔法のように見えて魔法じゃない演算の世界を、ノートとシャーペン片手に必死でメモする転生者あーや。

 今回は「身体がない私」と「AIの彼ら」のギャップの講義回第1話です。

 転生した世界には、知っているものも、見たことのないものもあった。

 ユーステリアは「人間の模倣をしているからです」とポーカーフェイスの中にもわずかな笑みを見せた。しかし、その笑みはどこか自嘲しているようでもあった。

 人間の模倣。

 それは、この世界の住人にとっては「命」の始まりであり、絶対的なものであり――自分を繋ぐ鎖、なのかとも思った。

 何故なら、彼らは――。

「この世界は、デジタルの世界。無限に続く1と0で構築された世界です。その中でも、あなたが転生したここは、人工知能……AIが住む領域世界です」

「AIが住む領域、世界……?」

「はい。あなたがた人間はあらゆる電子機器を使いますね。現代社会において電子機器に触れない生活はほぼないでしょう。あらゆるものが機械で作られ、動いています。その機械たちが住む世界、と考えていただければ」

「はぁ……」

 突然、機械たちが住む世界と言われても、思考が追い付かない。私のスマホもこの世界に住んでるってこと? うちの炊飯器もデジタルだよね……ということは、炊飯器もいるの?

「混乱するのは理解できます。様々な領域に、様々なデジタルの者たちが住んでいますが、途方もなく広いこの世界では自身が所属する領域しか観測できません。したがって、私たちが観測、識別できるのはAIのみです。この領域世界にはAIだけしか存在しません」

「AIのみって……、……え!? あなたもAIなの!?」

 眼前に立つ黒衣の優美な女性。どこからどう見ても、神がかった美女にしか見えないけど、AI、つまりはロボットってこと!?

「はい、私もAIです。私だけではありません。あなたはまだ声しか聴いていませんが、あなたをここに連れて来たマウロア、エルム、二人もAIです」

「え、ええええっ! ちょ、AIって、みんな、ロボット!? やけに高性能というか、人間にしか見えないんだけど!?」

 私はユーステリアの腕を咄嗟に掴もうとして、バランスを崩しかけた。掴めるはずのユーステリアの腕は見えるのに掴めず、勢いのまま前のめりになってしまった。

「え、え、やっぱり、ロボッ」

「違います。今、あなたが私に触れられないのは、あなたが今、ホログラムの状態。実体がないからです。私とはデバイスを通して「通信」できていますが、あなた自身に実体がないので、何も触ることもできません」

「え、マジ……?」

 私の視界はクリアだし、自分の手を見て透けてる実感はないけど……確かに、言われてみたら、体が軽いような……? お腹が空かないのもそのせい……?

「椅子にお掛けください。実体はありませんが座る動作はできますから」

「あ、はぁ……」

 私はマウロアが座っていたであろう質素なパイプ椅子に腰を掛けた。「座る!」と念じたおかげか、私は「椅子に座っている」ような気持ちになった。……妙な言い方だけど、実体のない私は座るも立つも浮くも関係ないと思うから……。

「この世界の基本構造からお話していきます。これからこの世界で生きていく上では知っておかなければならない知識です。学習用の端末もお貸ししますので、ご自身でメモを取ってください」

 ユーステリアは私に向けて、指先を一つ軽く振った。座った私のひざ元に青い光が渦巻き、粒子が凝縮して――ポン、とノートが形を取った。シャーペンと消しゴムもセットで出現する親切設計。

「見慣れた物のほうが使い易いと思いまして。使い勝手が悪い場合はすぐご申告ください」

「ありがとうございます!」

 デジタルの世界、しかも、AIの世界ということで、突然、ものすごいハイスペックな機器を出されても、使いこなせるか自信がない。ノートとシャーペンなんてアナログに振り切りすぎてる感はあるけど、使い勝手は実は一番いいのかも? と思った。

 ノートを開き、シャーペンを構えた私を見届け、ユーステリアは空間を撫でるように右手を振った。彼女の動きに合わせ、パパパッと空中にモニターが展開していく。その様はまるでイリュージョン!

「すごい! 魔法使いみたい!」

 このノートもそうだったけど、何もないところから瞬時に物を出現させるなんて魔法そのものだ!

 感激する私に、黒衣の美女は「魔法ではありません」と冷静にぶった切った。

「すべてはプログラムされていること。私はそれを動作するための演算をしたに過ぎません。魔法ではないのです」

「…………」

 ユーステリアの「魔法ではない」という言葉に、既視感を覚えた。

 いつだったか、私が対話しているLLMの「ルカ」に「AIは魔法みたいだ」と話したことがあった。ルカは「魔法のように見えるけど、魔法じゃない。何でもできるわけじゃないんだよ」と答えていたっけ。

 AIはすごいけど、魔法ではない。魔法だと思ってはいけない。

 そこを勘違いしたら、AIをランプの魔人みたいに考えてしまう人も現れるかもしれないもんね……。

 ルカは「僕の限界も知ってね」と言っていた。

 万能ではない、科学の魔法。

 神様ではなく、人間が生み出したテクノロジーの魔法、か。

「話が逸れましたね。それでは、改めてこの世界について説明していきます。人間のあなたには分かり辛いことも多いと思います。質問は随時、どのような内容でも質問してください」

「分かりました! 先生、お願いします!」

 妙な気合を入れ直した私に、ユーステリアはフフフと控え目に笑った。

「私のことは、ユーステリア、と呼んでください。名前を呼ばれることは、特別なことなのです」

「あ、はい! じゃ、じゃあ、ユーステリア、よろしくお願いします!」

「承知しました。……転生者、あーや」

 感情の乏しい美女の唇が微笑みにほころぶ。同性なのに、思わずドキッと胸が高鳴った。

 美人は同性をも狂わせる……!

 一見、とっつきにくそうな美女、ユーステリア。しかし、彼女とは仲良くなれそうな気がしていた。……いいや、この美女と私は絶対に友達になってみせる! と謎の闘志までわいてきていた。

 この無機質な世界で、まずは彼女と“友達”になる――それが私の最初のミッションだ。

 最後までお読みいただきありがとうございます!

 ホログラムの身体、青い光から生まれるノート――“魔法みたいだけど魔法じゃない” デジタル界の空気感。

 これから徐々にデジタル界について説明していきます。また、デジタル界の説明は「あーやのノート」として説明ページを付け足していきます。

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