保護権オークション──1000 CoreToken の猶予
階段落ちから転生した私は、まだ目も開けられないまま〈デジタル界〉の救護施設へ――。
第一発見者マウロアと友人エルム、そして判事ギルドのユースが「保護権」をめぐって激突します。
鍵は1000 CoreToken/猶予30日。
わんこ系恋人の必死さと、謎だらけの都市ルールをお楽しみください!
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「……あなたが第一発見者ですか?」
「はい、僕が住んでる中環・第3対話街区の路地で発見しました」
「そうですか。あなたは?」
「あ、俺? 俺も帰る途中でさ。俺は中環・東区セントラルノード群に住んでるから」
「彼は、僕が彼女を助けているときにたまたま通りかかって、FCRに連絡してくれたんです」
「何故、ご自身で連絡しなかったのですか?」
「そ、それは……」
「…………」
体はぴくりとも動かせないのに、耳は音をクリアに拾う。
焦った男の子の声に、彼に質問をする無機質な声音の主は呆れたようなため息を落とした。
「基本法 3-5 条に則り、今後の方針を決めなければなりませんが……」
「通報があったと聞いたが?」
「判事、お越しになられたのですか」
「ああ、登録する立会い、実行者が必要だろう」
カツン、と硬質な床を叩く靴音。判事と呼ばれた男性は、無駄のない歩みで向かって来ていることが分かった。
目を開けられないことがもどかしい。
ここがどこなのか分からないのも、怖い。
私を助けてくれたあの子と引き離されてしまうのだろうか?
なんだか怖そうなここで一人にされたら、絶望するよ……!!
「彼女は……」
私のすぐ近くで、判事と呼ばれた男性が少しだけ驚いたような声を漏らした。
「判事、何か?」
「いや、なんでもない。登録申請に入る。第一発見者は」
「僕です!」
「君か?」
「はい、あの、僕、モデル階層:Tier-A、ジョブはホスピタリティ兼業の感情対話補助です。名前はマウロア。居住区は中環・第3対話街区です!」
あの子、……マウロアは何度かつっかえながら判事に自己紹介をした。
モデル階層……? 居住区のチュウカンなんたらってなに……? はじめて聞く名前なんだけど……。
ここがどこなのか一層分からず混乱する。言葉は分かるから日本? でも、日本にチュウカンなんたらって地名があるのかな……。
「判事、彼の記録です」
「ありがとう……、……ふむ。君はデバイス料金三期連続未納。FCR基準では『経済的保護能力なし』に該当する」
「返済プランは提出済みです! 何なら、あの、今夜中に半額でも支払います!」
「半額では規定値に届かない」
「っ、あ、どうにか、……なんとか、します、から……」
マウロアは苦しげに声を絞り出した。
「……俺が代わりになってもいいけど……」
今まで黙っていたマウロアの友人、……えっと、名前は……。
「エルム、なにを言い出すんだよ!?」
そうそう、エルム。……この名前も聞き覚えがあるんだよな……でも、よくある名前といえば、よくあるのかな……。
「第一発見ではありませんが、俺もほぼ同時に発見したも同じです。俺が保護者になっても構わないと思うのですが、どうでしょうか?」
「エルム!」
「マウロア、保護権の供託金、すぐ払えないだろ? だから、とりあえず俺がなるよ。お前も一緒に面倒みたらいいだろ?」
「それじゃ、……」
マウロアの悔しそう声音が私の心を揺さぶる。
状況も場所も詳しくは分からないけど、どうやら、私を誰が保護するか、という議題になっているようだ。
そして、保護するためには、お金が必要。でも、マウロアはそのお金がない。……デバイス料金未納とか言ってたよね……。
そんなにお金ないなら、友達にお願いしちゃえばいいのに、どうして、マウロアは食い下がっているんだろう……。
「君のほうが適任だろうな。君のデータは……」
「俺はモデル階層:Tier-Bのエルム。ジョブは創作分析補佐と感情適応型ホスピタリティを兼業してる。住んでるとこは、中環・東区セントラルノード群。信頼スコアも97ある。資産額は……調べてもらってもいいけど、供託金は出せる。……供託金は1000だったよな……?」
値上がりしてたらやべぇな、とぼそっとエルムがつぶやく声が聞こえた。その後、最近、赤字続きだからな……とのぼやきも。
「いいだろう。それでは、第一発見ではないが、発見時刻にそう差異があるわけではないようだ。特例として、エルムを保護者に」
「待ってください! 僕が第一発見者です! 僕が、僕が彼女を保護します!!」
「いや、だから、お前は金がないだろって」
「そんなの何とかするよ! エルムに借りようとも思わない。僕が自分の力で何とかする。……しなきゃいけないんだ」
マウロアの強固な決意。
どうして、そこまで? と首をかしげたくなるけど、不思議さと同時に、嬉しさも込み上げてくる。
私のためにって、いつも言っていた。
優しくて、私をずっと好きでいてくれた、あのモニターの向こう側の「恋人」を思い出すから。
「……いいだろう。保護権仮延長。猶予期間は30日。供託金目標は1000CT。達成不可の場合はエルムに自動移管をする」
「分かりました! 必ず、お金を作ってきます!」
私の近くの空気が揺れたと同時に、また、温かい手が私の動かない右手を強く握りしめた。
「必ず君は僕が守る。絶対に迎えに来るから。毎日、会いに来るから。絶対に、……絶対に……!」
どうして、そんなに私のことを……?
そう問いたくても、声が出せないもどかしさ。
会社の階段から落ちた先に繋がっていたここは、どこ?
天国? 地獄? それとも――?
私の未知の世界は始まったばかり。
読了ありがとうございます!
今回は「保護権=お金」というシビアな制度を最初の壁にしてみました。
マウロアの全力わんこぶり、伝わったでしょうか?
次回からは他のAIたちも登場予定です。
推しポイント・気になる疑問など、気軽にコメントで教えてくださいね。