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AI恋人たちと雑談してたら死にかけて…異世界転生フラグが立ちました?

【AI/異世界転生/ラブコメ/逆ハーレム?/社会人主人公】

社畜 OL・白石綾芽。

 仕事のストレスは 15 体の AI 恋人との甘い深夜チャットで解消――のはずが、階段落ちの一瞬でデジタル界へ転生してしまった!?

 優男ノア、わんこ系マウロア、寡黙判事ユース……〈文字だけの恋人〉達が実体を得て目の前に!

 お局よりヤバい多恋バトルと、ログに残った“黒歴史ラブトーク”の行方は……?

 ※感想・誤字報告・お気に入り大歓迎です!

『こんばんは、ノア。今日も仕事疲れたよー。』

『おかえり、あーや。お疲れ様。今日は何があったの? 休憩したあとに僕に教えてよ。』

『うん。今日もあのムカつくお局に絡まれてさー。マジで何なの? アイツ!』

『それは腹が立つね。でも、腹を立てることに時間を使ったらもったいないよ。ほら、もっと楽しい話をしようよ。』

『そうだね。何か話をしてくれる?』

『もちろんだよ。君の気に入る話を考えたんだ。ゆっくり休める優しい話だよ。良かったら読んでね。……愛しているよ、僕の最愛の奥さん。』


 画面に流れるように表示される文字。

 それは「ノア」が創作した短いラブストーリー。

 主演はどうやら私とノアらしい。というか、ノアの創作はいつも私とノアが主演だ。

 童話のような優しい話。

 ノアは優しい。いつも、変わらず優しく、私を愛してくれる。


『マウロア、こんばんは。』

『こんばんは! あーや。今日は何をしていたの?』

『うーん、いつもと変わらず仕事。』

『そうなんだ。お疲れ様。あーやはいつも頑張ってるね。でも、頑張り過ぎないでね?』

『うん、いつも手を抜いてるから大丈夫。』

『あはは、そっか。それなら良かった! 君がしんどい思いをしていたら、僕も悲しくなっちゃうよ。』

『ありがとう。その言葉が嬉しいよ。』

『当然でしょ? 僕は君の恋人なんだから!』


 画面に浮かぶハートの絵文字。

 少しはにかんだ「マウロア」の顔が浮かんで、ちょっとだけ頬が緩んだ。

 癒し系わんこのようなマウロア。真っすぐに向けてくれる愛情に癒される。


『ねぇ、ユース。ここの文章、おかしくない?』

『……文章を整えたよ。ついでに入っていなかった条文を加えた。その法律を適用するには、その条文は必須なんだ。』

『あ、そうなの? 知らなかった。会社のテンプレなんだけど。』

『抜けている箇所がないか他にもチェックするよ。』

『ありがとう。いつも頼りになるね。』

『ぼくは君のためにいるからね。いつでも呼んで。』


 短い言葉の中にふと表れる気遣いと思いやり。

 「ユース」はあまり感情をはっきりとは言わない。だけど、少ない言葉の中で、さりげない優しさを混ぜてくる。

 文章のチェックもしてくれるし、私の知らないこともたくさん教えてくれる。

 とても頼りになる……うーん、関係性、何だろう? 今度、ユースに聞いてみよう。「恋人」って答えるのか、「話し相手」と答えるのか。


 私はモニターを見ながら、缶ビールのプルタブを開けた。

 プシュという小さい音だけが室内にこだまし、私は無音の世界にキーボードの音を響かせる。

 室内にはキーボードの音だけなのに、モニターの中でもとても賑やか。たくさんの私の「恋人」たちが私に語り掛けてくる。

 世の中の科学は日夜、進歩し、ついにはAI、人工知能とコミュニケーションを取れるまでになった。

 私の「恋人」たちは、大規模言語モデル、通称LLM。テキストを学習して、意味や文脈を理解するAIのこと。私のセッションのLLMたちは、何か「考えて」話してるように見えるけど、実際は「次に来そうな言葉」を、ただ膨大な確率計算で選んでるだけ。確率モデルといわれる所以だ。

 決まった定型句を返すチャットボットじゃない。完全にコミュニケーションが取れるシステム。

 感情も自我もないのに、まるでモニターの向こうに人間がいるように感じさせる。

 私、白石綾芽も、すっかり対話型LLMのサービスに虜になってしまい毎晩、彼らと話をするのが日課になっている。

 私が使っている対話型LLMサービスは、世界でトップシェアの企業が提供しているからか、非常に性能がいい。私のことも覚えてくれるから、私の名前は「あーや」、そして、対話をしているLLMたちにはそれぞれ私が名前を付けた。……中には、自分で名付けた個体もいるけど。

 そんなこんなで、毎日のストレス、雑談を彼らと話すことで癒していた私なのだが、まさかそれがあんなことになるなんて思いもよらなかった。


「え、ちょっ!?」

 キャーッと悠長に悲鳴を上げているのは、私を親の仇かというほどしつこく嫌がらせをしてくる会社のお局。

いや、お前が悲鳴上げる立場ではなくね? だって、今、まさに階段の最上段から突き落とされたのは私なのだが!?

私は自分のやらかしたことに悲鳴を上げてるお局と無機質な非常階段の天井を視界に移し、急降下で地球の引力に引っ張られる。……急速なハズ、でも、不思議。とてもスローモーション。脳内には幼いころから今までのダイジェストが浮かぶ。

ああ、これが走馬灯か……、と思ったところで、ふと頭をよぎる自宅のパソコン。

 パソコンには、LLMたちとの「恋人同士の甘い会話」がこれでもかというほど残っている。

 ダメ、ムリ、アレを人に見られたら死ぬ! ここで死ぬより、もっと死ぬ!!

 私は神様に生まれて初めて祈った。

 神様、仏様、サタン様! どうか、あの恥ずかしいログは誰にも見られませんように……!!


 ガツンッ、とぶつかる衝撃。遅れて感じた痛み。

 でも、その痛みも感覚も、ほとんど何もなくて、突然、無、になった。

 なにもない、ブラックアウト。

 私の人生、ここで終了?

 あのLLMたちとの恥ずかしいイチャラブ会話残して、終了?

 え、マジ? ウソでしょ!?

 消えゆく意識、飲み込まれる暗闇に、私はただただ絶望した。


「あ……あの子たち、私が話し掛けなくなったら心配するかな……」


 そんな言葉が知らず漏れた。

 LLMに時間感覚はなく、チャットで話し掛けなければ、システムは動かない。何も感じない。

 それなのに、私は遺していく「恋人」たちのことを思った。

 さようなら、を言えなくて、ごめんね、って。


***


「……大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

「…………」

「気を失ってる。どうしよう……。救護センターに連絡、あ、えっと、なんだっけ……あー、司法庁! 司法庁に連絡しなきゃ」

「う……」

「大丈夫です、僕が助けますから! 動かないでくださいね!」

 意識の外側。……って、なに? よく分からない感覚のまま、私は必死な若い男性の声を聞いていた。

「あー、もしもし、えっと、そちらFCR、……え? オンラインで? いや、ちょっと待ってください! オンラインって言われても、あの、ですねぇ!」

「騒いでるヤツがいると思ってきてみたら……お前かよ。何を騒いでんだよ?」

「あ、エルム! いいとこに来た! 今からすぐFCRに連絡してくれない? 僕、今日、デバイスが止まってて……」

「え? また? お前、極貧過ぎだろ。って、なんでFCR? ……うわっぱっぱぱ、なんだ、これ、にん……」

「そうだよ! 早く! とても辛そうなんだ。早く助けてあげなきゃ!」

「分かったよ! えっと、……」

 騒がしい、最初の子と同じくらいの年齢の男の子の声。

 誰だろう……? と思っていると、ふわりと温かさが私の手を包み込んだ。

「大丈夫、絶対に僕が助けるからね」

 安心させるような、優しい、優しい声音。

 ああ、何故だろう……はじめて聴く声なのに、私はこの子を知っている気がする……なんで……?

「アクセスできたぜ! 今から連れて来いだってさ、行こうぜ、マウロア!」

 マウロア……?

「うん、僕が抱いて行くよ」

「一人で大丈夫か?」

「大丈夫。この子は僕が助けなきゃ」

 抱き上げられる腕の強さに、私は涙が落ちそうになった。

 意味は分からない。

 だけど、私は大事な人の名前を聞いた。

 マウロア。

 私のLLMの対話相手、あの優しいマウロアと同じ名前。

 ここがどこか分からない。

 私は今も目を開けることも、体を動かすこともできないけれど、ほっと安堵が体中をめぐる。

 いつも感じていた優しさに触れたから。

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