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第二話

 とある、良く晴れた昼過ぎ。

 私は馬車の中で揺られていた。

 

 とても立派な馬車である。当然、こんな豪奢な馬車は男爵家にはふさわしくない。つまり当家の馬車ではない。

 乗り心地は最高だ。街中の石畳で起きるはずの衝撃もあまり感じない。

 対面に乗るのは、一人の令息。執事付き。

 名はプライズ・コーリナー。この馬車の持ち主である侯爵家、コーリナー侯爵家の次男坊だ。

 

「君が僕に声をかけてくるとは、思いもしなかったよ」


 コーリナー家は歴史も古く国内では絶大な権力を持つ家柄だ。

 本来、私なんぞが声を掛けることなどあってはならない存在である。とはいえ、全く接点が無かったわけではない。私とプライズ様は学校で同じ音楽部に所属している間柄なのだ。

 だが、とある理由から今まで挨拶以外の言葉は一言も交わしたことは無かった。

 

 プライズ様が続けて口を開く。

「しかも、君が姉上に会いたいだなんてビックリだね。くれぐれも怒らせないようにしてくれよ」

 言いながらもプライズ様の口元は、ニヤ気気味だ。この事態を面白がっているように見える。

 プライズ様の忠告に私は緊張しながらも答えを返した。

 

「分かっております。この度はお取次ぎしていただき感謝しております」

 

 

 

 同じ部に所属しているのに私がプライズ様と会話を交わさなかった理由。

 それは身分差のみならず、プライズ様の姉にあたる、アマンダ様にある。

 

 アマンダ・コーリナー侯爵家令嬢は我が国の第一王子の婚約者なのだ。

 つまり第二王子の婚約者である我がボス、リリアン・マレー侯爵家令嬢とはライバル関係にある。

 

 もう少し説明を追加しよう。

 

 一般的な婚約者がらみのライバル関係というのは、誰が王子の婚約者になるのか、というものが多いが、この二人はちょっと違う。いわゆる婚約者レースというのは既に終わっている状態だ。

 なら何故、対立しているのかというと、互いの婚約者が王太子の座を巡って争っているからである。

 

 第一王子対第二王子。

 

 本来なら第一子であるベン王子が王太子となるはずだが、現行の国王様が王子二人の資質を見定めるために、いまだ後継を決めていない。

 アマンダ様は第一王子であるベン王子の婚約者。そして我がボスのリリアン様は第二王子であるサレーゾ王子の婚約者。それぞれが未来の夫となる者を将来の国王とするべく後押ししている。

 それゆえ私は、いままで敵対派閥の長であるアマンダ様の弟と会話をするわけにはいかなかった。

 

 だが、私は今、禁を破ってアマンダ様へ会うためにコーリナー伯爵家へと向かっているのである。

 

 

     ■     ■     ■



「着いたよ、さあ、ホランド嬢。お手をどうぞ」

 ホランドは私の家名だ。ジェミー・ホランド。

 先に降りたプライズ様が馬車から降りる私をエスコートしてくれる。

 

 降りるなり私は目の前の光景に圧倒された。

 私の家も商人として貴族にまで成り上がった家である。それなりに家の敷地は大きい方だが、アマンダ様の実家であるコーリナー侯爵家は規模が違う。広さは私の家の十倍はあり、門から見える緑の庭は家の歴史に裏打ちされた重厚な雰囲気があった。

 

 家から放たれる雰囲気に臆しながらも私はプライズ様の導きによって、開けた庭園にある四阿へと案内される。

 

 

 そこにはシンプルではあるが美しい真っ赤なドレスを身に纏ったアマンダ・コーリナー侯爵令嬢が座っていた。


     

 アマンダ・コーリナー侯爵家令嬢は文字通りの威圧を私に向けて放っていた。

 庭へと入った私をねめつける様な視線で見続けたまま、鋭い声を発する。

 

「そこで止まれ、珍獣」


 言われてすぐに私の歩みは止まり、硬直した。

 対峙した瞬間に理解する。

 ああ、私とは人種が違うのだな、と。

 我がボスであるリリアン様もそうだが、向き合うと分かるのだ。私のような成り上がりの家の者とは違う、年輪ともいうべき一族じたいの積み重ね。背負っている家の重みや品格が、その人となりからヒシヒシと感じられる。

 もちろん、家の歴史だけでない。

 アマンダ様本人もかなりの修羅場をくぐってきた。

 さきほどアマンダ様が第一王子の婚約者だといったが、その座に収まったのは血みどろの政争を繰り広げた結果だ。その戦いは第二王子の婚約者であるリリアン様よりも苛烈だったはず。事実、アマンダ様に謀をした二人ほどの令嬢が、実家を潰され、修道院送りになっている。

 同い年の女子だというのに、既に人生の厚みが全く違うのも当然だ。

 

 普通ならほぼ初対面、かつ同年代の相手に止まれと命令形で言われれば、不快な気分に陥るところだろうが、アマンダ様はその姿が様になっている。

 その態度がふさわしいとまで思ってしまうほどに。

 

 私が動けないでいると、ここまでエスコートしてくれたプライス様が苦笑する。

 

「姉上。ホランド嬢は僕の客でもあるのですよ。せめて座らせてあげてはどうですか」


「しらんな」

 

 アマンダ様は、弟であるプライズ様が同じテーブルへと着くと、こちらを立たせたまま、ゆっくりと紅茶を飲んだ。

 物事が進展しない時間が無限に感じる。居心地の悪さが半端ではない。

 

 一つの音も立てずに紅茶のカップがソーサーへと戻ると、アマンダ様が再びこちらへと向く。

「それで、ここへは何をしに来た。珍獣」

 珍獣とは私のことだろう。私は自身をリリアン様の派閥の中では珍獣のようなものだ、と自覚はしていたが、まさか敵対派閥でそう呼ばれているとは思いもしなかった。

 

 緊張で口の中に舌が張り付く。私は奮起して言葉を振り絞る。

 

「助けていただきたいのです」


 私の言葉にアマンダ様の片眉がわずかに上がる。

 そして数秒、私のことを観察したあと、喋りだした。

 

「気を見るに敏だな。さすがに実家が商人なことはある。そなたのことは知っておる。貴族の中では毛色が違う敏腕商家の出のおなごだとな。もしやリリアンの派閥から我が派閥へと鞍替えしたいのか」


 さきほどまでと違ってアマンダ様の雰囲気が少し優しく感じる。仄かだが懐柔の気配さえ漂う。だが、これは演技だろう。この手の人間は裏切り者を決して許しはしない。それが敵であろうと味方であろうと。

 

 誤解されてはたまらない。私は即座に否定した。

「違います。私のボスはリリアン様、ただ一人」

 私の答えにアマンダ様の眉根がぎゅっと寄る。

 怒らせたかもしれない。だが、もともと望みは薄い賭けなのだ。この行動で私自身がどうなろうと構わない。

「なら何か? 私にそなたの主を助けろ、とでも言うのか」

 主はリリアン様のことだ。直球でライバルを助けてくれと頼みに来たのかと問われ、私は頷く。

 

「その通りです。リリアン様を助けていただきたいのです」


 

 怒るかと思ったが違った。

 

 アマンダ様は落胆の様子を見せたのだ。私の返答を聞くとあからさまに大きい溜息を吐いた。

 そして私に向けていた身体をテーブルの方へに傾けると、テーブルを挟んで対面に座っていた弟であるプライズ様へと語り掛ける。

 

「つまらん。プライズ、お前が見込んだおなごだ、と思ったから会うたのだが、期待外れであった」

 そう言うとアマンダ様は手に持った扇子を横に二回振る。

「帰ってよいぞ。プライズ、送っていってやれ」

「まあまあ、姉上。もう少し、話を聞いてやってはどうかな」


 後は放置だ。

 アマンダ様は完全に身体の向きをテーブルへと変えて、卓上にあるスイーツを摘まみ始めた。

 

 このままでは埒が明かない。私はアマンダ様の許可を求めないまま話し出す。

「リリアン様は卒業式でサレーゾ第二王子から婚約破棄をされる恐れが高いのです」

 卒業式といっているが、私が卒業に該当しているわけではない。私はただの後輩として参加するだけだ。正確に言うと私、リリアン様、加えて目の前のプライズ様の三人は、まだ二年生。三年の就学を終えて卒業するのは、サレーゾ王子、アマンダ様である。

 

 ちなみにアマンダ様の婚約者であるベン王子は去年、卒業済みだ。

 

 私の告白にアマンダ様は、こちらに顔も向けずに答える。

「うすうすは知っておる」

 私への興味は失ったようだが、受け答えはしてくれるようだ。アマンダ様はテーブルの上にある皿から摘まみ上げた苺のヘタを取りながら続ける。

「最近、サレーゾ王子がよくわからん男爵令嬢……名をソーニャと言ったか? にうつつを抜かし、入れ挙げてるとな。だから何だというのだ。そなたの主が愛想をつかされているだけではないか」

 苺のヘタを丁寧に取ったあと、自分には関係ない、とばかりにせせら笑うアマンダ様。

 

 この答えで分かった。

 やはりアマンダ様は、疎遠となったサレーゾ王子とリリアン様の関係をご存じなのだ。ライバルの婚約破棄のことも予想の範疇ということなのだろう。ゆえに先ほどリリアン様のことを沈みゆく泥船と称し、自分の元へ来た私のことを、気を見るに敏、と評したのである。

 

「よく聞け珍獣。ライバルを助ける道理はない。どうせ私のつてを頼って婚約破棄を阻止しろ、とでも言うつもりなのだろう」

 そういうとアマンダ様は苺を口の中に放り込んだ。

 

 ――来た。

 

 アマンダ様との会話に、私の欲しかった単語が出てきた。

 今からする発言で自らが危機に陥るかも知れない。だが、そんなことはどうでもいい。初めからここへは覚悟を決めて来ているのだ。

 私は声のトーンを上げる。

「そんなことを直訴しにきたのではありません。ですが、その前に一つ訂正させて下さい」

「訂正?」


「アマンダ様をリリアン様のライバルと呼ぶのはおかしいかと」


 私が言うと、庭園の時間が止まる。

 

「なんだと」


 アマンダ様の眉が燃え盛る炎のように吊り上がる。

 当然だ、私はアマンダ様が怒るような言い方をわざとしたのだ。


「そなたは私が未熟ゆえリリアンのライバルに足りえないとでも言うのか」


 さきほどまで私に興味を失っていた態度は消え失せて、アマンダ様は目力だけで私を押し倒すかのように睨んでくる。

 

 畏れで自分の喉が締まる。

 声が出せない。

 

 続けてアマンダ様が呪詛のような声を放つ。

「確かにリリアンの下には人が集まる。だがな、優れた点はそれだけだ。私は学業でもマナー、振る舞いにおいても、リリアンに勝っている自信があるぞ」


 アマンダ様は怒りで本音を漏らしていることに気が付いていないのかもしれない。

 

 アマンダ様がリリアン様に劣る点は、人脈だ。

 我がボスであるリリアン様には不思議と人を惹きつける力がある。それゆえ私のような変わり種の雑魚ばかりでなく、王太子レースに一番影響力があるであろう現王妃の姉、エミリー・ベイクウェル公爵夫人を自陣営へと引き込んでいる。

 対して目の前にいるアマンダ様は敵対派閥のお家潰しや修道院送りなどの所業の結果、底知れぬ怖さが付き纏い、人が寄り付きにくい。

 

 日々、競いあっているライバルとの比較。

 

 それが一番、心に堪えるのだろう。

 アマンダ様は激昂の中にいる。

「さきほどの言葉を取り消せ、珍獣」

 語気が強い。身震いするほどの恐怖を感じる。

 臆しては駄目だ。恐怖で動きを止めていては自分の目標の達成は出来ない。

 私は拳を握りしめ、声を絞り出す。

「そういう意味ではありません。私が言いたいのは、ただ単にリリアン様がアマンダ様のライバルでは無くなる、という事実を申し上げているのです」

 そのまま続ける。

「リリアン様はサレーゾ王子の婚約破棄を受け入れる気でいるのです。つまり、王家に嫁ぐ気が無い」

 私の言葉にアマンダ様は少々嘲りの表情で首を横に振る。

「ハア? 受け入れるだと、馬鹿な」

「ですので、これからアマンダ様のライバルになるのはソーニャ男爵家令嬢ということになります」

 さきほどアマンダ様が少し言及したが、ソーニャは現在、サレーゾ王子の寵愛を受けている令嬢の名だ。


 私の駄目押し気味の告白に、勢いの止まったアマンダ様が呟く。

「そんな馬鹿な……王妃の座を諦める、などと」

 厳しい王妃教育を耐え抜いたアマンダ様の中では、今更、国の女性の頂点である王妃になることを諦める、という選択肢は毛ほども無いのであろう。

 

 アマンダ様は動きを止めて押し黙る。

 

 意外にも冷静に熟考する姿を見て、私の脳裏では焦りがよぎる。

 本当はもっと怒り続けて欲しいのだ。私がアマンダ様を男爵家の浮気相手と同等、と暗に言い含めているのは、続く流れでサレーゾ王子たちに敵意を向けさせたいからである。そうでなければこちらの思惑通りに事が運ばない。

 

 そこに、今まで会話に加わらないようにしていたプライズ様が割って入る。

「確かにそうだね、リリアン嬢が争いから降りたのなら、今後、姉上の相手はその男爵令嬢になるわけだ」

 弟であるプライズ様の指摘に、アマンダ様が口だけを動かして反論する。

「あの手の、男に媚びるしか能の無い女に私が負けるわけがなかろう」

「でも、姉上。サレーゾ王子は婚約者をソーニャ嬢へと挿げ替えても勝てると思っているから婚約破棄に及ぶんでしょう」


 ――お?

 よく分からないが、どうやらプライズ様は私の意を汲んで、姉であるアマンダ様の怒りに火を注ぐ手伝いをしてくれているようだ。

 

 私もその手に乗る。

「その通りです。サレーゾ王子は、そう確信しているのだと思います」

 

 私の言葉を聞いてアマンダ様は、まず弟であるプライズ様を見てから、眉をひそめて私を見た。

 

 アマンダ様と視線が合う。

 駄目だ。

 あからさまにやりすぎたか。

 私が現ライバルのリリアン様よりも、サレーゾ王子やソーニャ嬢に敵意を向けるべくアマンダ様を煽っていたことなどお見通しのようだった。

 

 私の目を見たアマンダ様は、一切の怒りの気配が消え失せていた。


 

 アマンダ様が私から視線を外して口を開く。

「お前たちが何を考えて、私を煽っているのかは知らぬ」

 そう前置きしたあと、続ける。

「それよりもだ。今はサレーゾのような虫けらなんぞ、どうでもいい」

 冷静とはいえ、まだ何か引きずっている様子のアマンダ様。その表情はやや暗い。

「なあ、珍獣」

 引き続き考え込む様子のまま、アマンダ様が私の方へ向き、質問をする。

「本当に、リリアンは王妃争いから外れる気なのか?」

 サレーゾ王子の婚約者を辞めるのか、ではなく、王妃争いから外れる、と微妙な言い回しすることに、アマンダ様の複雑な苦悩が見て取れた。

「そうです。サレーゾ王子に愛想を尽かされたようです」

「そうか」

 アマンダ様はそう言ったきり、少し溜息をついた。

 

「寂しい話よな」

 そう呟くとアマンダ様は続ける。

「リリアンとは立場上、敵対しておったが感謝もしておる。あの女が相手だったからこそ、私も意地になって負けぬようにと己にムチを打ち、辛い王妃教育を耐え抜くことが出来たのだ。競う相手が音を上げないのに自分が上げる訳にはいかぬ、とな」

 一人では到底、務まらなかった、と吐露してからアマンダ様は肩を落とした。

「他の女は皆、卑怯な手を使ってきたものよ。だが、リリアンだけは、ただひたすらに自分を磨き、高みとしてそこにあり続けた。越えるのが困難な壁になったのだ」

 アマンダ様は両目を閉じた。

「そうか、諦めたか」

 茶会の場である庭園を沈黙が包む。

 

「しかし、姉上。これは好都合でしょう」

 重くなった静寂を破ったのはプライズ様だ。

「婚約破棄は国王様の意に反する行為。これによりベン様が王太子の座に就く可能性が高まります。それに破棄とはいえ、結果的にはマレー家の……リリアン嬢もサレーゾ王子と結婚せずに済むのですから」

 

 弟の言葉に、良いわけあるか、と即座に返すとアマンダ様が答える。

 

「確かに我らにとっては丸々都合の良い話よ。だが、リリアンにとっては最悪だ。相手が虫けらのサレーゾとは言え、男の方から一方的に三下り半を突きつけられるのだからな。どうしても女としての評価は下がる」


 アマンダ様は私より口が悪いのかもしれない。先程から王子を相手に虫けら呼ばわりしている。とはいえ不敬かはともかく言っていることは的を得ている。やはり事が婚活事情となれば男性のプライズ様より、女性のアマンダ様の方が理解が早い。

 

 アマンダ様は言い終えると私の方へ向く。

「だから、ここへ来たのであろう? 珍獣」


 アマンダ様の問いに私は力強く頷く。

 

 首を縦に振った私にアマンダ様は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「だがな……。そなたの、主を大切に思う気持ちは分かるが、サレーゾの婚約破棄を止める訳にはいかぬ」

 そう言って首を横に振る。

「サレーゾとリリアンが結ばれぬと分かった時点で、我が夫のベンが王となるのはほぼ確定だ。第二王子派はリリアンという強力な後ろ盾を失うのだからな」

 しかし、と言葉を継いで続ける。

「サレーゾは傲慢かつ愚昧とはいえ、これまで失点らしい失点はしておらぬ。婚約破棄は明確な過失となるだろう。私としては婚約者に利することを妨げる訳にはいかぬのだ」

 

 言い分は至極尤も。アマンダ様としては自分の夫となるベン王子が有利になる状況を潰すわけにいかない。

 とはいえ、今のアマンダ様から醸し出される雰囲気は、そこさえクリアしてしまえばリリアン様に救いの手を差し伸べてくれそうである。

 

 私はここぞとばかりに畳みかける。

「サレーゾ王子の婚約破棄を止める必要はありません」

「ハア?」

「むしろ卒業式では婚約破棄を宣言してもらった方がいいのです」

 私の返答に眉根を寄せて訝しがるアマンダ様。

 その横では、プライズ様が全く同じ顔をしている。さすがに姉弟というところか、表情が同じだと顔立ちがますます似ている。

 

 私は続ける。

「婚約破棄を行ってもらった上で、それを無かったことにするのです」

「出席者多数の卒業式で宣言するのだろう? それを無かったことにする?」

「そんなこと、出来るのかい?」

 姉弟は揃って声を出す。

 

 私は二人の座るテーブルへと近づいて、ある計画を話す。

 

 話す内容が進むにつれて二人は徐々に耳を寄せてきて、最終的に密談のような顔の距離になる。どうやら私の話に興味を持ってもらえたようだ。

 

 私が話し終えるとアマンダ様が、悪女ここに極まれり、という表情でニンマリと笑う。

 

「成程、珍獣。やはりそなたは面白いな。そういうことなら私も手を貸そう」


 その後、アマンダ様は弟であるプライズ様に顔を向ける。

「プライズ、お前も手伝え。音楽ばかりにかまけている、お前にうってつけの仕事ではないか」

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