表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫令嬢は毒舌魔術師の手の中で  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/37

35.腕輪

それに気がついたのは、卒業式が終わって、

ジルベール様と馬車に乗って屋敷に帰るところだった。


カチャっと金属がぶつかる音がして左腕を見たら、

腕輪が二つになっていた。

マリーナさんから渡された腕輪の他に、もう一つ。


「え?……あ、この腕輪か」


もう一つの腕輪はずっと幼いころから身に着けていた腕輪だった。

ドリアーヌに攻撃されて黒猫になった時、

消えていたから落としてしまったんだと思っていた。


「……シャル、それを見せてみろ」


「あ、はい」


左腕を差し出すと、ジルベール様は腕輪を確認するように見る。

そのまま魔力でねじまげるようにしてパキリと割った。


「え?」


腕輪を壊した?

どうしてと思ったが、ジルベール様は険しい表情をしている。


「こんなものが混ざっていたのなら気づかないのも当然か。

 シャル、これがなんだかわかっていたのか?」


「これは魔術が使えない代わりに身を守ってくれる魔術具だと」


「渡したのは後妻か?」


「はい、そうです。お義母様からです」


あれはドリアーヌが生まれてすぐだったと思う。

私は黒色だから魔術を使ってはダメなんだと。

私を守るためのものだから身につけなさいと言われた。


「これは身を守る魔術具ではない。魔力を放出させるものだ。

 罪人などにつけるものだといえばわかるか?

 これがあると魔力が貯まらないから、魔術も使えなくなる」


「……罪人?」


「ああ。魔術を使って犯罪をおかした罪人につけるものだ」 


ずっと身につけていたものが罪人がつけるものだと言われ、

そこまでお義母様に恨まれていたのかと思う。


「シャルの魔力が増えなかったのは腕輪のせいだ。

 それと精霊がずっと近くにいたのもこのためだろう。

 普通は魔力が漏れ出すのは幼い時だけだが、

 シャルはずっと魔力を放出している状態だった。

 精霊にとっては居心地がよかっただろうな」


「あぁ、そうです!精霊さんを見ました!」


「見た?」


「一度、身体から離れたんです。

 それで、また吸い込まれるように身体に入っていって」


「あぁ、精霊が分離したから魔術具も離れたのか。

 そうか……この腕輪を取り除けてよかった。

 まさか魔力制限の腕輪が混ざってるなんて思いもしない。

 解析するにしてもかなり時間がかかっただろう」


よほどめずらしいものなのか、

ジルベール様は壊れた腕輪を持ち上げて観察している。


「おそらくドリアーヌともう一人の令嬢、

 侯爵夫人で上級魔術師でもあるシャルを殺そうとしたとなれば、

 最終的な処罰はどうであれ、

 このような魔力制限をかけるものをつけられるだろう」


「ドリアーヌたちに魔力制限を……。でも、そうですよね。

 あんなふうに魔術で殺そうとしてくるなんて」


「処罰が決まれば、院長が腕輪を作る。

 もう二度と魔術を使えないように」


「それがいいと思います」


魔力制限の腕輪……ずっと身につけていたものが、

そんな恐ろしいものだとは思わなかった。

分離できて本当によかった……。


身体の大きさは戻ったけれど、半分しか解呪できていないと言っていた。

魔術具が取り出せたのなら、あとは精霊だけかもしれない。


「精霊と分離できたら、元に戻りますか?」


「戻ると思う。精霊は自分の意思で出てこれるのだろう。

 シャルが呼べは出てくるはずだ」


「出て来てくれますかね……精霊さん、出てきてください?」


自分の身体に向かって呼びかけてみると、

にゃあんと鳴いてひざの上に黒猫があらわれる。


「わ、本当に出てきました」


「あぁ、やっぱり猫型の精霊だったか。

 シャルの魔力を取り込んだからこれだけはっきり見えるのか」


「普通は違うんですか?」


「ああ。これなら魔力がない人間にも見えるだろう。

 それだけ力をもった精霊だということだ」


「そうなんですね」


力がある。そう言われれば、ドリアーヌに殺されかかった時も、

今日も私を助けてくれた。

まだお礼を言っていないことを思い出し、そっと背中を撫でてみる。


「精霊さん、何度も助けてくれてありがとうございます。

 おかげで死なずにすみました」


「そうだな。俺からも礼を言おう。

 シャルを助けてくれてありがとう」


「にゃああ」


どういたしましてと言った気がする。

ずっと一緒だったからか、なんとなく感じるものがある。


また精霊さんは身体の中に戻るのかと思ったら、

するっと透き通って馬車の外に出て行ってしまう。


「あっ。精霊さん?」


「今はシャルを守らなくても大丈夫だと思ったんじゃないか?

 そのうち戻ってくるよ。

 シャルの魔力は美味しいだろうからな」


「戻ってくるんですね。よかった」


このままさよならはさみしいと思ったけれど、

また戻ってくるのなら散歩に行ったと思えばいい。


屋敷に着いて、思った以上に疲れているのに気がつく。

朝からあんなことがあって、卒業式もあった。

疲れて当然かもしれない。


「シャル、少し眠った方がいい。

 初めて魔術を使ったんだ。

 その反動で身体に負担がかかっている」


「そう……なんで……すね」


もう目を開けていられない。

ジルベール様に抱き上げられて部屋まで連れていかれ、

そっとベッドに降ろされる。


ふわふわの枕に頭をのせたら、もう限界だった。

すぐさま夢の中へと落ちていく。



夢の中で、私は三歳くらいの大きさだった。

あぁ、腕輪をつけた後くらいだ。

大きな腕輪を落とさないようにおさえながら歩く癖があった。


にゃあとどこからか声がして、見たら小さな黒猫がいた。

窓も閉めたままなのに、どこから入り込んだんだろう。


抱き上げると、手をざりざりとなめてくる。

ちょっと痛いけど、毛がふわふわして気持ちいい。


部屋の中で飼えるだろうか。

私は屋敷の外に出たらいけないというのなら、

猫を飼うくらい許してくれるかもしれない。


そのまま猫を抱き上げてお義母様の部屋まで行く。

お義母様は部屋に来たのが私だとわかると、

めんどくさそうにドアを開けた。


「いったい何の用なの?」


「あ、あの。この猫を飼ってもいいですか?」


不機嫌そうなお義母様におそるおそるお願いする。

機嫌がいい時に来ればよかった。


「は?なに、この猫。黒猫じゃない!

 あなた魔女にでもなるつもりなの!?」


「ち、違います」


「早く外に出して!

 あぁ、屋敷から出ていくところなんて見られたら大変。

 今すぐ殺してしまわないと!」


「え?……殺す?」


この小さな猫を殺す?黒色だから、殺さなきゃいけないの?


「誰か!早く来て!」


お義母様は自分で殺すつもりはないようで、

家令や侍女を探しに行った。


それを見て、急いで黒猫を窓から逃がした。


「ここから逃げて!早く!

 もう戻って来ちゃだめ!

 見つかったら殺されるわ!」


「みぃぃ!」


慌てて窓から外に出したからか、

猫は嫌そうな声をあげて走っていく。


逃がしたことに気がついていないお義母様は、

家令を連れて戻ってきた。


「あの猫は!?」


「あ、あの、逃げちゃって」


「なんてこと!」


お義母様は私の頬を叩くと、

家令と一緒に庭の方へと向かった。


ジンジン痛む頬を押さえながら、自分の部屋に戻る。

猫が飼えなかった悲しみよりも、

ちゃんと無事に逃げられたのかどうか気になる。


どうかあの猫が無事に逃げて、

可愛がってくれる人に拾われていますように。



眠りから覚めかけて、

あれは精霊だったのかと思い出した。

きっと見つからないように逃げてって言ったから、

姿を隠してそばにいてくれたんだ。


ずっと私を守ってくれていた。

ひとりぼっちじゃなかったんだと胸が温かくなる。


そして目が覚めたら、ジルベール様の腕の中にいた。


「……ジルベール様?」


「うなされていた。大丈夫か?」


「はい。昔の悲しい出来事を夢で見ていました。

 でも、もう大丈夫です」


「そうか……もうすぐマリーナが戻ってくる。

 それまではこうしていよう」


「はい」


ジルベール様に髪や背中をなでられ、またうとうとと眠くなる。

毎日こうして抱きしめられて寝ているのに、

その度にこの腕の中はどうしてこんなにも温かいのかと思う。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ