24.学園でのもめ事?
次の日から、私の席の隣がエレーナ様に変わっていた。
昨日まで隣だった令息は遠い場所に移っている。
「おはよう、シャル様」
「おはようございます、エレーナ様。席、お隣でした?」
「ふふ。変わってもらったの。
シャル様のことを守るって姉様と約束したから。
高位貴族の私が隣にいる限り、手を出させないからね」
「本当に守ってくれるなんて、ありがとうございます。
ジルベール様もマリーナさんも心配性だから、
エレーナ様が隣だって知ったら安心してくれると思います」
「うぅ……朝から可愛すぎ」
「え?」
「なんでもないの。あぁ、ほら、先生がもう来るから」
侯爵家のエレーナ様が隣にいてくれるおかげで、
他の学生たちはうかつに近寄れないようだった。
それでもエレーナ様と楽しく話をしていると、
近くに座る令嬢たちは私とも話をしてくれるようになった。
一度話をすれば気が楽になったのか、
前に座る子爵令嬢のミラ様がたくさん話しかけてくれる。
いろんなことを答えたら、安心したように笑う。
「シャル様って魔術師なのに話しやすいです」
「魔術師って、どんな印象なんですか?」
「え?そうですね。恐れ多い感じでしょうか。
ジルベール様はお美しいですし、
令嬢には特に厳しいと有名な方ですから……。
シャル様は怖くないのですか?」
「ジルベール様が怖い、ですか?
すごく優しいですよ?」
最初はからかわれることもあったけど、
あれも私の怪我を心配していただけだった。
何か変化があっても対応できるように、
今も抱き上げられて運ばれるし、
夜も抱きしめられて眠るし……と思ったところで、
眠る前に何度もキスされたのを思い出した。
婚約したことを知ってから、
ジルベール様は少しおかしくなってしまった。
二人きりになるとすぐにキスをしてくる。
昨日も眠るまで数えきれないほどキスをされて、
ふにゃふにゃになるほど……
思い出してたら顔が熱い。
それを見たエレーナ様とミラ様に笑われる。
「シャル様、何を思い出したの?」
「な、なんでもないんです!本当です!」
「ジルベール様が優しいのはシャル様相手だからでしょうね」
「私もそうだと思うわ。
シャル様はジルベール様にとって特別な方なんだもの」
特別って、そうなのかなと思う。
どうして私が婚約者なのか聞けないでいるけれど。
私だけが特別ならうれしいと思ってしまう。
二日目の学園も楽しく終わり、
午後は魔術院でジルベール様と過ごす。
屋敷に帰って夕食を取った後、
のんびりしていたらマリーナさんが報告があるという。
「報告って、もしかしてドリアーヌたちのこと?」
「はい。シャル様が授業を受けている間に調べてきました。
ジルベール様の従妹シルヴィ様が婚約者だという噂は、
数年前から流れていましたが、
この夏あたりから別な噂が追加されました。
それがジルベール様はアンクタン家の令嬢と婚約したという噂です」
「シルヴィの方は知っている。
叔母がお茶会で広めていたらしいな」
「はい。ですが、数年たっても婚約したという話にはならず、
嘘なのではないかと思われ始めていたところ、
アンクタン家の話が出てきたので、
そちらを信じている者のほうが多いようです」
「まぁ、事実だからな。
だが、意外だった。
あの伯爵が婚約の話をするとは思わなかった。
最後まで隠そうとする気がしていた」
「私もそう思います。
私の存在を知られないようにしていたのに、
噂になるくらい話すだなんて。
婚約相手がジルベール様だからでしょうか?」
私のことが知られてもかまわないから、
ジルベール様と親戚付き合いをしたいということなら、
理解できなくもない。
これから婿になってくれる令息を探すだろうし。
「残念ながら、噂の出どころはロジュロ侯爵家の使用人です」
「は?」
「え?使用人?」
「ジルベール様、ロジュロ侯爵家に最後に行った時に、
シャル様のことを話しませんでした?」
「そういえば、言ったな。
アンクタン伯爵家の長女と婚約したと」
「それですね。
盗み聞きしていた使用人が話したのでしょう。
おそらく他家のスパイがいたのかと」
他家のスパイ?
ロジュロ侯爵家の屋敷にジルベール様が帰らなかったのって、
そういう理由もあったのかな?
「お二人とも、のんきなことを言っている場合ではないのです。
学園では、その相手はドリアーヌ様になっていますよ」
「はぁ?どういうことだ?」
どうして相手がドリアーヌに?
考えられるとしたら……。
「もしかして、ドリアーヌが自分で言ってるの?」
「質問されて、そうだと答えたようです。
それで学園内でシルヴィ様と言い合いになっています。
どちらが本当の婚約者なのかと」
「えぇぇ。どちらも違うのに言い合いになるの?
きっと、周りはどちらかが本当だと思っているんだよね?」
「そうでしょうね。
だからこそ、学園内はシルヴィ派、ドリアーヌ派、中立派にわかれています。
遅かれ早かれ、シャル様のところに誰かが聞きに来ると思われます。
ジルベール様どういたしましょうか」
「そうだな……。
いずれわかるとでも答えておけばいいんじゃないのか?」
「それでいいんですか?」
「シャルだとわかったら、何かされるだろう。
卒業までは放置しておけばいい。
恥をかくのはそいつらだ」
「……それもそうですね」
残念ながら、長年ジルベール様を困らせてきた従妹さんも、
私を殺そうとしたドリアーヌも、助ける理由なんてなかった。
嘘をついて困るのは自分たち。
噂が広まった後で嘘でしたなんて。言えないよね。
特に、あのドリアーヌなら言わないはず。
婿入りしてくれる令息、見つからないだろうなぁ。




