⑤自分の現在地
チヒロとジュナは、戦地へと辿り着いた。二人は想像していたよりも想像を絶する程の血の匂いと戦闘にあっけに取られた。これは国が亡ぶか、滅ばないか。いや魔族に滅ぼされるかどうかの渦中なのだ。
「何だこのガキは、おい、おい! 止まれって!」
チヒロとジュナは、指揮を執っている者へ挨拶に行こうとした。しかし、チヒロは遠目からでもわかるように、多くの女性が魔物に倒され、殺され、食べられ、蹂躙されているのが見えた。その瞬間頭が真っ白になり、身体強化を自身にかけて、戦地に飛び込んだ。
【グリース】
ありったけの魔力で、前衛から、後衛までいるすべての魔族を拘束した。自身の持っている魔力では足りなかったため、せっかく先日受け取った魔力の5分の一を消費した。
「何だこの少年は」
前衛で指揮を執っているビースト混合種のレッドテイル一族の【アカミ】は、ここぞとばかりに爪で、魔族を引き裂いた。それを見た仲間たちも次々とチヒロが拘束した魔族を殺戮した。後から追ってきたジュナは、大剣を背にしたまま、落ちている剣を広い、笑いながらレッドテイルをはるかに上回るスピードで切り裂きまくった。
『ジュナ、強い。それにしてもあの大剣は使わないのか? 』
チヒロは、そのままの勢いで、斜め上にいる、まるで玉座にいるような長とはっきりわかる魔族を倒しに向かった。玉座を固めている上位魔族たちはチヒロの拘束魔法をぶりほどいていた。
「ふん! 何だあの小僧、面白いじゃないか」
ひと際強そうな魔族は、チヒロに興味を持ち起き上がった。こいつは、魔王直属配下の【デモン】で、7人いる魔神の一人だった。【マゼランダ】陣営にいた強そうなメンバーが動いていないのもこいつが理由だとすぐに察した。おそらく30人くらいいる各国から集まった屈強なメンバがそれぞれ万全な状況で戦いを挑んでもこいつには勝てない可能性が高い。そのため、下手に動いて一ミリでも戦力を失うわけにいかず、レッドテイルのみが動いていた。各国から集まった屈強な30人と言っても強さはバラバラで、一人だけ群を抜いて強そうな人がいるのは魔力量でなんとなく分かった。そいつはチヒロの動き出しを確認するとすぐに行動に移した。
「少年、名は?」
「チヒロです、あなたは?」
「マゼルという。君は一体……いや、ありがとう。手前の魔族は任せてくれ」
チヒロは、この人の名を師匠から聞いたことがあり元弟子と言っていた。マゼルの唇からは口内のほほを噛みすぎて血が出ていた。この状況に苦しんでいたのだろう。そしてチヒロの強さを瞬時に理解したようだ。そしてジュナも上位魔族の前で、合流した。
「ありがとうございます。では」
「チヒロ、わたしは? てか私の大剣がなんか話しかけてくるんだけど」
「ジュナ、それは自分でどうにかって……なんなのその剣、よだれ出てるけど」
「ちょっと、きもいよね。昔から私と出会ってからずっと離れなくてさ、重くて役にも立たないし、なんか今、初めて聞いたんだけど、何かしゃべっているみたいなの」
大剣は、よだれを出しながらずっと何か言っている様子だった。それとは別にずっと構えていた陣営のみんなもマゼルが動いたことで、一斉に動き出した。レッドテイルのみんなも息を吹き返した。押されていたものの決して弱くない。拘束されている魔族を殲滅し始めた。
「ジュナごめん、いまはそれどころ――」
その瞬間、デモンが飛び降りてきた。
「随分、余裕そうだな。こんな人間久々過ぎて。 いや、いなかったな!!!」
デモンは、話しながら殴りかかってきた。打撃は地面をえぐり取った。チヒロは、瞬時にためていた魔力の5分の3を開放した。出し惜しみはできないと判断した。
『一気にいくしかない』
【イカヅチ】
チヒロは、デモンの苦手そうな雷魔法で中枢を叩いた。この前のイカヅチとは比にならない威力だ。それもそのはず、身体強化魔法が上乗せになり、さらに魔力増加により威力がはるかに違う。それでもデモンは少しひるむくらいだった。
「ほう。雷か。お前、見えるのか?」
魔族のタイプが見える人間は多くない。そのうちの一人がチヒロだった。
「そんなに、効いていないのか、だったら」
チヒロは、悔しさでくじけそうになったが、2年間貯めた魔力を全開放することに決めた。
『ここで負けていてはそもそも話にならない』
【ライデンライコウ】
雷魔法の中でも最上級の威力を誇る魔法で、今持っているありったけの力でめり込ませた。デモンは逃げきれずに、両手で受け止めた。それでも勢いは止まらず、足まで使って止めようとした。しかし、チヒロの力はそれを上回りデモンの体を貫いた。
「勝ったか?」
デモンは、その場に倒れると思いきや胸に大穴をあけてもなおこちらに向かってきた。
「まじかよ!!」
チヒロは、慌てた。急いで距離を取ろうと移動したが足がもつれてしまった。久々に身体強化魔法をつかったのでまだ純分に慣れていないのが原因だった。急いで防御魔法を付与し体を守った。しかし、守り切れず、遠くに飛ばされてしまった。起き上がり、残ったかすかな魔力を練り直しイカヅチをもう一度、デモンにぶつけた。デモンはにやけた。
「お前、雷魔法そんなに得意じゃないだろ?前になその技を食らたことがあるが、そいつの方が痛かったぞ? 」
そんなことを言った後に、デモンは膝をついた。虚勢が混じった言葉だったのだ。自身のダメージを再認識し、死を感じた。戦闘を続けるより逃げることへ意識が向かいだしていた。その時後ろから大きな恐怖を感じた。
「いただきまぁ~す!!!!! 」