50
「うおおおおおっ!!!」
「やかましいですよ、あなた」
「だって、だって!!! 可愛い娘がぁぁあ!!」
美しいステンドグラスが、陽の光を受けて室内を明るく照らす。皇族の結婚式を執り行うこともある、由緒正しい教会。今日は、私とレイフ様の結婚式。将来を共に誓いあった私達は、列席してくれている家族や貴族たちに見守られながら、指輪を交換したところ。
最前列に座るお父さまの大号泣、横に座るお母さまがすかさず鋭いツッコミ。そしてその隣のイアン兄さまは、見なかったことにしたのか、ニコニコと笑顔で私達を見ている。
「まーたやってる〜」
呆れたような声で、ハンカチを押し付けたのはイーデン兄さま。シリル兄さまも、お父さまのあまりの泣き顔に頬が引きつっている。厳かな雰囲気かと思えば、そうではないが、私達らしく式を挙げられて良かったと思える式だ。
「ユーニス、行こうか」
「はいっ」
皇族の結婚式、それも唯一の皇女の挙式。降嫁するとわかっていることであったけれど、国内に残るので国民たちへのお披露目がある。教会から城へ戻る間はパレードも兼ねているらしく、装飾がたくさん施された馬車で移動。
たくさんの国民が私とレイフ様の新たな門出を祝いに、顔を見せて手を振ってくれる。市などが開かれる広場では、今日のためにお祭り状態だとか。優しい国だなぁ、と外に手を振りながら思う。
城に着いたら、今度は城の庭園に集まってくれた人達へのお披露目をし、ここでようやく私の公務はお開き。皇女としての公務は、これから公爵夫人の公務へと変わっていく。
「レイフ様、あなたに出会えて本当によかった。私の事を、あの時連れて行ってくださって、ありがとうございます」
「そう言ってもらえると、嬉しいよ。無理矢理に連れてきてしまったからな、たまに不安になることが……今でもあるんだ」
「……レイフ様」
私を連れ出してくれたことに、感謝することはあっても、恨むことなんてない。あの場から逃げられるだけの勇気も、力も、何も持っていなかった。誰かに助けてもらえなければ、あのまま使い潰されていたかもしれない。
レイフ様とイアン兄さまに出会ったのは偶然だったとしても、私には運命だ。出会いによって、私の運命がこんなにも開けた。それを、ずっと私はこの人に感謝し、伝え続ける。
あなたのおかげで幸せになれたのだ、と。
「アルも同意してくれるのか」
アルムテアの象徴とも言われるアルビスのアル。以前よりも行動範囲が広くなったらしく、たまに一日不在のことも増えてきた。朝起きてから外出し、夜に帰ってくる姿に、この子の世界も広がったのかな、なんて思う。
アルは美しいその姿で、自由に空を飛び交い、きっと様々な景色を見ているのだろう。私の肩に止まって同じ目線の景色を見てくれることもあり、レイフ様ともなんとなく会話をしているように見えるときもあって。
クーキュ、と首を傾げる様子は、まるでレイフ様は間違っていないよと言ってくれているようだった。
***** *****
大国アルムテア帝国には、神の御使いともされる鳥、アルビスを連れた皇女がいた。その皇女は、ウェイン公爵家へと降嫁した後も、神聖なる鳥を連れて各地を巡り、人々に平穏をもたらした、と言われている。
御使いが側にいるに相応しい、高潔で清廉。神の愛し子、と呼ばれるほど知れ渡り、その人となりは諸外国にも広く伝わるくらいだった。
皇女の側には、ウェイン公爵が必ずいたと言う。寄り添い、時には危険から守り、そして何より皇女を深く愛していた。皇女自身も、彼だけを愛し見つめていた。
いつしか、こんな言葉が聞かれるようになる。
【アルビスを連れた神の愛し子が来ると、幸せになれる】
市井では二人を見た人々が、結婚し末永く幸せに、円満に過ごす夫婦のことを【アルビスが祝福した夫婦】と言うようになり。結婚式にはアルビスの羽の色を模したドレス、装飾品などを身につけるのが主流となったそうな。




