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05

叩かれても、蹴られても、お腹が空いても、何も感情は出さなかった。本当は、痛いし空腹は辛い。でもそういった感情を表に出せば、相手を楽しませるだけだと幼いながらに私は理解していた。お母さまが、なぜ感情をうまく隠せ、と言ったのか。その時になって私はやっと本当の意味で分かったのだ。


「順調に治っていますから、この分だと三日ほどでここを発つことができるかと思います」


「そうか」


私の動きを観察する二人に、内心ちょっと恐怖するが仕方がない。私が可笑しな動きをしないか、心配なのだろう。


「ユーニス、名乗らず申し訳ない。私は、アルムテア帝国皇太子イアン、イアン・アルムテアだ」


「護衛のアルムテア帝国ウェイン公爵、レイフ・ウェイン」


私が二人の側に座ったタイミングで、二人は名乗った。黒髪の男性はまさかの隣国皇太子様。ボルドーの髪の男性は公爵様ときた。雲の上の存在すぎて、一瞬だけ呼吸が止まったような気がする。


「尊き方々の前で、このような振る舞い、どうぞお許しください」


「いい、気にするな。助けてもらったんだ、そんなことは気にしない」


立ち上がってカーテシーを取るが、服装が残念なだけに淑女とは程遠い。服はお仕着せを、繕いながら使っている。私のために新しいドレスなど、選んでもらったことさえもないし、そもそも日常的に着られる服もない。使用人が使わなくなったお仕着せを、捨てられる前に取ってきて大事に着るのだ。


私の髪の毛は銀色だが、暖炉の掃除なんかをすれば一気に煤まみれ。継母とカミラはそれを見て、いつも笑っていた。お母さまと同じ銀色の髪の毛、私に残された数少ない思い出。


「それよりも、ユーニス。ここはエインズワース伯爵領なのだろう? なぜ、俺たちをここへ運んだ?」


イアン皇太子殿下にごもっともな質問を投げられて、正直に答えるべきか迷う。継母と義妹がイケメン好きなので、ゆっくり休ませるにはここしかなかった、とか言えるわけがないだろう。


「あ……え、と……お二人はとても怪我がひどく、屋敷まで運ぶには危険だったのです」


誤魔化せそうな言葉を連ねて、怪我の話に話題を移行していく。酷い怪我だったのは当事者である二人がよくわかっているので、うまい具合に話題の転換はできた。


「たしかに、俺たちはだいぶ深手を負っていた。でもユーニス、君のおかげでここまで回復した」


ついでだ、と思って包帯を替えるように準備を始める。彼らはもう動けるようにまでなっていたらしく、自ら包帯を外してくれた。


最初に交換した包帯は血まみれだったけれど、魔法薬が十分に効いたらしい。今は発見した当初よりも傷が浅くなっている。


「この感じだと……三日言わずに治りそうですね」


二人の状態をそれぞれ確認したが、二人とも同じような感じで治っている。魔法薬の効果が高かったおかげだ。そうでなければ、ここまで回復することはなかっただろうから。


「本当に、感謝してもしきれない。ありがとう、ユーニス」


「俺からも……殿下を助けてくれてありがとう。もちろん俺のことも」


「……いいえ、本当に当然のことをしたまでです。この森は魔物がいますから、倒れている人を放り出せるほど、私は冷たい人間ではないですし」


思ったよりも元気そうな二人は、明日にはここを発つと言う。急いでいる理由があるようで、それならここに押しとどめる必要はない。


「明日、様子を見に来ます。その時の怪我の治り具合で、発つかどうか決めてください」


「ああ、わかった」


私には、まだ行かないほうが良いと止めることはできない。早く帝国に戻らなければならないのだろう、だから急いでいると見た。それなら私は二人が早く、ここを出発できるようにすることが重要だ。


「それでは、お水と食事をここに置いておきます。また、明日来ますね」


お夕飯の分のスープを、昼に食べたスープと一緒に作っておいたので、もう一つの鍋を暖炉の脇に置いておく。水もたっぷり用意したので、困ることはないはず。



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