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「一応、聞いておこうと思うが……その……旧王族たちや、捕縛された貴族たちがどうなったか、知るか?」
言いづらそうにレイフ様が口を開いた。クーデターが成功したということは、悪政を敷いた者たちは例外なく辿る道はほぼ同じ。それは、数ある歴史がすでに証明しているものだ。
「……名ばかりとは言え、辺境伯家の者として育ちました。私には、知る義務があります。どうか、包み隠さずお伝えください」
「わかった」
内容が内容だけに、気遣って濁してくれようとしたのだろう。けれどそれは、私が逃げてもいい事にはならない。何一つ役に立てなかった、エインズワースの名を持ちながら。それならば、私はあの国の辿った未来を、正しく知る必要があるのだ。
「まず現国王含む王族だが……」
一瞬だけ顔をしかめたものの、彼は一つひとつ丁寧に話をしてくれた。国王と王妃、皇太子は、新たな国王が開いた国民裁判によって、公開処刑となった。旧王族には、結婚した者や未成年がいなかったため、一番政治に近かったのがこの三人だった。
次に、捕縛された貴族たちも同様に、国民裁判にかけられた。程度によって判決は別れたが、エインズワース辺境伯家のように重税ばかりを課した貴族は、軒並み旧王族たちと同じ公開処刑。重税ではないにしても、生活が苦しいとわかっていながら、改善しなかった者たちは、労役刑となったそう。
「皇太子には、婚約者候補とされたご令嬢が複数いたんだが……」
困ったような表情で、彼は皇太子が夜遊びの激しい割に、慎重な部分があった、と述べる。それを聞いて、言いづらかったから、この表情だったのだと察した。どうも、あの皇太子は連日連夜、部屋に女性を呼んで侍らせていたらしい。
ただ侍らせていたと言っても、相手は高級娼婦。皇太子自身は婚約候補に上がるような貴族令嬢は、好みから離れていた。そのために、あくまでも婚約候補にしかならず、ご令嬢たちは別のご子息と婚約に至った。
結果的に、旧王族と考え方の合わない貴族令嬢たちは、その時点で候補から外れた。彼らに付き合うことのできる、似たような者たちが今回のクーデターで、捕縛対象となったわけだ。
「呼ばれていた娼婦たちは、どうなったのですか?」
「一旦、捕縛はされたが、取り調べで問題ないと判断された者から解放されている」
彼女たちは商売だ。それ以上の気持ちを持って通うことは、ほとんどないだろう。レイフ様が私に言ったように、解放された娼婦はあくまでも仕事として行っている。稀に野心がある者もいるとは聞くけれど、暮らし方が違う時点で、お互いに手を出さない。
娼婦になる女性たちは、事情は様々あれども、美しく聡明であることが多い。王族に呼ばれるくらいになるなら、間違いなく引き際はわかる人。
「王族に下賜されたものを、わざわざ他国で換金して、市井で分け合っていたとも聞いた」
「優しい方々だったのですね……どちらに転んでも危険だというのに……」
王族に好かれていて、金目のものを下賜されるほどのお気に入り。もしクーデターで捕縛されれば、自分たちの身だって危うい。逆に、王族に下賜されたものを売ったと知られれば、処罰は当然免れない。
「市井の苦しさを知っていたから、だろうな。王都の民が比較的、地方よりもまだマシだったのは、彼女たちや娼館の女性たちが遊びに来る貴族から与えられたものを換金していたからだそうだ」
「欲に溺れることは、罪深いですね」
何もかもを知らぬ存ぜぬ、で自分の好きなように生きた代償。告げられた刑罰は、その罪の重さを考えたものであったけれど、国民の怒りがそれで終わるわけもない。
今後、あの国を統治することになる王たちは、此度の件を胸に刻んで王となることが定められた。口ではいくらでも言える、あのようにはならないと。実際にどれだけ民を思い、国をより良くしていこうと動けるか、国民は見ている。
いや、国民だけじゃないか。周辺国だって、統治者が愚かでないかを見ている。それは戦という火の粉をかけられないため、また自国を巻き込まれないようにするために。
私はリリムの生まれだけど、アルムテアに皇女として迎え入れてもらえた。母が皇女だったから。そして、私には皇位継承権は第四位と低い。すでに皇太子として、イアン兄さまが立太子されているし、第二、第三皇子もいる。
皇女である私に求められるのは、皇位を継承することよりも他国との繋がりを強くする外交力。ただ、それは私のことを外部に嫁がせた場合のみ。レイフ様の元へ降嫁が決まっている現在なら、兄さま達のように国も民も守ることが義務。
「私も、今度は守ります」
「俺も国を守る臣下として、ユーニスの伴侶として、取りこぼしたりはしない」
もうあの頃の私とは違って、力も立場もある。道を踏み外さないように、己を戒めて歩いていくのだ、レイフ様とともに。




