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「お目にかかれる栄誉を賜り、恐悦至極にございます」
へりくだった言い方をするが、胸の内が隠しきれていない。明らかに私に取り入ろう、という魂胆が丸見えすぎる。貴族としては有力と数えられているが、この貴族はいわゆる成金貴族。主要な貴族の中には、金で爵位を得た家系もあれば、過去に武勲などの功績を立てた報奨として叙爵され今に至る家系も。
アルムテア帝国では、古くから皇室に仕える貴族もあるが、全体数としては半分。もう半分は叙爵されて爵位を得た家系と爵位を買った家系になる。中には成金貴族を嫌う者もいるらしいが、半々となるとそう考えるのも少数派のようで、そこまで顔を顰めて嫌がるような貴族は見たことがない。
今回、目の前でヘラヘラと笑みを浮かべるのは、とある伯爵家の当主。横には何かを持って控える従者。伯爵はどうやら貢物を持参したようだが、私はそう言ったものは受け取らない。すでにレイフ様の婚約者として発表されている身で、別の家の男性からの物を受け取る行為はいいことではないから。
それが家からであって、個人からの贈り物というわけではないにしても。また、家からの贈り物というのも、どういう意味があって贈られたのか、きちんと双方に正しい意図が伝わらなければ、トラブルの元。
「伯爵、お気持ちだけいただいておきます。して、何か急ぎの要件があったのでは?」
「え」
思った反応を得られなかったのか、一瞬だけ顔が強ばった。ああ、喜ばれると思っていたのか。もしそうなら、少し駆け引きは苦手なタイプ。だから勝ちそうな陣営に所属し、特定の派閥に属さない。海藻、と揶揄されるのにも理由はある、と言うわけか。
「わたくしは、今後の伯爵家の更なる発展を期待しております。あなたには、見極める力がもっと隠されているはず……あとは、おわかりいただけますね」
「し、失礼いたしました。殿下の寛大なお心遣い、深く感謝いたします」
駆け引きは苦手で、影響力のある家へと流れ歩く野心家だとしても。ちゃんと引き際はわかるらしい、サッと顔色を青くした伯爵は足早に退出していく。私がここにいると知っている理由を問われたら、己が不利になると悟ったからだろう。何せ、行動が秘匿されている皇女が、ピンポイントで今日この日に。城に滞在すると知っているなんて、普通はありえない。
「失礼いたします、第二皇子殿下がいらっしゃいました」
「もう、そんな時間でしたか。すぐに行きます」
やっと一息つける、と自室のソファに深く腰掛けた時だった。今度はイーデン兄さまが来たらしく、また侍女が声をかけてくれる。つい先日、文官に扮して各地を巡り。様々な状況をアランとともに学び、時にアランからも学んで。そのままの足でお父さまとお母さまには、見てきたことの全てを報告し、課題点なども同時に耳に入れておいた。
そうやって全てを終わらせる頃には、かなりの遅い時間であったが、帰ると知らせていたからレイフ様も待っていてくれた。玄関をくぐると同時に、安心した表情の彼にギュッと抱きしめられて、私もようやくホッとできたのだ。道中ではアランが身辺警護についてくれたおかげで、全く心配はなかったけれど。張り詰めた精神を帰宅して初めて自覚したが故の、安堵。
大切な人が帰りを待っている、そう思うと絶対に無事に帰るんだ、という気持ちにもなった。それに、この視察も成功させる、とモチベーションにも繋がった。成功すれば、私がレイフ様の元へ降嫁するのも、反対は少なくなる。
「ユーニス、おかえり〜」
「イーデン兄さま、ただいまです」
「うんうん、無事で何よりだよ」
「同行してくれたアランや、兄さまたちのお力添えがあってこそです。魔導具のゲートも、とても便利でした」
「あぁ、シリルの案の。あれのおかげで雇用が増えたから、地方に帰りやすくなったって声があったなぁ。あと、魔法を学びたい、って意欲が地方にも広がって学校もできたかな」
「もしや、あの……」
「あ、見てきたんだ。どうだった?」
「少しだけ授業の見学もさせて頂いたのですが、皆さん学びの意欲がとても強い印象でした。地方は識字率なんかも上がった、と教員の方からお話も」
「そっか〜、たまたまの結果だったとしても、良い方へ向かってよかったよねぇ」
のんびりとした口調で、いつものように話をするイーデン兄さま。ただ、その表情は普段のものよりも嬉しそうだった。




